表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運999騎士の成り上がり物語  作者: 白鷺雨月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/35

第二十四話 雷鳴の下の死闘

 西部戦線。俺とダリアの産まれ育ったところでもある。

 荒れ果てた平野に、敗残兵の呻きと冷たい風だけが吹き抜けていた。かつて三千を数えた西部方面軍は、いまやジェスラン率いる三百騎を残すのみ。

 その壊滅の原因はただ一人、ヴァルストリア帝国の猛将バレリアであった。


 身の丈二メートルを超える巨躯。

 その手に握る戦斧は、普通の騎士の盾ごと胴を断ち割る化け物じみた威力を誇る。

 そしてなにより、彼女の率いる「黒鉄鎖騎士団」は、突撃のたびに大地を震わせる鉄壁の突進で、すべてを踏み潰してきた。


「まさか、お前たちが来てくれるとはな……レオン」

 やせ細り、疲労を隠せないジェスランは、それでも深々と頭を下げた。

 俺は馬から降り、彼の肩を力強く掴む。

「よく三百も守り切った。あとは俺に任せろ、ジェスラン将軍」

 ジェスランは苦笑しながら、遠くで焚火を囲む巨大な兵影…… バレリア軍を睨む。


「だが……あれを倒すのは容易ではないぞ」

 その一言は、敗北を重ねた将ゆえの重みを帯びていた。

 その時、精霊族の少女カリンが俺の袖を引く。

「レオン、わたしの言うこと、信じてほしいの」

 カリンは青い瞳を夜空に向け、静かに告げた。

「三日待てば……大雨が降る。必ず」

 カリンは晴天を見つめる。

「雨……?」

 俺も晴天を見上げる。

 とてとあと数日後には雨が降るとは思えない冬の青空だ。

「うむ。わたしの精霊(ジン)たちが告げてわ。三日目の夜明け、大地がぬかるみに変わるほどの豪雨が来るの」

 俺は数秒だけ考えた。

 圧倒的な突撃を誇る重装騎兵は、ぬかるみを前にすればただの重い鉄の塊となる。

 確かに、それは勝機となるだろう。

 そして俺たちはほとんどがスピード重視の軽装騎兵だ。泥沼などそれほど気にすることはない。

 だが三日とカリンは言った。

 待てば、ジェスランの三百騎はもう保たぬかもしれない。だが、ここで勝負を焦ればバレリアに蹂躙される。


 俺は決断した。


「三日間、徹底して逃げる。バレリアを怒らせ、追わせろ」

 俺ベアトリスら諸将を見る。

「えっ……逃げるのですか?」

 エリスが意外そうな顔をする。

「レオン殿は本気か?」

 と兵士たちの声が漏れる。

 俺は頷いた。

「勝つためだ。耐えてくれ」

 俺は兵士たちにそう言った。


     


 一日目。

 俺たちの軍は丘を越え森を抜けながら、ひたすらバレリア率いる黒鉄鎖騎士団をかわし続けた。

「卑怯者がああああっ!!」

「逃げるくらいなら最初から戦場に来るなああ!!」

 黒鉄鎖の甲冑をきしませながら、バレリアは怒り狂って追撃を続ける。

 追い付かれればそれはすなわち死だ。

 しかし追わせねばならない。

 俺の判断は、生き残るための冷徹な賭けだった。


 二日目。


 雨の気配はまだなく、バレリアの猛追はさらに苛烈となった。

「レオン様ぁ! バレリア軍が近い!」

 エリスが叫ぶ。

 殺気をはらんだ黒鉄鎖騎士団が目の前にせまる。

「全隊、散開して側面に逃げろ!! 接触は避けろ!!」

 俺たちは逃げる。逃げて、逃げて、どこまでも逃げる。砂煙をあげて逃げる俺たちの軍に、バレリアの罵声が轟く。

「なぜだ!? なぜ逃げる!? 戦えええ!!」

 その豪声は山々に木霊した。

 ジェスランの部下たちは、屈辱に歯を食いしばりながらもレオンの指示に従った。

「……耐えろ。あと一日だ」

 俺は自分にも言い聞かせるように呟いた。


     


 三日目の夜明け。

 湿った風が吹き、空は鉛色の雲で覆われていた。

「来る……もうすぐよ」

 カリンがつぶやいた直後、空が裂けるような雷鳴が響き渡った。

 豪雨だった。

 それは地面をあっという間に濁流に変え、足元を奪うほどの激しさだった。

「全軍、反転する!! 今こそ攻めるぞ!!」

 俺の声が雷雨に負けじと響く。

 これも幸運の女神ティアラの導きか。

 あの時カリンを助けなければ、俺たちはバレリアの黒鉄鎖騎士団に虐殺されていただろう。


 バレリア軍は重装鎧ゆえに泥沼に沈み、馬は足を取られ進めない。

「ぬ……ぬかるみが……!」

「動けん!?」

「馬が倒れるぞ!」

 黒鉄鎖騎士団の強みである突進力は完全に奪われた。

 そこへ、雷鳴とともに戦斧を振り上げたバレリアが吠える。

「たとえ泥でも……私ひとりで貴様らを潰す!!」

 その巨躯は泥を跳ね上げながら俺に向かって、突進する。

 しかし無理な踏み込みのせいで足元が滑った。

「今だッ!」

 俺は雷光を背に斬り込んだ。

 その瞬間。

 天が割れた。

 バレリアの頭上に、白々とした閃光が直撃した。

「ぐッ……ぁぁあああああッ!!」

 雷撃に全身を貫かれ、巨躯が泥へ崩れ落ちる。

 蒸気が立ち上がり、戦斧が泥に突き刺さった音だけが響いた。


 俺は駆け寄り、彼女の息を確かめる。

「……生きている。捕縛しろ」

 俺はバレリアの生命力に驚愕と恐怖を覚えた。

 瀕死のバレリアを抱えながら、俺は深く息を吐いた。

「これで……西部は守られた」

 豪雨は雷鳴とともに戦場を洗い流し、勝利の時を告げるかのように降り続いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