初戦闘Ⅲ
完全に前面の戦闘に集中していたので、後ろが疎かになっていた。
顔から地面に、突っ込んでしまう。
そして背中に何者かが、乗っかってきた。
同時に首筋の後ろに、生暖かい息がかかる!
「うあぁっ!」
訳も判らず、恐怖から暴れると、一瞬背中の重みがなくなった。
その隙に立ち上がり、振り向く。
するとすぐ目の前に、"グレイウルフ"が牙を剥き出して、身構えていた!
そしてその後方には、十匹近い"グレイウルフ"が、俺にビンビンの殺意を向けていた。
戦闘に熱くなってしまい、ここが『現実』なのを忘れていた…。
ゲームのように、敵はバカ正直に正面からこないのだ。
おそらく、最初の三匹はオトリだったのだろう。
これみよがしに、遠吠えで居場所を教え、獲物がそちらに注意を向けている間に、死角から本隊が襲いかかる、というわけだ。
こいつら、結構頭がいい。
その時、デッキにセットしてあった、"ロックゴーレム"のカードが砕け散った!
―しまったっ!
振り返ると、五匹の"グレイウルフ"に襲われて、"ロックゴーレム"が光の粒子となるところだった。
これで俺を守るものも、居なくなった…。
ゴーレムが消え去るのを見届けると、その五匹も俺にゆっくりと近づいてきた。
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
召喚も品切れてしまい、俺は何も考えられなくなっていた。
"グレイウルフ"たちが、ジリジリと近づいて来る事で、余計に焦ってしまう。
完全に周りを囲まれていて、さっきのように、逃げ出すことも出来ない。
―これで終わりなのか?
あとはコイツらに美味しく食べられ、俺はまたふよふよと天に昇り、またキツネのにーちゃんに、「お疲れ様でした~!」と言われるのか?
いやまて、もう俺は『アレス』の世界に転生してきたんだった。
ならば、あの世の受付もこちらの者になるはずだ。
できたら、美人のエルフのおねーさんなんかがいいなー!
「あら~、狼に食べられちゃったの~?
痛かったでしょうに~。」
とか言われてねっ!
「じゃあ、さっそく次の転生しちゃいましょうか、
そうねぇ~、あなたならスライムなんかいかが?」
…ダメだコレ。
そんな現実逃避をした隙に、正面の"グレイウルフ"が俺の喉笛を噛みつこうと、襲いかかってきた!