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代償の時間

そのあと超土下座とヘタレ発言で、俺の威厳は下げ止まりまで下がった。

おかげさまで、皆の視線はあの畏怖なものから、生暖かいものに変わった。


バルストさんやジョシュアさん辺りは、未だに少々堅苦しい所が残っているが、この人達は元々お堅い人達なのであまり気にならない。


あとジェファーソンさんのオッサンは、一頻り大笑いしたあと、

「いやー、にーちゃんアンタ面白れーわ!」

と言って、俺の肩をバンバン叩いた。

オッサンはそのまま俺と肩を組んで、耳元で囁いた。

「街に着いたら、ビースト族のイイ店連れてやってやるぜ。」

―まじっすかっ!

(なんとなく)ミールさんに見つかるとマズイ気がしたので、思わずヒソヒソ声で返す。

―よろしくお願いします、シショー!

ジェファーソンさんは、ニヤリと笑って離れていった。

うむ、これでからかわれた事はチャラですな!


あとはフリード達がアルキエラさんの神威にあてられて、白目をむいて泡を吹いていたのを見付けて、慌て回復魔法をかけたり(笑)といった事があった。


いまはそれらのバタバタが、一通り終わった所だ。


俺がウルティナ様の所に行っていたのは、けっこう長い時間だったと思う。

少なくとも一時間はいたような気がしていたが、隣にいたミールさんによるとほんの10分程度だったらしい。

もしかすると向こう(神界?)は時間の流れが異なるのか、それとも肉体から離れると体感時間が違ってくるのかもしれないな。

夢って見ている時は長く感じるが、実際には一瞬だとかって話を聞いたことがある。

そんな感じなのだろうか。


今はほぼ真夜中の時間だ。

本来なら交代制で、半分は眠っているはずだが、あんな事があった直後とあって

、皆起きてしまっている。


かくいう俺とミールさんも、焚き火を前に目が覚めてしまっている。

どうせ寝付けないので、ミールさんにウルティナ様に会った時の事を話していた。


その話をしていた所で、俺は神様達に聞きそびれていた事を思い出した。

フレンド会話で訊いてもいいが、ここは本人であるミールさんに訊いてみよう。

―ミールさん、代償の時間って、どの位なんですか?


俺の質問に、ミールさんのネコミミがピンッと立った。

彼女は答えず、じっと俺の指にある"契約の受領印"を見つめていた。

それは俺の左手の薬指の根元を、ぐるりと一周しており、まるで指輪のように見えた。


「…別にキミが受け取る必要は無かったニャのに。」

そう言って、ミールさんは少し苦しそうな表情を一瞬だけ見せた。

彼女がそういう表情をするであろう事は、半ば予想をしていた。

だから俺は、そういった時の為に考えていた対応を実行する事にした。


―それはDOGEZA である!

本日二度目の土下座を、俺は見事なフォームでキメた。

「ニャッ?」

ミールさんが驚いているのが、見えずとも判る。


―ごめんなさいっ!

「ニャッ?なんでキミがあやまるニャ?」


まあ確かに謝る事は別に無いのだが、強いて言うならミールさんの決断に、勝手に首を突っ込んだ事に対してだ。


俺はミールさんに話した。

ミールさんが、俺の重荷になると思って【神前契約】の事を話さなかったこと。

ウルティナ様の所で、【神前契約】の内容を教えてもらって、ミールさんの負担を俺が少しでも軽くしたいと決めたこと。


「でもっ!出会って間もないキミを巻き込んだうえに…」

そう言うミールさんの言葉は、涙声になってくる。


あああ、泣いちゃった!泣いちゃったよっ!

女の子に泣かれた時の対応なんて、俺解らないって!


