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幸運999騎士の成り上がり物語  作者: 白鷺雨月


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第七話 炎の姫騎士

 夜の王都。

 石畳の通りが雨に濡れ、灯火の光が滲んでいた。

 昼の華やかさとは打って変わり、夜の王都には陰があった。

 とくに南門の外れそこは貧民街と呼ばれ、盗賊、娼婦、孤児が集う闇の領域であった。

 華やかな王城が光ならば南の貧民街は闇であった。

 その闇のさらに奥で、忌まわしい取引が行われようとしていた。


「少女たちを他国に売る、だと?」

 俺の拳が机を叩いた。

 報告を持ってきたのは、配下になってまだ数日しか経たないヴィクトだった。

「確かだ。俺の古い仲間からの情報だ。奴ら、帝国商人を名乗っちゃいるが、実際は人買いだ」

「どこで取引が?」

「南の貧民街。古い教会跡地で明日の夜だ」

 俺は息を呑む。

 王国の法で奴隷売買は禁止されている。少なくとも表向きは。

 だが、貧民街には法の手が届かない。

「クラリスに報告する」

 俺はヴィクトに言う。

「止められるに決まってる」

 ヴィクトは首を左右に振る。

「それでも言わなきゃ筋が通らん」

 正義感の強いクラリスならあるいはと俺は思った。



 翌日。

 王宮の訓練場で、クラリスは剣を振るっていた。

 炎の軌跡が舞い、砂塵が熱気を帯びて揺れる。

 思わず息を飲むほど華麗であった。


「どうしたの、レオン。そんな顔して」

 クラリスは炎の加護を解き、剣を鞘に納める。

「貧民街で少女たちが売られようとしています」

 俺の言葉に、クラリスの形の良い眉根がよる。

「情報の出所は?」

 クラリスの赤い瞳が俺をみる。

「ヴィクトの古い仲間から。信頼できます」

「なるほね。だけど……」

  クラリスは静かに息をついた。

「レオン。あなたも知っているでしょう。王国騎士団は王都民の安全を守る組織。貧民街は、管轄外よ」

 クラリスは目を伏せる。

「そんな理屈があるのですか……」

「理屈じゃない、現実よ」

 クラリスの声には苦みがあった。

「騎士団が貧民街に介入すれば、貴族議会が黙っていない。上層部は王国の恥を暴くなと命じているの。それにその奴隷貿易にはとある貴族が絡んでいるらしいの。今その証拠を集めているところなの」

