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幸運999騎士の成り上がり物語  作者: 白鷺雨月


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第十六話 森に吹く風、宝石の捕虜

 夜明け前の大森林は、薄靄に包まれていた。湿った草の匂いと、遠くで鳴く夜鳥の声。

 俺たちは息を潜めながら焚き火も使わず、静かに潜伏していた。

 その静寂を破るように、精霊族の少女カリンが耳をピクリと動かす。

「変な気配。森がざわめいてる」

 カリンの銀色の頭に生える狐耳がひくひくと動く。

 その言葉に、エリスが即座に短剣を抜いた。

「敵の偵察か?」

 きまじめにエリスはカリンに確認する。

「ううん、人の気配。でも……ただの兵士じゃない」

 カリンは眉を寄せると、狐耳をぴんと立てて森の奥を見つめた。

「わたし、見てくる」

 そう言うや否や、カリンの姿は森の木々の間に消えていった。


 残された俺たちは息をひそめる。ベアトリスが小声でつぶやいた。

「ガルドリア王国軍はまだ進軍中。クシャーン城に入ったのは前軍ということね。私たちがこのあたりに隠れているのが気づかれたら、一巻の終わりだな」

 俺は頷いた。

「だからこそ、カリンの耳と目が頼りだ。あの子の感覚は人間の何倍も鋭い」

 俺は言った。

 

 やがて、一刻ほどしてカリンが戻ってきた。息を切らし、目を見開いている。

「レオン!! 大変、あの街道に金色の鎧を着た兵士たち、それと宝石みたいに光る鎧を着た女の人がいた!!」

 息をきらしてカリンが言う。

「宝石の鎧?」

 そんな派手な鎧を着て戦場に出る者がいるのか。

 ヴィクトが眉をひそめる。カリンは何度もうなずいた。

「そう、キラキラしてて、まるで宝石のかけらでできてるみたい。みんなその人を囲んでた。すごく偉い人だと思う」

 カリンは言う。


 ベアトリスが目を細めた。

「それはまさか、ガルドリアの第十王女アナスタシア殿下では?」

 とうやらベアトリスはその宝石鎧の騎士のことをしっているようだ。

「知っているのか?」

 俺はベアトリスに尋ねる。

 俺の問いに、ベアトリスは苦い顔をした。

「かつて私が仕えていた貴族が、和平交渉の席で一度だけ会ったことがある。ガルドリア王族の中でも稀代の才女で、同時に宝石姫と呼ばれていたそうだ。政治にも軍略にも明るく、そしてガルドリア王の寵愛を一身に受けている」

 ベアトリスは思い出しながら、そう言った。

「そんな大物が、わざわざ前線に?」

 ヴィクトが口笛を吹く。宝石という単語に元盗賊の血が騒いだのかもしれない。

「おそらく、侵攻の象徴としてだろう。敵軍の士気を高めるためにね。それにガルドリア王国には王族は必ず戦場にでないといけないという不文律があるの」

 ベアトリスはそう皆に説明した。

「捕らえる。王女を捕虜にできれば、状況は大きく変わる」

 俺はそう決断した。

 これは好機だ。うまくいけば戦況をひっくり返せる。


 俺の言葉にエリスが頷く。

「正面からでは無理。でも、森を抜けて先回りすればあるいは」

「やれるか?」

「暗殺者の足をなめないで」

 エリスは小さく笑い、俺の目をまっすぐに見つめた。


 こうして夜の闇を裂くように、俺たちは森の奥を進んだ。ベアトリス率いる軽騎兵隊二百騎、ヴィクトの斥候隊、エリスとカリン、そして俺だ。

 風の音に紛れながら、誰一人として枝を踏むこともなく進軍する。


 ――夜明け。


 街道沿いに、ガルドリア王国軍の長い列が続いていた。黄金の鎧を着た親衛隊、その中心に一際輝く存在がいる。

 宝石だらけの鎧を着たアナスタシア王女だ。

 陽光を受けて、彼女の鎧がまばゆく輝く。紅玉と翡翠、サファイアを散りばめたような光。その美しさは、兵たちが歩くたびに息を呑むほどだった。


 だがその列の後方、森の影から俺たちは息を殺して狙いを定めていた。

 ベアトリスが小声で言う。

「親衛隊の動きが重い……護衛としては優秀だが、森では足が遅い。今なら、側面を突ける」

「やれ」

 俺が短く命じると同時に、全員が剣を抜いた。


 軽騎兵隊が森から飛び出す。

 矢が一斉に放たれ、親衛隊の馬が悲鳴を上げた。エリスが音もなく忍び寄り、護衛の喉元に短剣を突き立てる。ヴィクトの投げナイフが続き、黄金の鎧の騎士が倒れた。

「敵襲だ!!王女殿下を守れ!!」

 敵の親衛隊長が叫ぶが、すでに遅い。混乱の中、俺は風のように突進した。


 その瞬間、風が巻き起こる。森の精霊カリンが風精霊を呼び、敵兵たちの目を砂塵で覆った。

 俺は馬上から跳び、アナスタシアの前に立つ。

「動くな!!」

 俺の剣が王女の喉元に突きつけられる。

 アナスタシアは驚きもせず、ただ静かに彼を見返した。

「あなたが、噂の幸運の騎士かな」

 その声音には恐れよりも、どこか興味の色があった。

「お前を捕虜にする」

「いいわ。どうせこの戦も、誰かの策略でしょうから」

 そう言ってアナスタシアは自ら剣を下ろした。


 戦いは短時間で終わった。親衛隊の多くは混乱の中で逃げ、残った者たちは拘束された。

 ベアトリスが馬を降り、王女を見つめる。

「本当に、第十王女アナスタシア殿下だ。まさか本当に捕らえられるとはな」

 俺は無言で頷いた。


 カリンがそっと近づき、アナスタシアを見上げた。

「この人……悪い気はしない。敵なのに、森が怒ってない」

 その言葉に、レオンは一瞬だけ考え込む。

 この女王女は、ただの敵ではない。


 森の風が吹いた。木々がざわめき、葉が舞う。

 その中で、アナスタシア王女はレオンの顔をまっすぐに見つめ、微笑んだ。

「あなた、ただの騎士ではないわね。運命に導かれている人だわ」

 俺はその瞳を見返し、静かに言った。

「女神ティアラの使徒だ」


 こうして、南方の森に新たな火種が生まれた。

 捕虜となったアナスタシア王女、その存在が、やがて王国の未来を揺るがすことになるとは、このとき誰も知らなかった。

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