グランドイベントⅡ
ウフィールという名前に、もちろん俺は覚えが無い。
当然、ゲーム時代のイベントで、【ウフィール解放】というものは無かった。
ミールさんに訊いてみたが、やはり知らない名前だそうだ。
後でバルストさん達にも訊いてみよう。
それよりも先ずは、今回のグランドイベントについてミールさんに伝えた。
彼女の将来に、深く係わる事だ。
なるべく詳細に伝えたが、彼女の未来については言葉を濁した。
まずキャラクターカードにあるようなモノが、本当に彼女の将来の姿かどうか確証がない。
それが本当だったとしても、果たして未来を知ることが有益なのか分からなかったからだ。
「…ウチは別にそんな事しなくてもいいニャ。」
あー、たぶんそんな事、言うと思ってましたよ。
だが俺は納得しない。
50年以上も俺の為に人生を棒にふるなんて、俺はぜってー納得しない。
ミールさんみたいな獣っ娘美少女が、こんな不幸にいつまでもつきまとわれていいはずがないのだっ!(力説)
「ウチと一緒にいるのは、嫌ニャ?」
―まさかっ!
もちろん即答しましたよ。
ミールさんは俺のタイムロスゼロの即答に、暫く絶句したあと苦笑した。
「ニャら、そんな危険ニャことしなくても、いいじゃニャいの?
ウチは今、そんニャに苦痛じゃニャいよ?」
そう言って、上目づかいに俺を見る。
―くっ!この娘、素でコレをしているのかっ?
思わず押し倒したくなるやんっ!
ふとミールさんの背後の向こうで、ジェファーソンのオッサンが、がばー!やら、むちゅー!といったゼスチャーをしているのが見えた。
…本当にこのオッサンは、どーしよーもねぇな!
ゴホン、と一つ咳払いをして、オッサンを意識から外す。
そしてミールさんに俺は説得を試みた。
―もし俺と一緒に居てくれるなら、こんな素晴らしい事はない。
涙を流しながら、変な叫び声をあげながら踊りまくるほど嬉しい。(「そ、それほどニャ?」)
だけどもし、万が一、気の迷いで、俺と一緒に居てくれる可能性が砂粒位でもあるなら(「そんニャに卑屈にならニャくても…」)、こんな代償の支払いの為じゃあなくて、ミールさんの本心で一緒に居て欲しいのだ。
―まあぶっちゃけ、俺のエゴ、我が儘だ。
「我が儘…、つまりキミのためって考えていいニャ?」
―そう考えてもらってもいいっす!
ミールさんは暫く真剣な表情で、何か考えていた。
「キミはさっきウチの事を、運命共同体って言ってくれたニャ?」
―はい、言いました。
「つまり、相棒って事だニャ?」
…"相棒"という響きには、どうしても【神輝竜】を連想してしまう。
つまり俺にとっては、"相棒"という言葉はかなり特別なのだ。
ミールさんを見てみる。
…うん、彼女は俺にとって、"特別"だと思う。
俺は彼女に、しっかりと頷いた。
それでミールさんは、何か吹っ切れた笑顔を見せた。
「…ウチ、その試練というのを受けるニャ。」
―よっしゃぁ!
俺は心の中で、ガッツポーズをした。
あのキャラクターカードのミールさん、ムチャクチャ色っぽい衣装だったしな!
本当にそうなるかは判らないが、もしなったとしたら、超テンション上がるじゃないですかっ!
ナマで見れるんデスヨッ?
…こんな不埒な考えばっかりじゃあないんですよ?
ちょっと、ほんのちょーとだけ、期待しているだけですヨ?
「あと、」
再び喋りだしたミールさんの声に、ビクッとなる。
…今回俺、また考えてた事、声に出してないよね?
「ウチの事、キミは"さん"付けで呼んでるニャーね?」
―はあ。
「相棒ニャんだから、ウチの事は呼び捨てで"ミール"と呼ぶニャ!」
―ええっ!
「呼んでくれニャいと、やっぱり試練は受けニャいニャッ!」
そう言って、彼女はプイッと向こうを向いてしまった。
…くっ!なかなかの小悪魔っ娘キャラを、みせてくれるじゃないですかっ!
「ミ…」
俺の発する声に、ネコミミだけしっかりと反応している。
シッポも何かを期待するように、ウネウネしている。
俺の背中は、ダラダラと変な汗が流れる。
「ミ、ミール…」
言ったあと、どっと疲れた気がした。
コレ、慣れるまで大変だわ!
たが俺が言い終わると、彼女はこちらに振り向いてくれた。
その時の笑顔は、本当に最高だった。
「これからよろしくニャッ!相棒サンッ!」
そう言って、右手を差し出してきた。
俺はミールと握手をしながら、彼女の笑顔と手の柔らかさに感動していた。
…こうして俺に、二人目の"相棒"ができました。