神前契約Ⅰ
『神前契約』…
ああっ、そうだっ!
救出作戦のゴタゴタで、すっかり忘れてたよ!
ミールさんが言ってた事を訊ねようとしていて、そのままになってたんだった。
俺の慌てようを見て、ウルティナ様も不審に思ったのだろう。
「おや?もしかして、なんも知らはらへんのどすかぁ?」
そう訊ねてきた。
「いややわぁ、ミール言うあのコ、あんさんに何も言わはらへんかったのどしたか…
ちょっと待っておくれおすぅ。」
そう言って女神様は、その大きな尻尾に手を突っ込むと、銀色の板状の物を取り出して、二つ折になっているそれを開けた。
―つーか、それノートパソコンですよねぇ!
「ああ、これどすか?
システムを管理するのに便利やさかい、こっちでも使わさせてもろてますぅ。」
―うわー、ファンタジーな女神様がマウスをダブルクリックしてるよ…
女神様は暫くマウスをカチカチして、最後にキーボードのエンターキー(らしきモノ)をタッーン!とタッチした。
「あらあらぁ、どないしまひょぅ。
このコ、あんさんに『神前契約』の事、告げんと済ます気ぃやったわぁ。
たぶん、あんさんの重荷になるんが、嫌やったんやわぁ。」
あ、たしかミールさんも「気にしなくていい」みたいな事、言ってました。
「しょうがないコやねぇ。
ほなどうしまひょうか…」
そう言うと、ウルティナ様はその銀色の瞳で俺をじっと見つめた。
…まるで未来を見透かすように。
「―あんさん、あのコ好きどすかぁ?」
「はい、もちろんっす!」
「…ぜ、ぜんぜん躊躇しまへんどしたなぁ。」
ウルティナ様は、俺の返答にまたまた引かれたようにみえた。
しかしあんな美少女獣っ娘を、嫌う訳がないでしょう!
ナニ言ってるんすか!
「…そういう"好き"とちゃうんどすが…
うんまあよろしいやろ。
この位のおバカさんの方が、上手ぁいくもんどすしなぁ。」
―あれ?俺、何気にディスられてる?
「あのコはけっこう苦労しはりそうどすが、それもよろしぃやろ。」
―なにかサラリと言われましたよ?
「ほなあんさん、『神前契約』の事は全く知らはらへんのどすなぁ?」
―はい。
「よろしいどす。
ではウチが説明させてもらいますぅ。
その説明を聞いたうえで、あんさんに決めてもらいまひょぉ。」
そう言うと、ウルティナ様は『神前契約』について話してくれた。
「『神前契約』は文字通り神さんの前で、契約する儀式どすぅ。
あんさんは、ウチらが下界のヒトらに色々と"力"を振るうのは、知ってはりますやろ。」
―神の奇跡の事っすか?
「それも"力"の一つどすぅ。
この場合はヒトの願いによって起こるモンどすなぁ。」
―他にもあるんすか?
「例えば『神罰』がありますなぁ。
せやからウチらを怒らしたらあきまへんぇ。」
そう言って、ウルティナ様はイタズラっぽく俺を睨んだ。
―やべぇ、女神様、可愛すぎるっ!
こういった神様になにか強力な力を求める場合、かなりの高レベルの神官職か、それに類する職業でないとその願いは届かない。
「具体的には"僧侶"なら、最低レベル100以上は必要どすなぁ。」
ではそれ以外の者達が、何とか神様に願いを叶えてもらうにはどうするか。
それが『神前契約』らしい。
「『神の奇跡』と『神前契約』の違いは、代償が必要かどうかという事どすぅ。
神の奇跡には基本、代償となるモンはいりまへん。
その代わり、神の奇跡が叶えられるかは神さんの気分次第になるんどすなぁ。
まあお気に入りのコは、叶えてもらい易いやろなぁ。」
―神官職って、人気商売なんっすね!
「あんさんはけっこうウチの好みどすぇ。
ウチの信者になったら、エエことしてあげますぇ~。」
―まじですかぁぁっ!
はっ!イカンイカン。
お世辞で言ってくれてるのに、真に受けてどーする!
「…わりと本気やったんどしたけど…
まあよろしわ。
ほな本題の『神前契約』のについて、お話ししまひょぉか。」