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幸運999騎士の成り上がり物語  作者: 白鷺雨月


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第ニ十六話 王都の城壁に放たれた矢

 俺たち王都ルミナス奪還を目指し北上を続けていた。

 荒野を越え、街道を進み、ついに遠くに白い城壁が見え始めた、その時だった。


「レオン、ちょっとアンタ止まりなさい!」

 軍の先頭を歩く俺の前に、ダリアが飛び出してきた。ダリアの乗馬姿もなかなか様になってきていた。しかし、その表情はいつもより険しい。

「どうした、ダリア?」

 俺はダリアがどうしてそんな顔をしているのかを訊く。

「どうした、じゃないわよ!! 食料が残り少ないの。もってあと二十日ね。難攻不落の王都ルミナスに攻め入るには心もとないわ。それに現地調達なんてしたくないわ」

 ダリアは配給担当でもある。彼女の言葉は重い。

 さらに横からクラリス赤い毛を揺らしてが駆け寄る。

「レオン……セシリア王女の容体が思わしくないわ。連日の行軍で疲労の色が濃く、これ以上続ければ倒れる可能性があります」

 セシリアは馬車で移動していたが、西部戦線での政治工作で奔走していた上、各地の情勢を聞いて気を張り続けていたため、心身ともに消耗していた。

 クラリスはそう報告した。

 たしかにセシリア王女のその肩は細く震え、頬も少しこけている。


 ダリアとクラリスの視線は真剣だった。

「今の状態で王都を攻めるのは無謀だわ。せっかく集めた兵が餓えれば士気は落ちるし、王女様まで倒れたら取り返しがつかない」

 ベアトリスも同意見のようだ。

「レオン様……どうか、ここはご決断を」

 ベアトリスが俺に決断を促す。

 俺は黙って三人の言葉を聞いていた。

 そして振り返ると、兵たちの列を見つめた。


 疲労の色は確かに濃い。

 黒狼傭兵団、ベアトリスの騎兵隊、それに故郷を遠く離れたカリも限界に近いようだ。


「……わかった」

 俺は静かに口を開いた。

「ここは撤退する。南のクシャーン城に戻る」

 三人は同時に息をついた。

「レオン、クシャーン城に戻りましょう」

 ダリアは大きく頷く。

「兵士たちも喜んでいます。レオン様よく決断してくれましたね」

 ベアトリスが微笑む。

「英断です、レオン」

 クラリスが俺の手を握る。

 ダリアがその様子をむっとした表情で見ていた。

 ダリアとクラリスは仲がいいのか悪いのか、わからないな。


 

「問題は撤退ルートだ」

 ヴィクトが地図を広げる。


 俺はヴィクトが拡げた地図の一点を指した。

「王都ルミナスの目の前を通る」

 俺は居並ぶ諸将に宣言する。

 バレリアはうれしそうに笑う。

「さすがは私の夫となる男だ」

 バレリアの言葉でダリアとクラリスが殺気を孕んだ目で彼女を睨む。

 とうのバレリアはどこ吹く風で腕を組んで、うんうんと頷いていた。



「はぁぁ!? なんでそんな危ないことっ!」

 ダリアが絶叫する。


「俺たちは逃げるんじゃない。今は退くが、必ず戻るとアレク公爵に知らしめる必要がある」

 俺そこには揺るぎない決意をこめて言った。


 




 翌日。

 俺たちの軍は王都ルミナスのすぐ脇を堂々と通過した。

 目前には、青空を切り裂くようにそびえる巨大な城壁。

 ルミナス城は白銀の輝きを放ち、その上には黒と金の十字の旗。アレク公爵が乗っ取った証が翻っていた。


 兵たちは息を呑む。

 王都を見下ろす機会など、そうあるものではない。


 その時だ。


「いるよ」

 馬上のカリンが目を細めた。


 城壁の上、堂々と立つ一つの影。

 黒い外套、金の縁取りの服。

 薄く笑みを浮かべ、こちらを睥睨している。


「アレク公爵」

 クラリスが唸る。


「挑発しているのよ……どうせ攻めてこられまいってね」

 ダリアが歯噛みする。


 しかし俺は無言のまま弓を取った。


「レオ様、まさか……」

 ベアトリスが息を飲む。


 次の瞬間、弦が高く鳴り響いた。

 放たれた矢は、常識では届かぬ距離へと、まっすぐ飛んでいく。

 しかし途中で失速し、軌道が揺らいだと思ったその時だ。

 突如、風が巻いた。

 カリンがそっと手を翳す。


「風の精霊(ジン)よ、導いて」

 精霊の風が矢を包み、驚くほどの速度で伸びていく。

 矢はアレクの足元数十センチに突き刺さった。

 傷つけるまでは至らなかったが、それで十分だった。


 俺は叫ぶ。


「アレク公爵、次は必ず、王都を奪還する!!」

 城壁の上のアレクは笑った。

 だがその笑みは、わずかに強張っていた。

 俺にはそのように見えた。


「ふん……できるものならやってみろ」

 アレクの声は戦場に響く。


 俺の矢は、ルミナス城の静寂を切り裂き、王都中に響き渡った。


 




 俺たちはそのまま堂々と王都前を通過し、南へと向かった。


 王都から離れ、丘陵を越えるころ、セシリア王女が俺の隣で静かに呟いた。


「レオン。あなたなら、本当に王都を取り戻せる気がします」  

 セシリア王女が俺の手を握る。

「必ず取り戻す。必ずな」

 セシリア王女はわずかに微笑む。

 その横顔は疲労に濡れていたが、希望の光が宿っていた。


 夕陽が差し込む中、俺は振り返り、遠くにそびえる城壁を見据える。


「待っていろ、王都ルミナス。次は俺の軍勢が、お前を包囲する番だ」

 そして俺たちは本拠地クシャーン城へと戻っていく。


 嵐の前の静けさが、再び南方に訪れたのだった。


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