とにかく必死で無い頭をふりしぼって、彼女に話しかける。


ミールさんみたいな美少女獣っ娘と、お近づきになれるチャンスだと下心満載でしたことなので、そんなに負担に感じる事はない。

むしろ、こんな助平根性な奴と一緒にいる事になるので、充分気をつけて欲しい。

あっ、そうだ!"アルラウネ"あたりに、俺の理性がヤバそうな時は頭を蹴り飛ばしてもらおう!

ちゅーか、俺はなに言ってんだっ?


テンパって何を言っているのか訳が解らなくなっている俺を見て、ミールさんは涙を流しながらも少し笑ってくれた。

その笑顔に俺は、心底ホッとした。

やっぱり女の子は、泣き顔より笑顔っすよ!


―ミールさん、本当に気に病まないで欲しい。

俺はこっちに来て【神輝竜】を探し出すという、デッカイ目標がある。

でもその目標は、デッカ過ぎて何から手をつけていいか解らない位だ。


今までの俺は、実に平凡だった。

大してやりたい事も無かった。

だか"こっち"に来て、俺はミールさんに出会えた。

彼女は妹を助ける為に、全てを投げ出せるような、素敵な女の子だ。

そんな女の子を助ける機会なんて、"前"の俺のいたトコでは絶対無かった。


それになんと言っても、俺はもう代償を受け取ってしまっている。

だから既にある意味、俺達は運命共同体みたいなモノだと思う。

―というわけで、これからもヨロシクお願いしますっ!


というまるで支離滅裂な話を言ったあと、俺はもう一度頭を下げた。


「運命共同体…」

ミールさんは、その言葉を噛み締めているようだった。

彼女は涙の跡を拭うと、真剣な眼で俺を見つめた。


「ウチの代償の時間は、約50年ニャ。」

―っ!

「正確には52年と112日だそうニャ。」

…確かビースト族の平均寿命は、ヒューマン族と同じ位だったはずだ。

彼女の今の年齢を考えれば、ほぼ一生という事になる。


「ビースト族の女の子に、一生付きまとわれるニャよ?

キミに好きな人が出来ても、ウチはそれでもくっついている事にニャるよ?」

―………

彼女が何か言っていたが、俺はその時別の事を考えていて、あまりしっかり聞いていなかった。


「だから最初、キミに知られないよう、こっそりキミを見守る気でいたニャ。」

―ふむ、やはりこれはウルティナ様に、訊いてみるのが一番だな!

ミールさん、ちょっと待って下さいね!

「はニャ?」


俺は早速、ウルティナ様へフレンド会話をおこなった。

「―ふぁい~。

あんさん、ホンマせかぁ(せっかち)どすなぁ。

夜更かしは美容の大敵やさかいに、ウチは早めに寝る事にしてるんぇ。」

―神様でも寝るんだ…

…じゃなくて、夜分に本当に申し訳ありません!

でも急ぎ知らなくちゃならないと思ったんで。

ウルティナ様、代償の期間を短くする方法はありますかっ?


「あ…」

俺が言った言葉に、ミールさんが驚いた顔をした。


「あるぇ。」

ウルティナ様は、アッサリと答えた。

―よっしゃぁ!

俺は思わず、ガッツポーズをとってしまう。


…確かに俺は、彼女の代償に付き合うと決めた。

だがこんな若くて将来のある女の子を、俺なんかに50年以上縛りつけるなんて、あまりにも残酷過ぎる。

そう思って、俺はウルティナ様に減刑ならぬ、"減代償"が出来る方法がないか訊いてみたのだ!


―その方法はどうするですかっ?

俺は勢いこんで訪ねる。


「…それは言えまへんわぁ。」

―っ?

「もうちょっとよぉ言ぅたら、ウチの神殿に来てもろて、ある"試練"を受けてもろぉたら答えられますぅ。

あんさん、この"試練"受けてみはりますかぁ?」


その瞬間、俺の視界の上部に"イベント発生フラグ"の旗が立った。

旗の色は金色、そしてその旗の脇に"1"の数字がくっついていた。


―グランドイベントだっ!

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