第二十ニ話 白き騎士団との遭遇
王都奪還のため、俺たちは北へ向かって進軍していた。
先陣に立つのはベアトリス率いる軽騎兵隊だ。彼らは南方でも名を轟かせる俊敏さと統制力を誇る。
冬の気配を帯びた風が吹きつけ、森の木々は枯れ葉を落として金属質なざわめきを響かせていた。
「王都まであと二十日ほど……雪が本格的に降る前に着きたいところだな」
俺の言葉に、ベアトリスが頷く。
「道中の村々も荒れていると聞きます。聖連邦の神官兵が好き勝手をしているとか」
ベアトリスが部下たちからの情報を報告する。
「急がなきゃね」
ダリアが馬上で大きく伸び、ふうっと息を吐いた。
その十日後――。
北の街道を進む俺たちの軍勢は、前方から砂煙をあげて逃げてくる一団を目撃した。
「……誰かに追われている?」
俺が目を細めると、カリンが風を読み、耳を澄ませた。
「追手は……白い鎧着た人たち。七柱の女神の軍旗が見えるよレオン」
カリンがそう言った。
「それは白き騎士団よ」
エリスが蒼白になる。
白き審問会直属、異端処刑を専門とする騎士団。
エリスがかつて洗脳されていた組織の中でも、もっとも残忍な部隊である。
その騎士団に追われているのは――
「あれ……クラリスだ!!」
目の良いエリスが鋭く叫んだ。
その横で、カリンの目も大きく見開かれる。
「金色の髪をした可愛い女の子もいるよ。あれってセシリア王女じゃないかな」
カリンは言う。
俺は迷うことなく腕を振り上げ、声を張った。
「全軍止まれ!!弓兵、展開!!」
俺はベアトリスの騎兵隊の中でも弓の名手たちを集めた部隊だ。
矢が一斉に番えられる。
一団を追い立てる白き騎士団は重装鎧で勢いよく迫ってきた。
「射てぇっ!!」
俺の号令で、百本の矢が空を切り裂く。
白い鎧が矢をはじく音が響くが、数名は胸や首を貫かれて馬上から転げ落ちた。
しかし彼らの中で一際巨大な白鎧の騎士が、ゆっくりと俺へ視線を向けた。
「どうやらあの男が指揮官か」
俺は一人言う。
兜の隙間から鋭い視線を投げかける団長グレゴリオ。前にその特徴をクラリスに教えてもらったことがあら。
その威圧感は、遠くからでも異様な殺気を漂わせていた。
「レオン様、危ない!!」
ベアトリスが叫んだが、俺は眉一つ動かさず馬上から弓を掲げた。
深く息を吸い、世界の音が霞む。
放つ――。
一本の矢が風を裂き、白鎧の巨大な団長の額へまっすぐ飛んだ。
――パァン!
乾いた音とともに、グレゴリオの兜が弾けた。
白い騎士団の団長はその場で命を失い、馬から落ちる。地に叩きつけられた瞬間、白き騎士たちの動きが止まった。
「だ、団長が……!」
「撤退だ! 撤退!」
指揮官を失った白き騎士団は瞬く間に混乱し、四散して逃げていった。
俺はすぐに馬を飛ばす。
「急げ!! セシリア殿下とクラリスを救出する!!」
俺は手勢に命令する。
騎兵たちが風のように駆け抜け、一団へ駆け寄る。
泥だらけで息を切らしながら、クラリスが俺へ飛びついた。
「レオン!! 来てくれたのね!!」
「クラリス!」
俺は抱きとめ、無事を確かめる。
クラリスの端正な顔も血と泥で汚れていた。
その横で、金髪の美少女セシリア王女が深く頭を下げた。
「レオン辺境伯……お助けいただき、感謝いたします」
騎士団から守っていたのは、ヴィクトが集めた傭兵団だった。
ボロボロになりながらも、ヴィクトは敬礼する。
「遅くなりました。……報告があります」
「王都はどうなった?」
俺の問いに、ヴィクトは唇を噛みしめる。
「王都は完全にアレク公爵の手に落ちました」
「そうか、やはりというべきか」
「アレク公爵は、国王オズワルド陛下の死を聖連邦に救われた天啓と宣言し……」
ヴィクトは続ける。
「オズワルド陛下が奴隷の女に産ませた娘レイナを、新たなる神の選びし女王と宣言し、即位させました」
空気が凍りついた。
「レイナ、かつてオズワルド陛下が色に迷われたころに産まれた女子だ」
クラリスがヴィクトの報告を補足する。
「聞いたことがあります。恥ずかしながら、我が父はかつて色に迷い、王族の系譜に乗らぬ子を作ったのです」
セシリア王女が震える声で言った。
俺は拳を握りしめる。
オズワルド王は自ら混乱の火種をつくったということか。
「アレク公爵は聖連邦の神官兵を王都に入れ、その力で王宮を掌握した。つまり――」
ベアトリスがに言った。
「王都は今、ヴァルストリアの支配下も同然ということか」
ベアトリスは形の良いアゴ先に手のひらをあてる。
「白き審問会も入り込んでいます」
ヴィクトは重く告げた。
その言葉を聞いたエリスの顔が青ざめ、体が震え始めた。
「レオン様……あいつら、本当に……」
「エリス、大丈夫だ。今度は俺がいる」
俺はエリスの手を包み、しっかりとした声で言った。
その決意は揺らがない。
「セシリア殿下は俺が護る。王都を取り戻す。そのためには……アレク公爵を倒すしかないということか」
セシリアは涙をこらえながら、俺に深く頭を下げた。
「レオン……どうか、私の国を、王国を、取り戻してください」
俺は頷き、剣の柄を握り締めた。
「必ずや。王国の未来は、俺たちが取り戻す」
北風が吹き抜け、白き騎士団の残した血の匂いを遠くへ運んでいった。
王国奪還戦は、いよいよ始まろうとしていた。




