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幸運999騎士の成り上がり物語  作者: 白鷺雨月


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第二十話 酒場の王と南方新体制

 クシャーン城に帰還した俺は、すぐさま領地の再編に取りかかった。

 反逆者ゴードン辺境伯らの逮捕により、南方の指揮系統は完全に崩壊していた。

 このままではガルドリア王国どころか、山賊や魔物にさえ領地を蹂躙される可能性がある。


「よし、三人とも今日から正式に、千騎長として任命する」

 俺は大広間に立ち、ベクトル、アラミス、ベアトリスの三人を見渡した。

 彼らの表情は緊張と、わずかな誇らしさに満ちていた。

 数カ月前までは俺の言うことを聞こうとしなかった三人だ。

 しかし魔物討伐、ダリアとの酒勝負、そして俺の幸運さを目の当たりにし、今では彼らは俺に忠誠を誓うほどになっていた。


「俺たちを信頼してくれて、感謝するぜ、辺境伯様」

 ベクトルが片膝をつき、胸に拳を当てて言った。


「これより三千の兵は、我ら三人が責任を持って鍛えます」

 アラミスが貴公子らしい挨拶をする。

「精霊族と連携できる軍は、南方でもここだけですからね」

 ベアトリスがウインクしてみせる。


 俺は満足げに頷いた。

「頼りにしている。みんなで南方を守ろう」


 新体制は、こうして発足した。


 

 イザベラ公女は客将としてクシャーン城に留まることになった。

 七女神教徒ではない彼女は、白き審問会から逃れる必要があった。

 以前、俺が洗脳されたエリスに狙われたのも白き審問会の仕業らしい。

 俺が用意した客室で、イザベラは静かに礼を述べた。

「レオン様、心から感謝いたします。この恩は、いつか必ず」

「気にするな。ここは辺境だ。客人が一人増えたくらい、大した事じゃないさ」

 俺はイザベラにそう言った。

 イザベラは微笑んだ。

 その笑みには、誇り高い騎士としての強さと、国を追われる者の不安が混ざっていた。


 


 ヴィクトには王都との連絡係兼、情報収集役を任された。

 もともと盗賊として各地を歩き回っていた彼の足は速く、顔も割れていない。

 潜入と偵察にこれほど適した人材はいなかった。

 ヴィクトには移動用にクシャーンでもっとも足の速い馬スタリオンを与えた。スタリオンは騎兵隊長であるベアトリス秘蔵の名馬だ。

「任せときなレ旦那。南方の悪党と王都の腐った連中の動きは全部つかんでやるよ」

「頼もしいぞ、ヴィクト」

 ヴィクトは肩をすくめた。

「それに王都の元の俺の仲間は皆セシリア王女に味方するように説得してみせるさ」

 ヴィクトは自信満々だ。

 仲間が増えることはいいことだが、ヴィクトの元仲間とやらの実力は未知数だ。


 俺の横でダリアが横で苦笑する。

「ヴィクト、シシリアのこともよろしくお願いします」

「へへ、任された」

 ヴィクトが胸の上の革鎧をどんと叩いた。

 クシャーン城には笑いが満ちていた。


 


 そして、その夜、思わぬ来訪者があった。


 クシャーン城の酒場「カシモール亭」は、地方にしては活気にあふれている。

 南方の兵士たちと精霊族の使者、そして旅人が混ざり、酒と歌が尽きることはない。

 その酒場の中央で、ひときわ大きな歓声が湧き上がった。

「ま、負けた……!!俺が……?」

「ははは!! ダリア姉さんの勝ちだ!」

「今日も酒豪壊しの降臨だ!!」


 酔いどれたちの喚声が響く。

 俺が騒ぎを聞きつけ、が駆けつけると、中央の席でダリアが勝ち誇った笑顔で杯を掲げていた。

 一方、向かいでテーブルに突っ伏しているのは、金糸の刺繍が施された衣装を着た、どう見てもただ者ではない男だった。

「ちょ、ちょっと待て……あの顔、見覚えが……」

 アラミスが倒れる男の顔を凝視する。

「レオン様、この男……」

 ベアトリスが耳打ちする。

「ガルドリア王国の……国王レオポルド陛下です」

 ベアトリスは言った。


「は!?」

 俺は自分でもわかるほどすっかりな声をだした。

 南方の酒場に、敵国の国王が酔いつぶれている。

 常識ではあり得ない光景だった。

 レオポルドはふらつく身体を起こし、ダリアの肩に寄りかかった。


「むむ……そなた……最高だ……。こんなに酒が強い女は初めて見た!! そなた、我が国の近衛騎士にならぬか?」

 レオポルドは頭を押さえながら、ダリアに熱い視線をおくる。


「お断りします」

 ダリアは即答した。

 その迷いのなさに、レオンもアラミスも吹き出しそうになる。


「なに!! 我が誘いを断っただと……!?」

「私はレオンの侍女ですので」

 ダリアの声は落ち着いていたが、どこか誇らしさがあった。


 レオポルド王はしばらく呆然としていたが、やがて豪快に笑った。

「ははははは!! よい、実によい!! 女傑ダリアよ、ならば約束しよう。そなたがいる限り、南方に軍勢を送ることはせん!!」


「お、おい、本当に大丈夫なのか?」

 俺が小声で尋ねると、ベクトルが真顔で言った。


「陛下は嘘はつかないことで有名です。酔っていても、約束は守りますよ」

 ベアトリスが俺にささやく。


 ダリアは赤面した。

「な、なんか……変な約束させちゃったみたいね」


「いや、南方が平和になるなら、これほどありがたい話はないさ」

 俺は肩をすくめた。


 こうして、ダリアの酒豪伝説とともに、南方はひとまず平和を手に入れた。


 だがその裏で、白き審問会の影、帝国の脅威、そして王都の権力争いは着実に迫っていた。


 俺は杯を置き、静かに夜空を見上げた。

「……南方は守った。次は――」

 その先を口にせず、ただ決意を胸に刻んだ。


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