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幸運999騎士の成り上がり物語  作者: 白鷺雨月


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第三十話 サーガリアン平原の戦い

 南のガルドリア王国、そして東のフェルゼン公国。二つの国を味方につけた俺は、ついに悲願である王都ルミナス奪還のため大軍を率いて進軍を開始した。

 季節は初夏。緑豊かなサーガリアン平原に風が吹き渡り、旗と鎧が反射する光が揺れる。


 王都の南方に広がるこの平原に、ヴァルストリア神聖連邦と、アレク公爵麾下のエルヴァリア王国軍と対峙した。合わせて二万を超える連合軍が布陣し、俺たちの帰還を阻もうと立ちはだかっていた。


 対する俺たち南方軍は一万に満たない。

数では圧倒的に不利。だが俺の瞳には不安の色はなかった。

「セシリア王女のためにも……必ず勝つ」

 胸の奥で呟き、俺は全軍を見渡した。

すると、耳元で微かに風が鳴る。


 勝利の道は、開かれている。


 幸運の女神ティアラの加護が、俺の思考にそっと寄り添うように流れ込んできた。

 俺は遠目に連合軍の陣を見つめた。

その瞬間、俺にははっきりとある違和感が見えた。ヴァルストリア神聖連邦軍の動きが、エルヴァリア王国軍と噛み合っていないのだ。


(連邦軍は……アレクの指揮下に入ることを嫌っているな)

 彼らは陣は組んでいるものの、明らかに独自判断で動く余地を残している。布陣には隙が生じ、両軍の連携は取れていない。

 イザベラに理由を訊く。

「ヴァルストリア神聖連邦軍はとてもプライドが高い。他国の下につくのを良しと市内のでしょう」

 イザベラはそう説明した。

「あいつら自分たちが一番偉いと思ってる」

 エリスも同じ意見のようだ。

 なるほど、そういう訳か。


「ベアトリス!!」

 呼ばれると同時に、漆黒の軍装に身を包んだ千騎長ベアトリスが馬を走らせてきた。

「ヴァルストリア神聖連邦軍を、つかず離れずで翻弄せよ。決して深入りはするな。あくまで、あちらの陣形を乱すだけでいい」

「承知しました、レオン様!!」

 ベアトリスは嬉々とした笑みを浮かべると、自らの隊を率いて疾走した。


 やがて野太い号令と共に戦端が開かれる。

ベアトリス隊は敵の死角に現れては矢を射掛け、追撃されると霧のように姿を消す。連邦軍の兵士たちは苛立ち、陣形をしばしば崩した。


「なんだ、この戦いづらさは!」

「追え! ……いや待て、罠か!?」

 ヴァルストリア神聖連邦軍指揮官たちは混乱し、統率はみるみる乱れた。


 俺は好機を逃さない。


「全軍、前進!! 目標はアレク公爵軍本隊だ。全将兵突撃!!」

 俺のその声に応えるように、勇者バレリアが雄叫びを上げ、軍馬を蹴った。


「行くぞォォォッ!!」


 豪胆なる女戦士は真っ先に飛び込み、盾ごと敵兵を吹き飛ばす。

 バレリアの突進はまるで暴風。道が開けばシシリアの黒狼傭兵団が続き、さらに後続が怒涛の波となって押し寄せる。


 エルヴァリア王国軍は、連邦軍の不調で十分な援軍を得られず、じりじりと押し込まれる。


「アレク公爵を捉えよ!! ここが勝負だ!!」

 俺が叫ぶと、周囲の兵たちに更なる気迫が宿った。


※※※※


 一方、アレク公爵は後方で戦況を睨んでいた。

 その周りには彼を守る精鋭が固めている。

「なんとしてもレオンをここで討て!! 奴を通せば我らの敗北だ!!」

 だが、勢いは完全にレオン側にあった。

 ついに激戦の中、レオンの馬が跳ね上がり、敵陣を割って進む。

※※※※


 

「アレク公爵、覚悟!!」

 剣を振り上げ、俺はアレクに迫る。

 だがその瞬間、アレクの側近二人が飛び出し、身を盾にして彼を守った。


「公爵! お逃げくだ……っ!」


 剣は確かに届いた。だが刃が貫いたのは側近の胸。

アレク公爵本人まで、あと数寸。


その時、乾いた破裂音が響いた。


 銃だ!!


 この時代では未だ試作段階に過ぎないはずの火器を、アレクは隠し持っていた。

 前にエリスに聞いたことがある。

 銃という武器が一般化されれば戦場は変わると。

 火花が弾け、弾丸が俺の頬を掠める。


「くっ……!」


 ほんの紙一重。もしティアラの絶対生存の加護がなければ眉間を撃ち抜かれていただろう。


 その間にアレク公爵は馬を回し、側近の亡骸を踏み越え、後退を開始する。


「退け!! この戦は終わりだ!!」


 エルヴァリア王国軍は総崩れとなり、追撃されつつ平原から退いていった。


 サーガリアン平原の戦い、俺たち南方軍の勝利に追わった。エルヴァリア王国軍の撤退を見た連邦軍も戦場を離脱する。


 俺は剣を下ろし、悔しげに拳を握った。

「あと少し……あと少しだったのに……!!」

 アレク公爵を逃した。それだけが痛恨だった。

 それでも、勝利の風は確かに吹いている。

兵たちは歓声を上げ、地平線の彼方には王都ルミナスの城壁が微かに見えていた。


 俺は頬の傷を指先で拭い、静かに呟いた。


「ティアラ……まだ試練は続くのだな。だが、必ず王都を取り戻す。そして……皆の未来を守り抜く」

 俺は揺るぎない決意でそう違う。




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