到着Ⅱ
「『ご覧の通り』私の名前は長ったらしいのでね、できればネスフと呼んでもらえると嬉しい。」
そう言うとネスフさんは右手を出してきた。
あ、この世界でも握手はあるのね。
彼と握手を済ませると、俺は勢いこんで訊ねた。
「俺の他にもアルカナマスターを知っているんですかっ?」
俺の性急な質問に、やんわりとスネフさんは応える。
「ははは、そう焦らなくても後でじっくりとお話しいたしましょう。
それよりも、まずはバルスト殿との話が先では?
私とは、帰りの道すがらでもいたしましょう。
―ではまた。」
そう言うと、ネスフさんは軽くバルストさんと会釈して去っていった。
「…すいません、他にもアルカナ使いがいると知って、すっかり動転してしまいました。」
ネスフさんに指摘され、バルストさんとそれにミールさんの事を、ちょっと失念してしまっていた。
「いや、かまわないよ。
俺も最初、彼がまさかキミのクラス(職業)の事を知っているとは、思っていなかったからな。驚いたよ。
まあお陰で他種族に興味の無い、『森の人』の助力を得られたんだ。
キミの話を耳にしたとたん、向こうから協力を申し入れてきたんだ。」
―『森の人』?聞いたことがないな。
「ああ、この森のまだずっと西にある、エルフ達の国の人達を俺達はそう呼んでいる。
彼らは余所者を歓迎しないので、有名なんだよ。」
なるほど、ネスフさんはエルフの国『リファーレン』の人だったのか。
たしかに『リファーレン』はゲームでも鎖国中だったが、あれからスゴい時間がたっているはずのこの世界でも、ヤッパリ閉鎖的なんだな。
「じゃあすまんが、俺達と別れたあとの顛末を教えてくれないか。
俺達の方もどうして早く戻ってこれたか、説明しよう。」
そうですね。まあ単純に戦って、勝ったという話なんですがね。
俺は今日までの経緯をなるべく簡潔に話した。
そして何より"不死者の王アーザン"の事も、『師匠から聞いた話』として伝えた。
何しろ話が話だ。
ただの人拐いで済まされたら、後々ゼッタイ大イベントになって、俺に降りかかってきそうで怖い。
「うーむ、そんな事を企んでいたとはな。
その事はパーミルに着いたあと、領主殿にも説明してくれるか?
さすがに俺の判断で、どうにかする話じゃあない。」
―しかたないっすね。
あんまり公的なトコなんかに、出たくないんだけどなぁ。(←なんか邪魔くさそうなイベントに巻き込まれそうなので)
「じゃあ次に、俺達の方を話すとしよう。」
そう言って、バルストさんは別行動をとってからの事を教えてくれた。
バルストさん達は、このアジトで留守番をしていた盗賊共を蹴散らすと、早速捕まっていた人達を解放した。
幸い、逃げるのに支障のあるほど衰弱していたり、怪我をしている人はいなかった。
そこですぐさまアジトから離れ、一路パーミルまで続く街道まで、なるべく急いで向かった。
なにしろ旅なれていない女性や、小さな子供達を連れての逃亡である。
スピードには限界があり、森を抜けるのに一日かかった。
だがここで一つ目の幸運に恵まれた。
森を抜けて街道に出たところで、大きな隊商と出会ったのだ。
しかもその隊商は、冒険者の一人が一度仕事を受けたことのある、知己の者達だった。
ここでバルストさんは事情を話し、捕らわれていた人達を保護してもらい、自分と村の代表としてミールさん(ある程度体力がある事と、何より自分が行くと聞かなかったらしい)だけウマを借りて、パーミルまで先行したのだ。
ウマを飛ばして、半日強でパーミルに到着した二人は、すぐさま冒険者ギルドに報告、そのまま領主の館にギルド長と共に連絡に向かう。
そこで二つ目の幸運に巡り合う。
領主の館に、ちょうどネスフさんがリファーレンの使者として来ていたのだ。