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街外れの塾にて  作者:
31/34

おまけ2.ほのかな喜び

のろけ話こと、おまけ話・その2です。

二人にちょっとだけ進展があったりなかったりします。えへへ←

 今日の桜井先生は、妙にご機嫌斜めだった。

 眉間にしわを寄せながら黙っているとか、ピリピリしたオーラをかもし出しているとか、そういうわけではない。なにぶん彼は他の男の人よりも精神年齢が低いので、そんなこちらがびくびくしてしまうような怒り方はしないのだ。

 ただ黙ったまま、欲しいものを買ってもらえなかった小さな子供のように、終始頬をぷくぅっと膨らませていた。

 まぁ……怒っているというよりは、拗ねていると言った方が正しいだろう。

 何故かはわからない。原因に心当たりは全くないし、彼も口を開いてくれない。

 どうしたものか……と思い、わたしは一つため息をついた。聞き分けのない子を諭す母親のような気持ちで、できるだけ優しい声色で話しかけてみる。

「どうか、なさったんですか」

「……」

 相変わらず彼は黙っている。完全に機嫌を損ねているようだ。わたしは再びため息をつくと、いい加減にしてください、という意味を込めながら彼を呼んだ。

「先生」

 すると、彼はようやくこちらを見た。心なしか、さっきよりも頬が膨らんでいる。どうしたのだろう、と首をかしげながら、もう一度彼を呼んだ。

「先生?」

「それだよ!」

 唐突に、顔の前へびしっと指を指された。わけがわからず固まっていると、彼がまくしたてるように口を開く。

「ずっと気になってたんだ、その呼び方。もう俺は君の先生じゃないんだよ? なのにいつまで君は、俺のことをそう呼ぶわけ?」

 あぁ……なるほど。

 わたしはようやく納得した。どうやらわたしが彼を『先生』と呼ぶことが、どうにも不満らしい。

 彼の気持ちも、わからないではない。確かに彼はもうわたしの先生ではないし、わたしは彼の生徒ではない。わたしはとっくに高校を卒業して、彼の勤める街外れの塾を辞めている。こういう関係になった以上は、もう『先生』という呼び方はしてほしくないのだろう。

「あなたの言い分は分かりました。でも……」

 でも、それならこっちにだって言い分がある。

 わたしは彼に対抗するように、強気に腕を組んだ。とたんに彼は、不思議そうに首をかしげる。

「藤野?」

「それですよ」

 上目づかいで彼をじろりとにらみ、わざと怒っているような低い声を出した。

「あなたこそ、わたしのこと今でも『藤野』って名字で呼ぶじゃないですか」

 彼はハッとしたように目を見開いた。そんな彼を見つめたまま、今度は少し悲しそうな声を出してみる。

「いつまでも『先生と生徒』の関係から変わってないようで……わたし、ちょっと寂しいんですよ」

 あなただって、同じでしょう?

「……ごめんね」

 彼は反省したようだった。うつむき加減のわたしの頭を、いつもの優しい手でゆっくりと撫でてくれる。

「俺だけが不安なのかなって、思ってた。君も同じ気持ちだったんだね」

 ちょっと、安心したよ。

 彼は哀しそうな表情から、安堵したように破顔した。わたしもつられるように自然と微笑む。

 しばらくの間その状態でいたけれど、やがて彼はわたしの頭からゆっくりと手を離した。流れるようなしぐさで、その手をこちらへと差し出す。

「じゃあ、改めて。行こうか、奈月」

 あまりにサラッと言われたので、一瞬何を言われたのか理解できなかった。頭の中で彼の言葉を反芻し、みるみる顔が熱くなっていく。

 また、やられてしまった。

 そう思いながら、わたしは仕返しとばかりににっこりと笑って、彼の手に自らの手を重ねた。

「はい、健人さん」

 彼の顔が――おそらく、わたしと同じように――ほんのり赤く染まったのを横目で確かめながら、つないだ手はそのままに、わたしは彼からさりげなく顔をそむけたのだった。

要は二人を、それっぽい感じで呼び合わせてみたかったんです。

何故でしょう…書いているこちらとしても、ちょっと恥ずかしいものがありますね(照)


今回の題名は、ディモルフォセカの花言葉。

ディモルフォセカとは、キク科の一年草または多年草で、英名がケープ・マリーゴールド、和名がアフリカキンセンカというそうです。

ディモルフォセカというと「?」と思いますけど、マリーゴールドとかキンセンカとか言い直していただくとちょっとわかりやすいですね。ぐっと身近に感じるような気がいたします。


…というわけで、とりあえず今回で完結にしようかな、と思ってます。

もしかしたらまた戻ってくるかもしれないし、戻ってこないかもしれません。

戻ってきたときは、またご贔屓のほどよろしくお願い申し上げます。

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