一触即発?
一触即発の状況だった。
バルストさん達は、自分達の剣などの得物を既に抜き放っており、スネフさん達魔法使い系の人はすぐに呪文を唱えられるよう、精神統一に入っている。
かたやカードモンスター達は牙などを剥き出しにして、今にも飛びかかろうとしている。
その間は3m程度。
少し踏み出せば、もう攻撃出来る間合いだ!
「うおおいっ!ストップッ!ストッープッ!」
俺は神速で、両者の間に割り込む。
俺を見て、両方から一気に緊張が解けるのがわかった。
つーか、シロウトの俺でもありありと判るぐらい、ヤバい状況だったようだ。
とりあえずお前ら下がっといて、とモンスター達に指示をして、バルストさん達に訳を聞いた。
―何があったんすか?
バルストさんは、剣を鞘に納めながら少し怒ったように言った。
「何が、じゃあないぞっ!
眠っていたキミの周りに、突然モンスター達が現れて、俺たちを威嚇し始めたんだっ!」
―げっ!
「そばにいたミールさんが、いくらキミを起こそうとしても、キミは全く目を覚まそうとしなかったんだよ。
何か心当たりがあるかい?」
これはバルストさんの横に来た、スネフさんだ。
―あー、ちょっと聞いてみます。
俺は後ろに下がらせているモンスターのうち、"アルラウネ"を呼び寄せて、何があったのか聞いてみた。
「るー!るるっー!」
"アルラウネ"によると、俺の身体から魂だか何だかが抜け出たのは、カードモンスター達には判ったらしい。
【カード一覧】の中でも彼らは半ば意識があるようだ。
魂が抜け出た状態の身体は非常に危険なため、俺を守るため自分達で判断して無理矢理出現したらしい。
だが無理矢理現れたのと、俺の意識が無いせいで、敵味方の判別がほとんど出来なくなってしまったのだ。
俺の側にいたミールさんは、微かに味方だと判別出来たのが幸いだった。
だがバルストさん達がどうだったか判別できず、ただ状況からすぐ敵とも判断出来ない内に、バルストさん達の方と緊張度が高まってしまったようだ。
しかし俺も驚いた。
カードモンスター達は、場合によっては自己意思で出現する事が可能なんだ。
また彼らの知識などは、俺の思考から随時読み取っているだけで、俺との魂の繋がりが切れてしまうと、すぐ直前の記憶まであやふやになるみたいなのだ。
「おいおい、大丈夫なのかよアンタ。」
領主組のジェファーソンさんとジョシュアさんもやってきた。
ジェファーソンさんは、俺のパンチを見てから敬語になっていたのに、またタメ口になっている。
二人共まだ警戒しているようで、会ったばかりの時のよそよそしさに戻ってしまっている。
俺は皆に、カードモンスター達の事を説明した。
「ふむ、つまり貴方が気を失うような事があれば、貴方のモンスターが暴走する可能性があるのでは?」
これはジョシュアさんだ。
―いや、それは無いらしい。
あくまで俺の身体から魂が抜け出るような、異常事態の時だけのようなのだ。
「それは間違い無いようですよ。
私の知っているアルカナ使いの方も、よく知り合いの女性に殴られたり、蹴られたりして気を失いますが、一度も今回の様な事は起こりませんでした。」
スネフさんが口をはさんできた。
…てか、なにをしてんのっ、そのヒト?
「ふーん。つーか、アンタ魂なんかで抜け出して、どこ行ってたんだ?」
―いや、好きで行ってたわけじゃないから!
ジェファーソンさんの質問に反論する。
「んじゃ、何なんだよ?」
…さてどう説明すりかな?
転生の事はややこしくなりそうだから、話したくはないしなあ。
とりあえず、ウルティナ様になんか知らないが、『神前契約』で呼び出された事にしよう。
「"獣神ウルティナ"に会った?
ばかな!」
バルストさんが驚いた顔をする。
スネフさんも含めて、皆同じような表情だ。
「『神前契約』は確かに珍しい事ですが、上位神が介入してくる程のモノではありませんよ?」
とスネフさん。
「だいたい『神前契約』の受取なんだろ?
そんなモン、相手の紋章に触って完了じゃねーか。」
これはジェファーソンさんだ。
どうやら『神前契約』の一連の流れは、この世界では一般常識で、目にする事もある位の珍しさらしい。
「アンタ、ビーストのじょーちゃんに抱き締められて、"天国"の夢でも見てたんじゃねーの?」
そう言って、ゲヒヒとジェファーソンさんが笑う。
「ニャッ!ニャに言うニャー!」
ミールさんが、顔を真っ赤にしてジェファーソンさんに怒りだす。
―うむっ!たしかにアレは極楽にいけるかと思いました!
「キミもなに言うニャッー!」
おお、俺にも怒りの矛先が向いてきた。
ポコポコと殴られる。
ミールさんのネコミミはペタリと閉じて、シッポは怒りでピンっと立っている。
―ああ、癒されるぅ~!
「…アンタ、ある意味すげーわ。」
ジェファーソンさんにも、呆れられてしまった。
「いずれにせよ、魂になって、ウルティナの所へ行ったというのは、信じがたいですね。」
ミールさんとのじゃれあいを全く無視して、ジョシュアさんが冷静に言った。
―むう、何か信じてもらう方法は…って、【フレンド一覧】があるじゃないか!
「ちょっと待って下さい!
今、ウルティナ様と連絡をとってみます。」
「はあっ?」
皆、何言ってんだコイツという顔をされたが、一先ず無視だ。
まずホーム画面を念じて出現させる。
【メニュー】キーの中から、【フレンド一覧】を押す。
―あった。
リストの一番最新欄に、今まではなかったウルティナ様達の名前がある。
そこではた、と考えてしまった。
ゲームでは一覧の中のプレイヤーの名前をタッチすると、相手にメッセージを送るための文字入力画面に変わるのだが…。
神様に連絡を入れるのも、チャット会話みたいになるのか?
…考えるのを止めて、とりあえず【ウルティナ】のキーボタンを押してみた。
―トゥルルー・トゥルルー
…って、これ電話の呼び出し音じゃん!
どっから聞こえてくるのっ?
しかも皆には聞こえて無いみたいだし!
これじゃあ俺が、電波さんみたいじゃん!
「はぁい、ウルティナぇ。
さっそく連絡くれるなんて、あんさんもせかぁ(せっかち)やねぇ。」