対フリード戦ⅩⅡ
もちろんこの知識はゲームだった時の話だ。
どうやらヤツの口調からして、こちらの世界では随分昔にあった事のようだ。
ミールさんが全く知らなかったのも、そのせいだろう。
「…ますますお前を逃す事は出来なくなったな。
どこまで知っているのか、洗いざらい吐いてもらうぞ!」
俺が言った言葉の衝撃から立ち直ったのだろう、フリードはそう言って戦う構えをとる。
俺も全てのモンスター達を【カード一覧】に戻すと、剣を正面に構える。
そしてグッと脚に力をいれると、くるっと反転して脱兎の如く逃げ出した!
一瞬何がおこったのかわからなかったフリードが、俺が逃げ出した事がようやく理解したようだ。
「きさまぁ!待てぇ!」
誰が待つか!
【狂乱の妙薬】の効果はゲームで10ターン。
ここでは一時間も逃げ回っていれば、効果が切れるはずだ!
"グレイウルフ"からも逃げれたこの健脚を見せて…
そう思ったとき、突然背中を押された!
全力疾走中に、全く予想もしない後ろから押されたので、俺はつんのめって前に転がり倒れてしまった。
何が何だか分からない内に、引き起こされる。
そこにいたのは、肩で息をしているフリードだった。
「随分逃げ足が速いようだが、今の俺から逃げられると思うなよっ!」
そう言いながら、俺にボティーブローを打ちつける!
「がはぁっ!」
一瞬息が出来なくなる。
頭が真っ白になるくらい、痛いし苦しい!
この世界に転生して、これ程の痛みを食らったのは…いや、転生前でもこんなパンチ受けたことねぇよ!
「まだまだだ!よくも俺様の計画をブチ壊してくれたなっ!」
お次は顔面に拳を食らって、俺は地面に打ちつけられた。
頭の中がガンガンして、目から火花が飛び出した気がした。
「寝てんじゃねぇ!おきやがれっ!」
ヤツのキックが再び俺の腹に食い込む。
「あがはっ!」
胃のなかのモノを思わず吐いてしまう。
―フリードのAT 値は4.000チョイ、そして俺のDT 値は310.000位だったはずだ。
単純に計算をすれば、80回近く耐えられるはずだ。だがそれも単純計算した場合だ。
クリティカルした時はどうなるかわからない。
もしかしたら、いきなりゼロになるかもしれないのだ。
ゼロ、すなわち死だ。
その事を考えたとき、転生初日に"グレイウルフ"に囲まれた時の恐怖を思い出した。
―冗談じゃねぇ!こんなヤツに殺されてたまるかっ!
震える両足に力を入れて、俺は立ち上がった。