「じゃあ、誰があいつらを救う?」

「……」

 クラリスは黙った。

 だが、その瞳の奥には燃えるような光があった。

「あなたは、どうするつもり?」

 クラリスは俺に問う。

「行く。ヴィクトと二人でも、止める」

 クラリスが動けないのなら、俺たちでやるしかない。

「無茶よ。あなたの絶対生存はあなただけの能力。レオン、あなたは死なないけど他の人はその限りではない」

 クラリスは俺の能力を的確に見縫いていた。

 幸運の女神ティの加護はオレにだけ限定されている。

「でも見て見ぬふりはできません」

 俺はクラリスに背を向ける。

 クラリスはしばらく沈黙したあと、小さく呟いた。

「……そう。なら、せめて死なないで」

 俺はその呟きを聞きながら訓練場を出た。


 その日の夜。

 古びた教会跡地に、俺たちは向かう。

 月の光が壊れたステンドグラスを照らし、廃墟の中で男たちの笑い声が響く。

 鎖に繋がれた少女たちが、怯えた目で震えていた。

「許せない」

 俺の目が怒りに燃える。

 あそこにいるのはダリアとそうかわらない年頃の少女たちだ。もしあの中にダリアがいると思うと頭に血がのぼるのを実感する。

 ヴィクトは短剣を抜き、頷いた。

「行くぞ幸運騎士様。運があるなら、今こそ見せてくれ」

 ヴィクトは不敵に微笑む。

「上等だ」

 俺は短く答えた。


 俺たちは闇から飛び出した。


「誰だっ!?」

「王国騎士団……じゃねぇな!」

 混乱の中、鋭い閃光が走る。

 俺の剣が一人の腕を弾き、ヴィクトの投げナイフが鎖を切る。


「逃げろ! 今のうちだ!!」

 俺は少女たちにさけぶ。

 少女たちが悲鳴を上げながら出口へ走る。

 だが、次々と現れる武装した男たち。


「チッ、多すぎる!」

「予想以上だ……!」

 俺たちはすぐに囲まれる。

 狭い教会跡で、十人、二十人、さらに奥からは重装の護衛まで現れた。

 俺は盾を構え、必死に防御する。

 だが、数の暴力には限界があった。

「レオン、下がれ!」

 ヴィクトが敵の剣を短剣で弾き返す。

「駄目だ、ここで退いたら」

 俺も敵の一人を繰り返す。


 その瞬間、轟音と共に天井が赤く染まった。

 崩れた屋根の上から、炎の塊が降り注ぐ。


「な、なんだ!?」

「上だ!」

 敵の武装兵士たちが口々に叫ぶ。


 眩しい光の中に、ひとりの女騎士が立っていた。

 赤色の髪が炎に照らされ、紅蓮の魔剣が唸る。


「クラリス!!」

 俺は思わず叫んだ。

「王国騎士団は動けない。でも―姫騎士は動ける!!」

 クラリスが魔剣サラマンダーを振り抜く。

 炎が奔り、敵の武器を焼き尽くした。

 熱風が吹き抜け、男たちが次々と倒れていく。


「な、なに者だ、この女っ……!」

「王国騎士団第一隊、クラリス・ルミナス!」

 にやりとクラリスは不敵すぎる笑みを浮かべる。

 その名を聞いた瞬間、残っていた盗賊たちの顔が青ざめた。


「ま、待て! 俺たちは――」

「言い訳は聞かない!」

 クラリスの剣が閃く。

 炎が一閃し、男の腕輪が焼き切れた。

「レオン、後ろを!!」

 クラリスは俺に指示する。

「了解!!」

 俺は短く答え、残りの敵を掃討する。

 俺はヴィクトと共にクラリスの左右に立つ。俺は右、ヴィクトは左だ。

 ヴィクトの動きは冴えていた。

 ヴィクトは援護に向いていると思われる。

 俺の前に敵が躍り出る。

 しかし、敵の刃が振り下ろされる直前、瓦礫が偶然崩れて敵が転び

 その隙に俺の剣が敵の喉を突いた。

 これが絶対生存の力か。俺は心の中で幸運の女神ティアラに祈りをささげる。


 クラリスは当たり前のように獅子奮迅の働きを見せていた。

 敵の剣とクラリスの炎が交錯する、その敵はその瞬間焼け焦げる。戦場は一瞬で制圧された。

 やがて、教会跡には沈黙が戻る。

 鎖を解かれた少女たちが泣きながら俺たちに縋りついた。

「ありがとう……ありがとうございます……!」

 俺は彼女たちの頭を撫で、笑った。

「もう大丈夫だ。ここからは俺たちが守る」

 クラリスも剣を収め、息を吐いた。

「本当に、無茶をするわね」

 クラリスの赤い瞳が俺を射抜くように見る。

「あなたが来てくれなかったら、俺たちは全滅でした」

 俺は素直にクラリスに謝る。

「当然でしょ。部下を放っておくほど薄情じゃないもの」

 クラリスは俺の頰に手を当てる。不思議と心地よい。

 間近で見る炎の光に照らされたクラリスの笑顔は、どこまでも誇り高かった。

「覚えておきなさい、レオン」

「何をです?」

「騎士団が動けなくても、志ある騎士は動ける。それが本当の騎士の在り方よ」

 その言葉に、俺は深く頷いた。

 ティアラの声が微かに響く。


『幸運は、勇気ある者に微笑む』

 頭の中でティアラの声が木霊する。


 






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