暗黒時代Ⅲ
さて、その後『旧魔王領』に逃げた者達がどうなったかというと、暫くは誰も統治出来る者もおらず、混乱が続いていたが、数年後新しい『魔王』が統治者となる。
驚くべき事に、それは勇者の仲間となって魔王軍を裏切った、次代魔王候補の男だった。
彼は勇者達やヒト種族連合のバックアップのもと、混乱していた旧魔王領を一つにまとめた。
実は勇者の提案でこれ以上の討伐はしないと決めていたヒト種族連合軍だが、やはり積年の憎しみや恐怖から『魔王軍は滅ぼすべし』の意見は根強く残っていた。
そこで勇者の仲間でありながら元魔王軍という立場の彼が、『魔王』となることでそれらの意見を言う者も納得させたのだ。
加えて代々の魔王選考者には、ヒト種族からの代表を複数必要というシステムを取り入れる事で、大多数の不安を取り除く事が出来た。
これよりこのエリアは『旧魔王領』から『魔王領』となり、一応独立した半自治国家となった。
―つまりこの世界では、『魔王』も堂々と存在しているのだ!
一方ヒト種族を魔王から解放した青年とその仲間達は、文字通り英雄となった。
最初、勇者の青年を王として推す意見が、圧倒的に多かった。
しかし彼本人が王となる事を断固拒否、すったもんだの末、現在の国家体制になっていく。
まず中原に央都『エルトリア』が古に倣い再建され、その周囲に央都を守護するように、五つの王国が出来上がってゆく。
この五つの王国はそれぞれ闇属性以外の五つの属性に対応しており、央都エルトリアを中心とする巨大な五芒星の魔法陣ができあがる。
こうしてエルトリアは、魔法的にも強力に防御される都市となった。
これが現代版『五王国』である。
大昔の『五王国』、つまり俺がゲームで知っている『五王国』は、中央にエルトリアという宗主"国"があり、その周り東西南北に四つの王国があって『五王国』だったので、名前は一緒でも中身は全く異なるモノなのだ。
央都を護る五つの緒王国には、中央にそれぞれの守護する属性に応じたクリスタルが安置されている。
こいつは勇者の最初から仲間であった大魔法使いと、後に鎖国を解き魔王軍との戦いに参戦したエルフの国、リファーレン(つまりネスフさんの国)の女王によって生み出されたもので、元々は魔王城にかけられていた絶対防御の魔法を打ち破る為に作られたモノなのだそうだ。
「このクリスタルを作り出すために当時の女王陛下は命を落とされました…」
ネスフさんはあまり強く喜怒哀楽を顔に出さないひとだが、この時はとても哀しそうな表情を浮かべた。
どうやらこの当時、エルフの中では魔王軍の方に加担すべしとの意見が強かったのだが、結局それは魔王軍による手酷い裏切りにあうことになる。
「ヤツらは魔王城の守護魔法を唯一破壊できる、女王陛下を殺す事だけが目的で近づいてきたのです。」
同盟をチラつかせてまんまと『迷いの回廊』を突破した魔王軍に、リファーレンもとうとう戦禍に巻き込まれる。
女王があわや殺されかける直前に、勇者一行が駆け付け撃退に成功する。
だが女王はこの戦いで重傷を負い、最期の力をふりしぼってクリスタルを完成させたのだ。
こうして魔王城の絶対防御魔法を破壊したあとも、クリスタルは強力な力を保っていた。
そこで戦後、勇者の仲間の魔法使いがこれを利用して、央都を護る守護結界を完成させる。
「でも逆に言うと、そのクリスタルが一つでも魔法陣から外されるなり、破壊されれば、結界は無くなる訳ですよね?」
俺の素朴な疑問にネスフさんが、苦笑いをする。
―もしかして、そんなことを口にする自体、不敬な事だったかな?
「ええ、その通りです。
元々は各五王国自体が、クリスタルを護るために作られた要塞に、人々が集まって発達した歴史があるのです。」
なるほどねぇと、なりゆきで始まったネスフさんの歴史授業に感心して聞いていたその時、ネスフさんがとても気になる発言を続けて喋った。
「それに五王国には、各属性に応じた強力なドラゴンも、盟約のもとクリスタルを守っているのです。」
―俺は"強力なドラゴン"の言葉に強く反応してしまった。
も、もしかして、それって?
「あ、あのっ!そのドラゴンってどんなヤツなんですかっ?
特に光属性のドラゴンはっ?」
俺の剣幕にネスフさんがびっくりするも、答えてくれた。
「え、えーと、確かプラチナドラゴンの変異種としか…
あっ、そういえば、クリスタルを守護しているドラゴンは、全て単独種で唯一無二のドラゴンと聞いています…が?」
―キッタアァァァッ!!




