初めてのフレンド登録
「嫌ですっ!誰がこんな色欲魔獸と!
登録した時点で、妊娠してしまいますっ!」
―アルシェーナちゃんから、おもいっきりディスられました!
こっちが何の事だか訊ねようとする前に、即拒否られたよ!
しかし逆にそのお陰で、一呼吸置くことが出来ました。
いろんな意味で、ありがとうございます!
この場合"フレンド登録"つったら、ゲームの『アルカナバースト!』だよね…?
ゲームでの"フレンド登録"とは、プレイヤー同志が行うもので、互いを【メニュー】欄の【フレンド一覧】内に登録することである。
登録すると、フレンド同志でチャット会話が可能となる。
このゲームのスゴい所は、ゲームのイベント中でもこのリアルタイムでの会話が出来る事にある。
パソコン等の大容量ならいざ知らず、単なるスマホでこれが出来るのは前代未聞らしい。
スマホでももちろん、リアルタイムでの会話が出来るアプリはあるが、圧倒的大多数の参加者とゲーム中にとなると、事実上不可能とされていたらしい。
らしいを連発したが、俺はその辺の所は疎く、この辺の知識はこのフレンド登録した仲間のプレイヤーから教えてもらったのだ。
"フレンド登録"をするメリットは他にもあり、
まず登録者一人につき、行動力ポイントにボーナスがもらえる。
そして最も助かるのが、ボスバトル中に援護攻撃をしてくれるのだ!
一度の戦闘でボスを倒せなかった時、【援護攻撃依頼】のカーソルが出現する。
これにOKすると、フレンド登録している全プレイヤーに、"援護攻撃要請が来ています"のメッセージが送られる。
もちろんその時点で、相手プレイヤーがゲームをしていないとダメだが、ここでも会話機能を使い、参戦をお願いする事が出来るのだ。
援護に参戦したプレイヤーにも、当然利益はある。
ボスにあたえたダメージ量に応じて経験点とアイテムが与えられ、特に特別なイベントでは援護報酬でしか手に入らないカードやアイテムが報酬として与えられるのだ!
また援護攻撃の場合、敵に倒されたとしても、自分のカードが"ロスト"することは無いのだ。
それ故に、何の憂いもなく参戦できる。
ある意味【キャラクターカード】とならび、ボス戦では必須と言えるだろう。
序盤ではソロで"フレンド"が一人も居なくても、なんとかやっていけるが、高レベルでのイベントボスはほぼ不可能だ。
『皆の絆で奇跡が生まれる!』が配信開始時のTVコマーシャルのキャッチコピーだった。
―だが"フレンド登録"は、あくまでプレイヤー同志、つまりカード使い同志だけのものだったはずだ。
神様達と"フレンド登録"が出来るなんて、もちろんゲームではムリだった。
ちゅーかゲームで言ったら、NPC と"フレンド登録"するようなものだ。
「あー、そこなぁ。
実は一人目、二人目のアルカナマスターがこっちに来た時に問題になってるのが判ってなぁ、『お方様』が一部システムを変えはったんどすゎ。」
ウルティナ様によると、俺の前に来た二人には当然フレンドはおらず、強大な敵には随分と苦労したらしい。
俺だっていま【フレンド一覧】にいる100名以上いるフレンドは、もちろん誰も呼びかける事もできない。
これから強大なボス戦は必ずあるだろうと、覚悟はしていたが、その時フレンドの援護もなしで、どうやって戦うか悩んではいたのだ。
―え?
つまり援護要請したら、神様達が駆けつけてくれるの?
マジでっ!
「まあそう言うても、ウチが出張ぅたりしたら、エライ事になりますよってになぁ、基本はアルキエラやアルシェーナがきばってくれはるやろ。」
―おおっ!
アルキエラさん達が参戦してくれるのかっ!
アルキエラさんは、なんか気弱そうなコだけど、曲がりなりにも神様だ。
やっぱり最低でも、SRクラスの戦闘力があるとみた。
そうなれば、かなり頼もしいな…
「わ、わわわ私が地上でた、たたた戦うんですかぁっ?
はわわわー!」
―うん、ダメかもしんない。
―いや!アルシェーナちゃんがいるじゃないか!
彼女はちっこいけど、なんか好戦的な感じだし、期待ができ…
「なにこっち見てんのよっ!
さては視線で妊娠させる気ねっ!
あー、汚らわしいっ!」
―はい、デスヨネー。
…こりゃダメだわ。
「ほ、ほほほ(汗)。
まあいざとなったら、ウチも頑張りますよってに。
それに他の神さんも、ウマイ事やったら"フレンド登録"出来るかもしれんしなぁ。」
―そうか!
この世界には多数の神々がいるんだから、そういう所からも援助をお願いすればいいんだ!
考えてみたらフローディア様は、かなり俺に興味を持ってるみたいだし…
「…せやけど、フローディアんトコはあきまへんえぇ~!」
―はいはいっ、わっかりましたー!
