第三十五話 七王妃の時代
アレクの反乱が終結してから四年後のことだった。
その四年間、エルヴァリア王国は絶え間ない戦火にさらされていた。ヴァルストリア神聖連邦と、西の大国グランハイト帝国が手を組み、エルヴァリアに襲いかかったのである。
俺は常に戦場に身を置き、軍を指揮した。
戦略は冴え渡り、部隊は一点の乱れもなく動き、そして何より、幸運の女神ティアラの加護が常にレオンの背中を押していた。
最終決戦となった北方オルド平原で俺は連合軍を完全に破り、その勝利は王国中に歓喜の波をもたらした。
凱旋する道中、兵たちは「幸運の王」「七女神を従えし者」「英雄王」など、思いつくままに俺を讃えた。これはかなり気恥ずかしい。
ダリアに胸を張りなさいとよく言われたものだ。
そして今、王都ルミナスの大広場には十万を超える民衆が集まり、俺の帰還を待ちわびていた。
王宮前の石段を、俺は元帥の軍服のまま登った。
その先で待っていたのは、エルヴァリア王国の若き女王セシリアであった。
四年が過ぎ、セシリアは美しき女王となっていた。
セシリア女王は七色の宝石をちりばめたティアラを手に、にこりと微笑む。
「レオン。本当に……よく戻ってきてくれました」
そう言うセシリア女王に俺は片膝をつく。
「陛下のご期待に応えることができ、光栄です」
俺が言うとセシリアは微笑む。
俺の手を取り、たちがらせる。
セシリア女王はその手に王の象徴である七宝石の王冠を持っていた。
「ううん、もう陛下じゃなくていいの」
セシリア女王はくるりと振り向き、王宮の庭を指差した。
「だって、これから私は……お花のお世話に専念するのだから!!」
あっけにとられる俺の手に、セシリアはそっと七宝石の王冠を渡す。
「私はね、レオン。あなたが王国を導く時代を見たいの。あなたなら……幸運の女神の祝福を受ける新しい王になれる。だからこの七宝石の王冠を受け取りなさい」
俺はその言葉を静かに受け止める。
セシリア女王は俺の頭にその七宝石の王冠をかぶせる。
「セシリア、あなたが受け継いだこの国を必ず未来へ繋ぎます」
その瞬間、群衆から雷鳴のような歓声がわき起こった。
英雄レオンが、エルヴァリア王国の新たな王として誕生した。
即位からほどなくして、俺は正妃にダリアを迎えた。
ダリアは後宮の管理を一手に担い、その知性と包容力で誰もが認める正妃となった。
彼女のもとに、レオンが最も信頼する四人の女性が妃として迎えた。
クラリスは春妃と呼ばれ、近衛騎士団を率いることになる。
バレリアは夏妃と呼ばれ、俺と共に戦場を駆けた。
カリンは秋妃と呼ばれ、精霊の守護を与えてくれた。
エリスは冬妃と呼ばれ、俺の身を常に守ってくれた。
彼女たちは四季の名を冠し、王国の象徴として民から愛された。
さらに文妃イザベラはフェルゼン公国の絆の証として、俺に忠誠を誓ってくれた。
輝妃アナスタシアはガルドリア王国の皇女であり、かの国との友好の証として後宮に入ってくれた。
こうして、俺が治めるエルヴァリア王国は七妃が支える前例のない黄金期へと突入する。
軍務においては、ヴィクトが生涯俺の副官として重責を担った。忠義に厚く、王の片腕として幾度も国を救った。いつしかヴィクトは王の手と呼ばれるようになる。
黒騎士ベアトリスは俺の代わりにエルヴァリア王国元帥となる。
今では俺が出陣する際には常に隣に立ち、バレリアと共に天下無双の二枚看板と称された。
南のガルドリア王国も、東のフェルゼン公国も、ついにレオンのもとに帰順し、エルヴァリアは歴史上最大の版図を持つ大国へと発展する。
それはまさに、幸運の女神ティアラの祝福が降りそそぐ時代であった。
そして、俺が王として最初に行ったのは、
幸運の女神ティアラを王国の守護神として迎えることであった。
宮殿に新たに建てられた「ティアラ大神殿」では、宝玉を戴く女神像が微笑みをたたえている。
これらの宝石は輝妃アナスタシアが寄進してくれたものだ。
その日、俺が祈りを捧げると、ティアラの像が一瞬だけ黄金に輝いた。
神官たちは驚愕し、民衆は歓声をあげる。
幸運の女神ティアラは、七女神と同じほどの力を取り戻した。
王国を包む風はやさしく、空は青く澄み渡っていた。
戦も苦悩も、遠い記憶になりつつある。
俺は宮殿のバルコニーに立ち、広がる王都を眺めた。
春妃クラリスの笑顔、夏妃バレリアの勇ましい声、秋妃カリンの優しいまなざし、冬妃エリスの柔らかな手。文妃イザベラと輝妃アナスタシア、そして正妃ダリアたちが俺の周りにいつもいる。
その全てが、俺を支える力だった。
「これからが、始まりだ」
王国の未来は明るく、どこまでも広がっている。
ティアラの小さな声が、風に乗って聞こえた気がした。
『レオン。あなたなら、この世界を幸福へ導ける』
俺は静かに目を閉じた。
英雄の時代は終わり――
幸運の王の時代が、ここに始まるのであった。
終わり




