第三十ニ話 白虎騎士団との死闘
古びた下水道の暗闇を抜け、湿った石壁の隙間から光が差し込んだ。
俺たちは王都ルミナスの内部、南区の貧民街裏路地へと姿を現した。
「ついに来たか……」
俺が呟くと、案内役の若者が胸を張る。
「レオン様、あとは俺たちに任せてください。門の管理兵は、みんな自分の家族や友人です。説得できます」
貧民街の人々は、俺の登場に涙を浮かべて迎え、すぐに動き出した。
彼らの協力で、王都南門の衛兵たちは武器を置き、静かに門を開けた。
ギィィ……
巨大な扉が、夜の闇のなかでゆっくりと開く。
「成功だ……!」
ヴィクトが目を見張る。
「こんなに……抵抗がないとは」
俺は疑問を口にする。
「ええ、妙です」
エリスも周囲へ視線を走らせる。
王都の内部には、本来ならば巡回の兵が数十人はいてもおかしくない。
しかし、どこにもその気配がなかった。
そこへ、薄汚れた鎧の男たちの一団が現れた。
俺は敵かと思い剣を抜いた瞬間、彼らは膝をついた。
「クラリス様……! やっと……お会いできた」
男たちはクラリスを見つけると皆片膝をつく。
「あなたたちは……お父様の……」
クラリスの声が震える。
彼らは元はジークフリード・ルミナス王国騎士団長の部下だったということだ。
クラリスの父はかつてエルヴァリア王国最強と謳われた将軍。その部下たちであった。
一番年長の騎士が、目に涙をためながら語る。
「ジークフリード様がセシリア様を逃がすために戦死したと知った我らは……アレク公爵に異を唱えました。しかし、公爵は我らを粛清対象とし……。王都の兵たちも、もはやついて行っておりませぬ」
別の騎士が、苦々しい表情で続ける。
「アレク公爵は、娼館や酒場、演劇など娯楽と呼ばれるものを全て禁止しました。善良な民が日々の楽しみを奪われ、城下は不満だらけです。王都軍も分裂し、いまや公爵の言うことを聞く者は少数のみ……」
俺は深く息を吸った。
「民の心を手放す者は、どれほど兵力があろうとも長くは保たない。皆さん、よく耐えてくれました。父の志を……私たちが継ぎます。助力をお願いします!」
クラリスはぐっと拳を握りしめる
「もちろんですとも!」
騎士たちが頭を下げ、俺たち南方軍へと加わった。
そしてその時、外で鬨の声が響く。
「レオン様!!」
駆け込んできた兵が叫ぶ。
「ベアトリス隊と共に王都外で待機していた軍が、すでに城内へ突入を開始!! このまま合流できます!!」
「よし、王宮を目指す!!」
俺は皆にそう命ずる。
俺は馬を駆って、南門から堂々と王宮へと向かうこととなった。
王都の中央大通りへ出ると、遠く王宮の白い塔が見えた。あれが麗しの王宮ルミナスだ。
だが、その手前にとある騎士の一団が俺たちを待ち構えていた。
白地に黒の虎を描いた軍旗が、夜風に揺れていた。
「あれは白虎騎士団!!」
ヴィクトが険しい声を漏らす。
白虎騎士団――アレク公爵直属の親衛隊。
王国でも屈指の精強部隊であり、その忠誠心は狂信に近いということだ。
白銀の重装鎧を纏った騎士たちが道を塞ぎ、その中央には長身の男がいた。
白銀のマントを翻し、鋭い目で俺たちを睨む。
「我が名は白虎騎士団長アルカンドラである。アレク公の崇高なる理想を邪魔するとは不届き千万。王都へ侵入した狼藉者どもよ……ここより先、通すことはできぬ!」
アルカンドラは大剣の切っ先を俺に向ける。
どうやら聞く耳などもたない連中のようだ。
俺は迷いなく前へ進み出た。
「アレク公爵に伝えろ。レオン・アナイティスがその首をもらいに来たと」
俺は剣を正面にかまえる。
「愚か者め。王都は公爵閣下のもの。貴様ら如きに穢させはせぬ!!白虎騎士団、構え!!」
アルカンドラは分かりやすいほどの敵意を俺たちに向ける。
槍が一斉に構えられ、重い鉄の靴音が鳴り響く。
剣と剣、槍と槍がぶつかりかけたその瞬間。大きな影が一歩進み出た。
「任せな!」
巨躯の女騎士バレリアが、戦槍を肩に担ぎ笑った。
敵にすれば恐ろしいが味方ならばこれほど頼れる存在はない。
「白虎騎士団だろうが白猫騎士団だろうが知らん!!
レオン様の行く手を阻むヤツは全部ぶっ倒すだけだ!!」
「おいバレリア、少しは警戒を……」
エリスが制止する間もなく、
エリスの忠告を笑い飛ばすとバレリアは地を蹴った。
「どぉりゃあああああ!!」
その突撃は、まさに暴牛の娘の名にふさわしい。
白虎騎士団が槍を構える前に、バレリアの鉄槌が横薙ぎに振りぬかれる。
轟音と共に、前列の盾ごと騎士たちが吹き飛んだ。
「な、なんという怪力……!」
白虎騎士団がわずかに怯む。
「怯むな! 白虎の名にかけて――!」
アルカンドラが叫ぶが、バレリアの猛進は止まらない。
俺も剣を抜き、彼女の側面を援護する形で突撃した。
「レオンに続け!!」
クラリス、シシリア、ヴィクト、エリス――続々と加勢し、白虎騎士団は完全に押し負けた。
バレリアが最後のアルカンドラを打ち倒し、鉄槌を地に突き立てる。
「ふぅ……こんなもんかい!!白虎だか白猫だか知らねえけど、大したことねえじゃねえか!!」
そのバレリアの言葉とは裏腹に彼女は傷だらけであった。額と右脇腹、左太ももから血をだらだらと流している。
駆けつけたダリアが手早くバレリアに包帯を巻き、止血をしたいた。
あの暴牛の娘がこらほど傷ついているのがこの戦いの激しさをものがたっている。
かく言う俺も体中掠り傷だらけだ。
倒れた騎士団の向こうには、王宮への大階段が続いている。
「レオン様、道が開けました!」
エリスがその大階段を指さす。
「よし――王宮へ突入する!」
王都の中心、最も神聖なる場所へ。
ついに俺たちは、アレク公爵が待つ王宮内部へ踏み込むのだった。