「あと神さんのなかには、援護のお礼に頼みごとなんぞを言うてくるモンもおるやろうし、くれぐれも相手をよぉ見て"フレンド登録"しなはれやぁ。」
―まあそれも"クエスト"としてなら、ばっちこーい!なんすけどね。
「ほなそろそろ、"フレンド登録"してもらいまひょかぁ。」
―あ、そうでした。
で、どうやって登録するんすか?
「簡単どすぅ。
あんさん、もすこしこっちに寄ってくれなはれぇ。」
そう言って女神様は手招きをした。
俺は女神様に、ソファーの上でにじり寄った。
「なにしてはるんどすか、もっと寄っておくれやすぅ。」
―も、もっとですかっ?
俺はさらににじり寄って、お互いの膝がもうくっつき合う所まで近寄った。
女神様のお美しいお顔が、すぐ目の前にある。
「ほな心の中でウチと"フレンド登録"したいと、強う念じておくれやすぅ。」
―は、はいっ!
女神様と"フレンド登録"、女神様と"フレンド登録"…
「あー、すんまへんけど、目ぇを閉じてくれまへんやろかぁ?
さすがにウチも恥ずかしいわぁ。」
―へ?は、はいっ!
俺は急いで目を閉じた。
つか、コレもしかして、ちゅーですかっ?
ちゅーしてくれるんですかっ?
俺の両頬にスベスベの手が添えられ、お顔が近づいてくる気配がする。
―うおー!うおおー!
い、いかん!意識を集中せねば。
女神様と"フレンド登録"!、女神様と"フレンド登録"!、女神様と"フレンド登録"!、女神様とちゅーって、違うだろっ!
てな事を必死に考えていたら、俺の額にコツンと(おそらく)女神様の額が当たったのが感じた。
触れた瞬間、脳にダイレクトにピリッと電気が走ったように感じた。
「はい、出来ましたぇ。」
―え?
……あー、ソウデスヨネー、ちゅーなんかするはずないっすよねー!
自分のスケベ思考に恥ずかしくなる。
こりゃ、アルシェーナちゃんに、エロザル呼ばわりされても仕方ないな。
「ほれ次、アルキエラ、早よぉすましなはれ。
時間ものぉなってきましたぇ。」
「は、はいぃー!」
そう言うと今度は横から、アルキエラさんが寄って来られた。
「あ、あのっ!
私からするのは恥ずかしくて、とても出来ません!
すみませんが、貴方の方からして下さい~。」
そう言って、アルキエラさんはぎゅっと目をつむった。
…おーい、その状態だと、ホントにちゅーするような体勢になっちゃうんですけどっ?
「はわわっ!す、すみません~!」
アルキエラさんは、慌ておでこをつきだした。
女神様と同じように、額が触れ合った瞬間、小さな電撃がはしる。
何だかウルティナ様よりは、弱かったように感じた。
「ふ、ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いいたします~。」
―アカンて!それじゃあ嫁入りデスヨッ?
「最後や、アルシェーナも早よぅしぃ。」
だがアルシェーナちゃんは、余程俺との"フレンド登録"が嫌なのだろう。
少し涙目になって、じりじりと俺から遠ざかろうとした。
「い、嫌ですっ!
こんなのと額を合わす位なら、魔界の番犬とキスした方がマシですっ!」
―そこまでですかっ?
うわー、ちょっとコレ、マジでへこむわー。
「…アルシェーナ…」
女神様の声のトーンが、ガクンと下がる。
うわー、ウルティナ様がお怒りになってる?
「ひうっー!わ、わかりましたっ!」
さすがのアルシェーナちゃんも、女神様のお怒りには敵わなかったようだ。
「なにしてんのよっ!
早くこっちへ来なさいよっ!」
うわっ、とばっちりがこっちへ来た!
俺は急いでソファーから降りて、アルシェーナちゃんの前に立った。
アルシェーナちゃんは、小学生の高学年か中学生位の姿だ。
このままでは、背丈に差が有りすぎるので、俺が片膝を降ろす。
「目をつむってよ。
やりにくいじゃない…」
上目づかいのまだちょっと涙目で、こっちを見つめる。
―こんな風にしていたら、この娘もスッゲー美少女なんだがなー。
そう思いつつ、目を閉じて、同じように"フレンド登録"…と念じる。
―ゴガスッ!
「ぐはあぁっ!」
痛ってえぇぇっ!
あのコ、ヘッドバッドをかましてくれたよっ!
「アルシェーナっ!」
ウルティナ様が声をあげるが、またぴゅーと向こうの柱の陰に逃げてしまった。
―いやー、ここまで嫌われると、逆に清々しいわー。(ちょっと涙目)
まああのようなモンでも、"フレンド登録"は可能だったようだ。
【メニュー】の中の【フレンド一覧】を見る。
ズラリと100名以上並んでいる、フレンドリストの一番最後に三柱の名前があった。
他のフレンドの名前は、暗くなって使用不可となっているが、この三つだけは明るく輝いていた。