神前契約Ⅳ
アルキエラさんの説明によると、『神前契約』の願いは一日に昼夜問わず、数百件は送られてくるそうだ。
それをアルキエラさんと同僚の従属神達(常時30人位居るらしい)が審査(この辺はさすが神様、一瞬で審査内容の詳細を把握出来るらしい)するのだが、審査を通過出来るのはそれだけの数があるにも係わらず、数日に一件有るか無いか程度だそうだ。
神様の所まで届く程の強さが無かった願いは更に多いはずだから、『神前契約』を求める者達の数は実際にはもっと多いはずだ。
確率から考えれば、まさに『神頼み』といえるだろう。
まーそういう難関を通って、ミールさんの願いは無事ウルティナ様の所まで来れたのだ。
それ程、彼女の願いは強かったという事だ。
そしてちょうどその時、俺が比較的近くをうろついているのを知ったウルティナ様が、ちょこっと"細工"をして、俺とミールさんを引き合うよう仕向けたという訳だ。
女神様がしたのは、その出会う為の"細工"だけ。
あとは俺次第だったのだ。
そう考えるとちゃんと救出できて、本当に良かった。
失敗していたらと思うと、今更ながら冷や汗がドッとでてくる。
―あれ?じゃあ、アルキエラさんの仕事は、審査を通してくれた時点で終わりじゃね?
「いえ、私達の役目は、願いの審査だけではありません。
むしろ、『神前契約』が完了してからが大事なんです。」
「私達の役目は審査ともう一つ、契約の履行が完全に成されているのか、監督する業務があるのです。」
つまり願いが叶ったのに、代償を支払わなかったりしないよう、監視・指導する役目も担っているのだ。
自分が担当した『神前契約』が、ウルティナ様の目に止まり契約が完了した時点で、その者は審査役から外れて、契約者達の契約履行状況を見守る作業に専念するらしい。
といっても、あーだこーだと首を突っ込んでくるのではなく、神様の力を使ってこっそりと監視と影響を与えるのだそうだ。
「…でも私達が一番よくしなければならないのは、契約の破棄です。」
そう言ってアルキエラさんは寂しそうに微笑んだ。
破棄するとは、つまりせっかく叶った願いを無効にしてしまう事だ。
ヤッパリ喉元を過ぎてしまうと、代償を払うのが嫌になってしまう者もけっこういるらしい。
そういう者は、なんとかして代償を払わずに済まそうとしたり、逃げたりするんだそうだ。
だが神様から逃れるなんて、『神前契約』が叶うより難しい事だ。
最期は悲劇的な結末だけが残ることになる。
アルキエラさんは、なんとなく優しそうな感じがするひとだ。
たぶんそんな結末を、何度も自分の手で下してきたのだろう。
彼女の悲しそうな微笑みから、そんな事を想像してしまった。
あ、まてよ。
じゃあ、今回のミールさんの場合は…
「…はい、妹さんが助かった事が、無効になります。」
「っ!」
―どうやって、"無効"になるんですか?
いきなり、死んでしまう?
「申し訳ありません。
その件についてはお話し出来ません。
機密事項に当てはまります。」
アルキエラさんが、辛そうに話すのを助けるように、ウルティナ様が言葉を続けた。
「話してしまうと、その対抗策をとる悪智恵の働くヤツが出てくるかもしれんのゃ。
あんさんは、そんな事せぇへんのはわかってんのやけど、ウチも心苦しいんや。
堪忍したっておくれやすぅ。」
―なるほど。
つまりミールさんからの代償を、俺が受け取らなかったら、マーシャちゃんの助かった命が無効になる訳か。
「いえ?別に受け取らなくても、妹さんの命には関係ありませんよ?」
「あらー?」
思わずズッコケてしまう。
せっかくシリアスってたのにっ!
「あっ、あのっ!
ミールさんは既に代償を払っているんです。
契約には代償の支払いが重要で、それを受け取るかは直接的には関係無いんです。
ですから、貴方が受け取らないとしても、妹さんは大丈夫なんですよ?」
―あーそーですかー。
一気に緊張が無くなってしまった。
それじゃあ、俺もう要らなくね?
「普通であれば、左手にある契約印を代償の受取人が触れるだけで、受領が完了するんです。
受け取った証しに、左手の薬指に紋章が現れて終わりなんですが…」
そう言ってアルキエラさんは、女神様の方にチラリと視線を向けた。
ウルティナ様は少し焦ったように言葉を続けた。
「あー実を言うと、こんな所まであんさんが来る必要はあらへんかったんどすぅ。」
女神様は少し迷った顔をしたあと、「まあよろしおすやろ」と開き直ったように呟いた。
「あんさんはな、ウチらの間では、いま注目の的どすねんぇ。」
―ええー、まじでー。
女神様の説明によりますと、俺らカード使いは『お方様』の"地求人の魂お引っ越し計画"(←ウルティナ様が勝手に命名)のテストケースとして、かなり注目されているらしい。
それ故、俺達と何らかに係わると、『お方様』の目に止まったり、一目置かれるチャンスが出来るわけで、特に一旗挙げてやろうとしている神様達は、俺との接点を持とうと虎視眈々と狙っているらしい。
―するってーと、ウルティナ様も?
ちゅーか、いま俺にソレ言っちゃったら、台無しなような…
「ウチは別に『お方様』に取り入ろういう気は、大してあらへんのゃ。」
―あら?じゃあ、何故に?
「あんさんを狙ろぅとるモンに、あのいけすかんオナゴがおるさかい、邪魔したかったんぇ。」
―ええー、まさかの女子バトルに巻き込まれたっ?
「よろしおすか、あんさん、フローディアには係わったらあきまへんぇ!
あんさんみたいなドーテー君なんぞ、あのオナゴにかかったら、頭から丸ごとペロリと喰われてしまいますぇ!」
―どどど、どーてー言うな!
ちゅーか、相手の名前もぶっちゃけてるよこの女神様!
ちなみにフローディアという女神様もゲームに出てきた。
豊穣と出産の神様で、清純そうな爆乳の女神様だったな。
「なにが清純どすか!あのク○ビ○チっ!
ええどすか、あのオナゴはな"ピー"で"ピー"な事を"ピー"しはるんぇ!(一部表現を規制しております)」
その後暫く、ウルティナ様の愚痴?を聞くハメになりました。
あー、アルキエラさんなんか、顔が真っ赤で目がもうグルグルになって、はわはわ言ってるよ。
言いたい事をぶちまけられてスッキリしたのだろう(こっちはたまったモンではなかったが)、ウルティナ様はコホンと咳を一つして、正常に戻られました。
ちゅーか、この二柱の女神様に何があったのっ?
「まあそういう訳で、あのオナゴが手ぐすねひいとる所に転生するあんさんを、ウチがちょっと手を加えて救いだしたいぅ事どすぅ。」
―はぁ、そーでしたか。
―ん?んんんー?
…じゃあもしかして、転生していきなり"グレイウルフ"に食われかけたのは、この女神様のせいかあっ!