ゴッドブレスⅠ
ゲーム『アルカナバースト!』において目的地までの"移動"とは、ホーム画面の上半分、フィールドイラストをタッチする事である。
一回タッチすると一マス進み、それを規程回数こなせば目的地に到着である。(移動回数は、イベントによって異なる)
その移動中に、時々"落とし物"を拾う事がある。
【薬草】であったり、"晶貨100G"といった大抵は『ちょっとだけお得』なものだ。
だがイベントによっては、"落とし物"の中にイベントアイテムが含まれており、それを規程数揃えるまで延々移動を繰り返す、というモノもある。
そういう"落とし物"の中に、ごくまれに高価なものや、レアアイテムを拾う事がある。
その中に【ジュエルシード】がある。
これは高額換金アイテムで、なんと一つで晶貨1.000.000Gに換金できるのだ。
そしてその【ジュエルシード】を生み出すのが、この川縁に生えていた"ジュエルフラワー"なのだ。
【ジュエルシード】とは、"ジュエルフラワー"から採れる『種』というわけだ。
しかしゲームでは、"ジュエルフラワー"はたった一輪だけしか咲いていなかった。
今日のような群生地など、一度もお目にかかった事は無かった。
…まあ何が言いたいのかというと、メチャメチャ【ジュエルシード】が収穫出来たのだ。
その数、54個(笑)。
もう笑うしかありません。
俺がゲーム時代にこの【ジュエルシード】を拾った回数は、全部で20回も無かったと思う。
もちろん一回につき、一個でだ。
それが今日一日で、その倍以上採れたのだ。
もう笑うしかないでしょ。
実際のところ、この世界でも同じ換金率かどうかは判らないが、ジェファーソンのオッサンの緩みきった顔を見れば、これが高額な物なのは変わらないだろう。
「へへへ、山分けにしたって、半月は大富豪様だぜ。」
―いざという時の為に貯めておくとか、自分の為の投資としてより良い装備を買うとかという考えは無いのね、このオッサンは。
「前に言ってた店、全部おごっちゃるぜ、にーちゃん。」
―シショー、太っ腹、漢だねー!
「…なんのお店だニャ?」
―ふおおおっ!何でもあっりませんっ!
などとバカ話をしていたが、だいたいは皆同じ様に浮わついた顔をしていた。
たぶん宝くじで、1.000万円位当たった感覚なのだろうな。
「…皆さん、今日の事をどう思いますか?」
ジョシュアさんが静かに呟く。
―あー、昼間に言ってた事っすね?
俺の返事に、彼が頷く。
あれから俺も、今日の異常状態について考えてみた。
で、一つの結論に至ったのだが、ジョシュアさんも同じ考えなんじゃないだろうか?
「私はこれを《ゴッドブレス》の影響と考えます。」
ヤッパリ、そーでしょうねー。
この異常事態が起こる前に何かあったっていったら、これぐらいしか思い当たらんものねー。
―隠しパラメーターのLACK の数値が…じゃなくて、"運"の能力が上昇しているという事っすね?
「運の能力…なるほど、そういう考え方も出来ますね。
私は単に運気と考えました。」
ジョシュアさんは、話を続ける。
皆彼の話に聞き入っている。
「ウルティナ様は時の神です。
最初、それ故の効果は、時間短縮化といったモノになると考えていました。
…ですが、時間の短縮は、全員に必ずしも良い結果をもたらすとは言えません。」
「まーそうだよな。
場合によっては、ゆっくり時間が進んだ方がいいヤツもいるだろうしな。」
オッサンが頷きながら、相づちをいれる。
「ええ、そこで思い当たったのが、余り知られていませんがウルティナ様は運命も一部司っておられるのです。」
―あれ?確か別に運命の神様って、いませんでしたっけ?
いかん、たぶん男の神様だったから、あんまり覚えて無い(笑)。
「ヤグ=オスロット様ですね。
不死の一族が主神として祭っており、たしか賭博を生業にする者も崇めていたはずですね。」
博識のスネフさんが、教えてくれた。
そうだヴァンパイア達なんかが、崇めていたな。
ゲームイベントでは直接出てきた事はなく、ヴァンパイア絡みのイベントに、名前だけでてきたんだ。
「はいそうです。
不死族自体が閉鎖的で余り知られていないので、その主神も知名度は低いのです。」
―ふーん、それとウルティナ様がどう繋がるんすか?
「これも余り知られていないのですが、ウルティナ様は、ヤグ=オスロット様の妻神なのです。
つまりこの二柱様は、夫婦神なのです。」
―へえ、あの女神様、結婚してたんだぁ…って、うええええっ!
あのヒト(神)、人妻だったのぉっ!?
「驚く所がソコかよ…」
オッサンがツッコんでくるが、それにかまってる余裕がない。
…うーむ、あのウルティナ様が人妻だったとは!
ゲームでは全くそんな話は出てこなかったしなー。
だがあの色っぽさは、女神様というだけではなく、人妻の色っぽさだったのか。
狐っ娘女神で巨乳、オマケに人妻かとは、なんというハイスペック!
アルキエラさんの兎メガネドジっ娘といい、神様ってヤッパリおそるべしっ!
「アンタは全くブレねーなー。」
ジェファーソンのオッサンが、笑いながら言う。
「ネーチャン、やっぱりコイツと一緒にいると、苦労すんぜ?」
―失敬な!俺がミールにどーして迷惑をかけると言うのだっ!
「もうウチでも解ったニャー…」
―あ、あれ?ミールさん、どーしてそんなジト目で、俺を見るんですか?