表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

剣閃き実は落ちる

作者: そらぼん

鉄の閃光が、舞い散る葉のすべてを断つ。

薄暗い林の中に二度、三度。木漏れ日を反射する長刀の煌きが踊る。


「……意義、無し」


身の丈六尺以上はある細身の大男、しかしその身体は獣のように鍛え上げられている。

構えすらとらず、両手で刀を持つのみ。されどその身は殺気を纏い、事実散っていた葉は残らず切られているのだ。

まさしく異形。まさしく天の御技。まさしく、死の顕現。

男は膝の上まで捲り上げた袴の裾で手汗を拭い、男は数歩歩き一本の竹へと正対する。


「…………」


世間に知られる剣道の構えではない。我流であり、己が力で断つことのみを主軸としたその構えは、獲物を刈り取る寸前の爪であった。

瞬間、振り上げられた刀は閃きとともに消える。

例え何人刈り取った剣豪であろうと、表舞台に居る程度であれば視認できない疾さ。


「この程度か」


落日の城主のような声色で呟き、男は刀を腰へ収める。当然、意義のない鞘などという物は存在せず、男は鉄の牙をそのまま帯に下げている。

視線の先、あるがまま立つ竹に男が触れると竹は一尺分、元々存在しなかったように掻き消え、空いた空間を上部が押しつぶし、まるで元来そうであったかのようにその場に立っている。


「この程度か」


再び男がつぶやくと、まるで忘れていたかのように光が散り、上空から小さな木ノ実が落ちてくる。

虫食いのものはなく、地に落ちれば新たな芽吹きを迎えるモノのみであった。

そして、男は振り返り、一つの木ノ実を拾い上げ。


「この程度か」


嘲笑い、木ノ実を口へ放る。

同時、天より鳥が、樹上より黒衣のサムライが、赤い尾を引き落ちてくる。


「不愉快」


この男こそ剣仙。常世の理すらも超えた剣の御子であった。

死を与えるのも常であり、断つという事実は日常無くてはならないもの。

なればこそ、強者を呼ぶのもまた常か。

同じ殺意を纏う青年が、死骸の山へと踏み入る。

衣は無地、黒ではなく藍に染められたもの。男と同じく刀は抜き身。


「言葉は不要であるか」

「応」


狂ったような歪んだ笑みで剣仙は振り返る。


「名乗りを上げよう」


児戯を楽しむように、互いに笑みを浮かべて告げる。


「我、人は斬らず刀を折る物なり。故に我が名は折刀斎」

「我、無意義に命を刈る獣なり。故に我が名は獣兵衛」


無機を狩る青年が名乗り、生命を狩る獣が名乗る。

互いに剣仙、剣の御子。つまるところ、死が満ちる。



「   」



言葉無く、されど語るは殺意の気。

殺す。殺す。断ち切り刈り取る。

鉄の刃を振り上げ、沈黙。


『いざ』


声はない、しかし互いにその意を交わす。

立ち位置は変わらず、しかし剣は三度鳴る。

技は変わり、互いに踏み込み剣撃を叩き込む。

腕を狙う一撃は剣で弾かれ、滑るように心臓を狙えば柄が腹へと捻り込まれる。苦し紛れに首を狙えば、かわりに髪がひと房舞い、返す刀で足を狙えば下駄の鼻緒が斬れる。

しかし、それでも剣仙。全十二合、交わし終えれば死は目前。


「カカカカカ、善きかな!」

「ククククク、これこそわれらが十善か!」


構えた刀を下げ、笑い声を張り上げる。


「やるかのう」

「それしかあるまい」


そう言った二人の剣仙は歩み寄る。


「無意義などとは」

「言わんよ強者」


そして、互いに首を断つ。

赤い筋が、白い肉が、黒い髪をなびかせて地に落ちた二つの頭が。

振り上げられた刀の照り返す光を浴びて、喜んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