アジトから出発Ⅴ
バルストさんによると、"オーク"共の動きが変だったのだそうだ。
バルストさんが剣を振れば、"オーク"は何かにつまずいて態勢を崩してクリティカル、剣を突けば、ちょうど踏み込んできた"オーク"にズブリといった事が、各所で起こったらしい。
一回、二回ならラッキー!で済ませられるが、武器を振り回せば当たってクリティカル、という状態が、全員の戦闘中ずっと続いたのだそうだ。
もちろん俺の【パワー&ガードⅢ】にそんな効果は無い。
ゲームの時は、キャラクターにスキルをかけるなんて事は無かったが、ゲームで言うNPC であるこの世界の人々に、俺のスキルが特別な働きをするとは思えない。
だけどこのスーパーラッキー状態は、決して偶然に起こったモノではないのは確かだ。
「偶然か…」
ジョシュアさんが、呟く。
―何か思い当たる事が、あるっすか?
「…いえ、まだ私の推測ですので、もう少し情報が集まってからお話しします。」
そう言うと、ジョシュアさんは押し黙った。
「おーい、皆こっちに来てくれ!」
"オーク"共を倒した辺りから、先程のレンジャーさんが声をかけてきた。
バルストさん達と一緒に、俺もレンジャーさんの所へ向かう。
「オークのドロップを回収していたんだが…」
そう言って、レンジャーさんが手に持っていた物を見せてくれた。
晶貨:900G
【ポーション 】× 16
【ハイポーション】 × 1
「おいおい、えらい落としたモンが良すぎねーか?」
ジェファーソンのオッサンが、驚いた顔をする。
皆も同じような表情だ。
確かに…
ポーションは"オーク"の通常のドロップアイテムだ。
そしてハイポーションはごくまれに落とす、レアドロップアイテムだ。
俺の【ドロップ確率アップⅢ】が効いていれば、この程度は普通だが、"オーク"を倒したのはバルストさん達だ。
俺のスキルが作用しているとは思えない。(実際、俺は"オーク"のカードを手に入れてない。)
だがそうなれば普通のドロップ確率は俺の10分の1程度になる。
普通ならばポーションが1~2個程度で、ハイポーションなどは100匹倒して1~2個手に入ればいい方だろう。
話は少し逸れるが、俺以外の人達がモンスターを倒すと、俺の時のように光の粒子になって消えず、色を失った砂の様なモノになった。
それも少し時間が経つと、煙の様に消えてしまった。
そしてその後に、晶貨とドロップアイテムだけが残るみたいだ。
もちろんカードになる事など無い。
後でバルストさんに聞いたのだが、この世界のモンスターと通常の生き物の区別は、ここで分けているそうだ。
通常の生き物は、普通に血を流して死ぬので、当然晶貨やアイテムを落としたりしない。
「"運"が良すぎますね…」
ジョシュアさんがまた呟く。
『運』の所を強調したように言ったのは、気のせいだろうか?
「とにかくここで話していても、ラチがあかない。
当初の打合せ通り、晶貨とアイテムは街に着いたら山分け、回復アイテムは場合よっては戦闘中に使用する、これでいいな?」
バルストさんが念を押す。
皆が頷くのを確認すると、バルストさんはこの疑問を棚上げするようだった。
バルストさんはスネフさんと頷き合い、皆に出発を促した。
―なんだろう、今日は朝から変な事ばかり起きているな。
「そうなのかニャ?
ウチは戦わなくて、ホッとしてるニャ。」
ミールは弓矢を矢筒に戻しながら、俺の独り言に答えてくれた。
そういや彼女は狩人といっても駆け出しで、村にいた時はこんなモンスター戦などはした事が無かったと言っていた。
さっきまで、随分と緊張していたんだろう。
―まあこんな変な事は、そうそう無いだろうしな。
後はノンビリ行けるさ。
彼女の緊張をほぐすように、俺は軽く答えてやる。
「うん、そうだニャ!」
ミールも落ち着いたのだろう、頷いて"シルバーウルフ"の背にまた跨がった。(歩こうとしたので、俺がまた乗るよう言ったのだ)
》
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…結果から言うと、今日はその後も、"変な事"が続きまくった。
今はもう夜だ。
夜営地を決定し、夕食を食べ終わり、眠る前のミーティングの最中である。
"変な事"とは、モンスターの襲撃が、バカみたいに多かったのだ。
それはもう、一時間位に一回は襲ってきた。
まずは俺の戦果から見てもらいたい。
晶貨:1.450G
【ジャイアントバット】× 21
【コボルト】× 11
【オーク】× 3
【ヒュージスパイダー】× 12
【ヒュージキャタピラー】× 3
【皮膜(良質)】× 21
【ハイポーション】× 3
【虫糸(良質)】× 12
【魔法の牙】× 3
"ヒュージスパイダー"と"ヒュージキャタピラー"は、両方とも人間大の大きさの蜘蛛とイモムシだ。
両方とも糸を吐き出し、獲物を絡め取り、体液を吸いとるモンスターだ。
もちろんバルストさん達も、同じ位の戦闘をしている。
そして先の闘いと同じ様に、武器を振り回せばクリティカルな状態が続いた。
ジェファーソンのオッサンなんかは、最後の方では鼻をほじりながら剣を振り回していた。
そんなオッサンに、モンスターは一回もダメージを与える事が出来なかった。
アイテムドロップも絶賛フィーバー状態が続く。
これだけで、彼らの戦闘何十回分のアイテム収入になっている。
…そして最後に今夜営している川のほとりに、とんでもねーモノがあった。
"ジュエルフラワー"の群生地を発見してしまったのだ。