暗黒時代Ⅰ
だが俺の質問に、意外な所から返事が返ってきた。
「キミ、そんな事も知らニャーの?
ならウチが教えてあげるニャ!」
ミールは俺に教えれるとなって、ムフーと鼻息を荒くしている。
「キミ、ウチがぜんぜん知らニャいような事は知ってるのに、こんなジョーシキは知らニャーのねっ?」
そう言う彼女の表情は、かなりドヤ顔だ。
…何だろう、ちょっとイラッとしてしまった。
「えーとニャ、ウチらが生まれる1000年くらい前までは、この辺りのほとんどが魔王によってシハイされていたニャーよ!
その悪い魔王が、ずっとみんなを苦しめていたのニャ!
その時代を暗黒時代と言うニャーよ!」
「…ずっとって、どれくらい期間だったの?」
「えーと、300年くらい?」
なぜ疑問形?
「どの時点をもって暗黒時代が始まったとするのか諸説あるのですが、少なくとも約850年続いていたと言われています。」
ネスフさんが助け舟を入れる。
「そう、それくらいニャ!」
まるで自分が言ったかのように胸をはるミール。
つーか、自分が言ってたのとぜんぜん違うじゃん。
「ふーん、んで、その当時ってどんな状況だったの?」
「ニャ?え、えーと…」
焦りながらミールは、ネスフさんの方をチラチラ見る。
「魔王とその配下による力ずくの圧政が敷かれ、多くのヒト種族達が犠牲になったそうです。」
ネスフさんが苦笑しながら答える。
「と、言う事ニャよ!」
「なるほど、じゃあ暗黒時代の前はどんな時代だったの?」
「ウニャ~、そ、それはニャ…」
またネスフさんの方に助け舟を求めようとしたので、俺はわざと彼とミールの間に立って、ミールから彼を遮って見えなくした。
「なあ、教えてよ~!
ボク、常識知らずだから、物識りなミール先生に色々教えて欲しいナ~!」
「…うう~、キミわざとやってるニャッ?
どうせウチは、知らニャーよ!」
そう怒って、俺をポカポカ叩いてくるミールさん。
ああ、平和だわー。
ミールのポカポカで癒されながら、彼女は色々と白状した。
ミールのいた村では、長老達が村の子供達に、読み書き・計算や歴史等を教えていたのだそうだ。
で、ミールはどうやらかなりお勉強が苦手だったらしく、同世代の悪ガキ共とよくサボっていたらしい。
というか、聞いている感じだと、その中のガキ大将だったように思える。
「こ、子供の頃の話ニャよ?
今は違うニャよ!」
なぜか必死に弁明するミールさん。
元気がある方が、俺はいいと思うがなー。
「という訳で、ネスフさん、お願いしますニャ!」
とうとう開き直って、ネスフさんに丸投げしたよ…
「ハハハ、わかりました。
…と言いたい所なのですが、我々エルフは暗黒時代からその前の時代も、かなり厳しい鎖国政策をとっていて、あまり『外側』の事に興味が無かったのです。
…それに暗黒時代の終焉期にあった大混乱に、我が国も巻き込まれていたせいで、当時の資料がかなり散逸してしまったのです。」
ネスフさんは申し訳なさそうにそう言いながらも、自分の知っている範囲で、暗黒時代以前の事を話してくれた。
……そこで俺も半ば予想していた事だが、俺がゲーム『アルカナバースト!』で経験した事は、その暗黒時代以前でもかなり古い時代にあった事らしい。
ネスフさんが語る話の中でも一番古い物語に、やっと俺が知っている名前等が出てきたからだ。
彼の話から推測するに、俺がゲームで知っている時代は、今から少なくとも2000年以上前の事になる。
2000年前ということは、地球でいえば紀元前の話だ。
あっちですら2000年前の事なんて、ほとんど推測でしか語れないレベルなのに、この世界なら尚更だ。
そんな大昔のエピソードを知っていても、どうやらあまり役に立ちそうにないな。
まあ歴史家なんかには、売れるかもしれん(笑)。
「じゃあ最後に。
暗黒時代はどうやって終焉を迎えたんですか?
何か大混乱になるような事があったんですよね?」
俺の質問に、ネスフさんは深く頷いた。
「ええ、我々エルフも含めた全ヒト種族の大反攻が、各地で勃発したのです。」