アジトから出発Ⅳ
複数対象魔法は、文字通りモンスターを何匹かまとめて攻撃出来る魔法である。
光・闇・火・水・風・土の属性それぞれにあり、【魔法/初級】では単体しか出来なかったものが、【魔法/中級】から初めて複数を攻撃出来るようになる。
その中で風魔法はこの【サンダーⅠ】が使えるようになる。
見ての通り、電撃魔法である。
敵一体につき、基本値2000ポイントのダメージをDT 値に与える。(属性やレベル、レアリティー差によって増減する)
ゲームでは戦闘画面にでている敵だけだったが、この世界では範囲魔法というべきものになっている。
半径10mほどの球状の範囲内の敵に、ダメージを与えている。
…でもコレ、範囲内に味方がいたとき、味方も巻き込まれてしまうのか?
"フェンサースプライト"に訊いてみたが、『?、わかんなーい!』との意識が返ってきた。
どうやらカードモンスター達は考えて【スキル】を使っているわけではなく、俺の指示と意識を酌んで半ば本能的に行使しているらしい。
そのため自分の【スキル】といっても、どうやってしているか、本人でさえよく解っていないのだ。
…仕方がない、後でスネフさんにでも訊いてみよう。
彼は、水と土の中級魔法が使えるはずだ。
上空では"ジャイアントビー"が一匹残らず魔法の餌食となり、もともと防御値が低いモンスターだったので、ひとたまりもなく全滅した。
"ビーファイター"と"レッサーデーモン"の出る幕なしである。
《BATTLE END》
《YOU WIN!》
晶貨:21.890→22.430G
ジャイアントビー × 18
【ハチミツ(良質)】× 15
【ローヤルゼリー】× 3
ちょっ!ええっ?
なんだコレ?
【ローヤルゼリー】を三つもドロップした!
しかもそれ以外のドロップアイテムが【ハチミツ(良質)】だって?
以前にも【ローヤルゼリー】は一つ手にいれているが、これは激レアアイテムというべき物で、【ドロップ確率アップⅢ】のスキルを持っている俺でさえ、40体程の"ジャイアントビー"を倒して手に入ったものなのだ。
【ハチミツ(良質)】にしても、数体に一つ位の確率だったはずだ。
このドロップ確率は、異常としか言えない…。
しかしそれを考えている暇は無いようだ。
「ブキィー!」
「ギャァーギィー!」
俺の背後、つまり俺達の進行方向から、騒がしい声が聞こえてきた。
姿はまだ見えないが、カーソルとモンスター名で、すぐ近くまで近づいてきているのが分かる。
オーク N Lv 4
一番先頭のカーソルには、この名称がでていた。
"オーク"は"ゴブリン"と並び、派生種が多い種族だ。
Nクラスだけでも、数種類のものがある。
強さは"ゴブリン"よりはまし、というくらいだが、最上位種の"オークロード"クラスになると、かなりバカにできない。
見た限り、前方の集団は"オーク"ばかりのようだ。
ヤツらは全くこちらに気付いていないらしく、ギャアギャアブヒブヒ騒ぎながら、向かって来ている。
この戦闘はスネフさん達にお任せして、俺達は混乱を避けるため待機だ。
…ホントいうと、戦闘に参加したいんだけどなぁ。
《BATTLE START? YES / NO 》
の表示がでたが、あえて選択肢を選ばず放っておく。
なにも選択せずに戦闘を終えるとどうなるか、いい機会だから見てみよう。
スネフさん達は、弓やボウガン、遠距離魔法の準備を完了している。
スネフさん自身が魔法を使えば一掃出来ると思うが、今回は指揮に専念するようだ。
「ブヒァ?」
その時"オーク"共の先頭一団が、草むらからマヌケ面を出した。
数は六匹、レベルは4か5ばかりだ。
スネフさんが右手で攻撃の指示をだした。
その瞬間まずは【アイスジャベリン】や【サンドブラスト】、【ファイアランス】等の初級魔法が"オーク"共を襲い、それぞれ一撃で倒した。
「ブ、ブギッ?」
残りの三匹は、周りの"オーク"が瞬時に殺られて慌てるが、次の瞬間には眉間に弓矢を射られて倒れていった。
六匹があっという間に倒されると、バルストさん達、直接攻撃の部隊が音もなく茂みに入っていった。
「プギャー!」「オッオッギー!」「ギャブヒー!」
暫くして"オーク"共の悲鳴が各所であがる。
カーソルでしか見えないが、こちら側は誰もダメージをうけて無いようだ。
時間にして、ものの15分程度だろうか、俺の視界には"オーク"のカーソルは一つも無くなった。
少しして、バルストさん達が茂みから全員戻って来た。
だが彼らの表情は一様にして、複雑な顔をしている。
完全圧勝のはずなのに、どこか腑に落ちない様子に見える。
「いったい、どーゆーこった?
にーちゃん、アンタの援護魔法のせいか?」
ジェファーソンのオッサンが俺に問い質してきた。
―へ?俺の【パワー&ガードⅢ】が、おかしかったっすか?
「おかしいつーか、良過ぎるとゆーか…」
オッサンにしては、随分と歯切れが悪い。
バルストさんが、話を続けてくれた。
「攻撃が当り過ぎるんだよ。」
―はいー?