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パーミルの災厄

余りにす早い進攻であったため、パーミル急襲をエルトリアに報せる連絡は、『門』を通って行ったばかりである。

そんな状況でオーブを占領されてしまえば、殆ど無防備なエルトリアにモンスターの大軍団が出現する事になる。


もちろんエルトリアは五王国の宗主国であり、その戦力はこの世界で最強クラスのはずだ。

普通に戦えば、間違いなく圧勝だ。


だが一流の武道家でも、いきなり喉元にピタリとナイフを突きつけられた状態から、ノーダメージでかわせるだろうか?

それが全く油断している時なら、尚更だ。


敵の目的が判った時点で、生き残った兵士達はオーブの元に集結、モンスターを必死に食い止めながら、オーブを転移装置から外して街の外へ退却する事を決めた。

オーブさえ敵の手に渡らなければ、ヤツらの目論みは失敗に終わるのだ。


だが敵もオーブを街から持ち出す事を、予想していたのだ。

オーブを載せた馬車が、脱出するのに街を出ようとした先には、予め街の外で身を隠して待機していた敵の別動隊が待ち構えていた。


兵士達は進む事も戻る事も出来ず、前後からモンスターに挟撃されてしまう。


「そ、それからどーなったニャッ?」

ミールが身を乗り出して、ジョシュアさんに続きを促す。

いや、ジョシュアさんって、普段無口だけど、喋ると話し方が上手いわ。

つい惹き込まれて聴いてしまう。


「それが…」

ジョシュアさんが困った顔をする。

「あー、実はその後どうなったか、誰もしらねーんだわ。」

ジョシュアさんをフォローするように、ジェファーソンのオッサンが言った。


「「はあっ?」」

ミールと俺が見事にシンクロしてしまった。


どう考えてもオーブを守る兵士達に勝ち目は無さそうだが、よくこんな話しには、颯爽とヒーローが現れて悪いヤツラを蹴散らすっ!ってな事がありがちかなーと思っていたのだが…。


「『門』は結局使えなくなっていたので、討伐隊がパーミルに到着したのは三日後でした…」

調教した"ワイバーン"に乗った、"ワイバーンナイト"の先鋒隊がパーミルで見たものは、徹底的に破壊された街とその中心にぽっかり開いた大穴だけで、モンスターは一匹もいなかった。


その数日後、近隣から兵力を集めてできた連合軍がパーミルに到着する。

そこでオーブや敵の行方について、徹底的な調査がなされた。

実は幸いな事に、街の住人達の多くは、街から逃げ出せていた。

モンスターの軍団はオーブの確保を第一として、無抵抗な一般人は無視したため、崩落に巻き込まれなかった住人は早々に街から脱出出来たのだ。


しかしその為に街の中でなにがあったのか、最後まで見届けた者は居なかった。

街は完全に破壊され、その中で生存者は一人も居なかったのだ。

「ヤツらが持ち去った、つーのが今ん所の一番有力な説なんだがよ。

じゃあナンでエルトリアに進攻しなかったのか、とか疑問が残るだろ?」


オーブは一対で尚且つ起動装置が無ければ、ただの巨大な宝玉でしかない。

それ自体に、魔力が込められている訳でもないのだ。


「まあちゅー訳で、『パーミルの災厄』の中でも最大の謎でな?

今でもオーブを見つけたヤツは、すっげー報酬が貰えるんだわ。」


結局オーブは今に至るまで見つからず、攻めて来たモンスター軍団はどこの手の者なのか、大穴はどうやって察知されずに掘られたのか、何もかもが謎のまま現在に至るというわけだ。


また大穴は200m近くも直下の縦穴が続いた後、グネグネと蛇行しながら北に向かって延びているらしい。

そこで名付けられたのが、『北への(大)トンネル』という名前だった。


「一説にはずっと北のガレト山脈まで続いているとか、それどころか更に北の魔王領にまでいっているとか、色々と言われていますが、まだ最奥部まで行けた者はいません。」

そこまで行くと、数100Km はある事になる。


「最初に連合軍が探索に入ったのですが、50km 程で断念しました。」

奥に進めば進むほど、強力なモンスターが現れ、あわや連合軍までが全滅しそうになったのだ。

それから数年に一回、大討伐隊が編成され、その度にさらに奥まで進めているが、それでも100Km ちょっとが今の最長記録なのだそうだ。


「じゃあ穴から、そんな恐いモンスターがまた出てくることがあるニャ?」

ミールが不安そうに訊ねる。

だが申し訳ないが、俺はそれを聞いて少しワクワクしていた。

だって、そんな強力なモンスターをゲット出来るチャンスなんすよっ!

テンションもあがるっつーの!


ジョシュアさんがミールの不安を取り除くように、優しい声色で答えた。

「今まで大穴から最奥にいるようなモンスターが、出てきた事はありませんよ。

…ですがこれからも無いとは言い切れません。」

「そういう訳で、"今の"パーミルが出来上がったのさ。」

「「?」」


続けたオッサンの言葉に、俺とミールは二人して頭を傾げた。

「まあそれは、着いてからのお楽しみにとっときな。」

オッサンはニヤリと笑った。

だがすぐ顔を引き締めて、続けて言った。

「それでこういう経緯があるからな、16年前の災厄の被災者は今のパーミルに数多くいるんだ。

そしてその災厄の尖兵となったのが、ブラックナイトというわけだ。」

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