ウルティナ様の事情Ⅱ
「ほんにうちも困ってるんどすゎ~」
ウルティナ様から話を伺った結果、このヤグ=オスロットという神の一方的な思い込み、というかこの神さん、かなりコマッタちゃんな神様みたいなのだ。
元々、『勝負は時の運』の諺があるように(この世界でも同じ意味の諺があるらしい)、時間と運勢は近しい関係にあった。
そこで"上"の方からウルティナ様に、幸運も司るように言われ、ウルティナ様もそれを受諾した。
しかしここから問題がおきる。
幸運は運命の一部分でもあるため、ヤグ=オスロット神の管轄にも大きく関わる。
そこでウルティナ様はヤグ=オスロット神と、その辺りの仕切りを打ち合わせするようになった。
「そうしたらあのオトコ、何を勘違いしたんか、うちが自分に惚れとるんと、思い込んだんどすゎ!」
そう喋るウルティナ様の声色は、心底嫌悪しているのがありありと伝わってくるほどだった。
ウルティナ様もそのウザさに辟易しつつ、それでも仕事の内と我慢しながら、お互いの管轄について一通り打ち合わせを済ませた。
やれやれ、これでもうコイツと会わなくて済むと思っていたが、その考えは甘かった。
このコマッタちゃん、それからは毎日のようにウルティナ様の所へやって来ては、どーでもいいような話を延々として帰っていくようになり、どんどん馴れ馴れしくなっていった。
それでとうとうウルティナ様も堪忍袋がブチ切れて、それでも最後の一線はガマンしてやんわりと『もう来るな、お前とは会いたくない』という意味あいの事を、キッパリ伝えたんだそうだ。
しかし何を思ったのか、このヤグ=オスロット(もう呼び捨て)、自分達は夫婦になったと宣言し始めたのだ!
まあそれで一時は神界?でも噂のマトになり、それを否定するのに、ウルティナ様はかなり苦労したのだそうだ。
それで何とか噂は鎮める事が出来たが、先方はまだ自分の妻であると主張しているらしい。
「アレを主神と崇とるバンパイア族の神殿には、うちが妻神としてアレの横に祀られておるらしいんどすゎ…。」
そう言う彼女の声は、ずいぶん疲れているように聞こえた。
…えーと、それってイタイ人というか、ほとんどストーカーじゃね?
ええー、ほんのちょっと確認に訊くつもりだったのに、まさかの展開!
ちゅーか、ストーカー規制法…なんかあるわけないわな。
また結婚するのに婚姻届が必要ということでもなく、両者が『夫婦である』と言ってしまい、周囲がそれを認めれば事実上の結婚している状態になるらしい。
いわば神界は、『言ったモン勝ち、声のでかいモン勝ち』の世界であるようなのだ。
「あー、この場合、なんて言ったらいいのか判らないですけど…、ご愁傷さまです?」
俺のヘンテコな気遣いの言葉に、ウルティナ様は少し笑ってくれた。
「神様の事に何が出来るかわからないすけど、俺が出来る事なら何でもします。
ですから、えーと、…元気出してください!」
まあヤグ=オスロットならば、ケンカを売ってもいいよねっ!
「おおきにどすぇ。
ほんにあんさんは、気持ちのよろしい殿方どすなぁ。
…せやっ!あんさんがうちと結婚してくれはったら、よろしいんやっ!」
―ぶっ!ナニ言うのこのひとっ?!
「あんさんと夫婦やぁって、皆に宣言したらええんどすゎ!」
「いやいや、何で俺なんすか!
わざわざ俺なんかを相手にしなくても、ウルティナ様なら神様でもっとましなの幾らでもいるでしょうっ?」
個人的にはウルティナ様が嫁になっちゃったら、ステキ過ぎて想像の限界を越えてます!
「正直言いますとなぁ…、うち、あんまり殿方の知り合いなんておらんのどすぅ。
うちから積極的に殿方に話し掛けるなんて、恥ずかしゅうて、でけへんどすし…。」
―ぐはぁぁっ!!
なんだこの可愛い生き物はっ!
見えるっ!俺には見えるぞぅ!
恥ずかしがって頬を染めながら、両方の人差し指をツンツンしてモジモジしているウルティナ様が見えるぅっ!
「うちとはあきまへんかぁ?
うちは別にミールはんや、場合によってはアルキエラと一緒でもいっこうに構わへんぇ。」
―どおぉして、ここでミールとかアルキエラさんまで出てくるんだあぁっ!
つか、【フレンド会話】で良かった!
もし今のを目の前で言われたら(しかも上目使いで)、〇パン三世ばりに跳び襲いかかってた所だった!
ミールの名前が出たので、思わず彼女の方を見てしまう。
彼女の少し心配そうな瞳が見えた。
…うん、ちょっと落ち着けました。
落ち着いて考えてみれば、ウルティナ様が本気で俺ごときに言うわけがないじゃないか。
ふむー、すっかり女神様に手玉に取られてしまったぜ。
一瞬でも、いい夢見させてもらったよっ!
「まあまあ、ウルティナ様。
俺で遊ぶのもコレ位にしてくださいよー。
俺だって、一応は健全なセイ少年(あえてセイの所は漢字にせず)なんだから、しまいに本気にしちゃいますよっ!」
「へぇ?
いや、うちは本気どすぇ…」
「いやいや、もう!
カンベンして下さいっすよー!
それに俺は普通のヒト種族で、ウルティナ様は神様、神族じゃないっすか!
そんなの釣り合うはずない…って、あれ?」
「あんさん、あんさんこそ、勘違いしてはるぇ。
うちは本気…て、え?
どうかしはったんどすかぁ?」
「なんか俺が言った台詞、なーんかどっかで似たようなのを聞いたような…
おおっ!
アルリエータさんが言ったんだ!」
それで思い出した!
アルピーニャさん達が言っていた事を訊きたかったんだ。
といっても、ほとんど聞き取れなかったんだが…。
「…『ショウシンイキ』とか『Lv 300を越えたら』なんたらって言ってたよな…」
「ちょっと!まっておくれやす!
あんさん、今なに言わはりましたっ?」
―あ、ヤベッ!
また俺、口に出してしまってたっ?!
俺の呟きについて問う、ウルティナ様の口調は、先程の甘い感じは全くなくなっていた。
「詳しゅう、教えてもらえまへんやろかぁ。」