表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運999騎士の成り上がり物語  作者: 白鷺雨月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/35

第十三話 銀狐の森

 南方国境――エルディア大森林。

 鬱蒼とした木々が陽を遮り、昼なお暗いその森には、数多の魔物が棲みついていた。

 人の足が踏み入れることを拒むかのように、瘴気が漂い、風が呻く。


 俺は剣を抜いた。

 その刃に、木漏れ日が一筋の光となって落ちた。


「ここから先が、魔獣の縄張りか」

 ヴィクトは周囲を見渡す。

「まったく、なんで俺たちだけ別行動なんだ? 普通、こういうときは全隊で動くだろうが」

 ヴィクト自身もわかっているだろうに何度目かの愚痴を漏らす。

 俺はそのたびに答える。

「……おそらく意図的だ。俺たちを外したんだ」

 ベクトル副長の指示で、俺たちだけが深い森の南側へ回されていた。

 地形も険しく、地図にも載らない未開の地だ。

 明らかに新参の千騎長を孤立させる配置。つまり罠だった。

 エリスが無表情に言った。

「背後に追手の気配。彼ら……わざと私たちを遠ざけた」

 エリスの索敵能力はさすがだ。

「わかってる。だが今は進もう。目的は魔獣の討伐だ」

 俺はヴィクトとエリスに言った。



 俺たちは森を抜けるように進んだ。

 やがて湿った風とともに、血の臭いが漂ってきた。

「何かいる……」

 エリスが身を伏せる。それに俺とヴィクトが続く。

 草むらの先。巨大な熊のような魔獣が暴れていた。

 黒鉄のような毛並み、一本の角を持つ異形の獣。

 その爪に引き裂かれようとしているのは、銀色の毛を持つ小さな狐だった。

 だがよく見れば、それはただの獣ではない。

 狐のような耳を持ち、人の姿をした少女だった。

「精霊族……!」

 ヴィクトが息をのむ。

 噂には聞いたことがある。大森林には獣神と人の間に産まれた者の子孫が住むという。

 伝承に語られる森の民。

 森の精霊と共に生き、自然と対話する者たち。

 人間が近づくことを許さぬ、神秘の種族。

 俺は即座に剣を構えた。

「行くぞ、助ける」


 咆哮が暗い森に響く。

 巨熊が振り下ろした爪が大地を裂いた。

 その風圧だけで木々がしなり、土が舞う。

 俺は身を低くして駆け、熊の懐に滑り込む。

 剣閃が閃くが、厚い皮膚に弾かれた。

「硬すぎる……!」

 熊が吠え、俺の体が宙に舞う。

 その瞬間、ヴィクトの短剣が飛んだ。

「おらあッ!」

 短剣が熊の目をかすめ、血飛沫が上がる。

 だが熊は怒り狂い、反撃するように木をなぎ倒した。

 木々が音を立てて崩れ落ちる。

「下がれ!」

 俺は倒れた木の下に転がる。

 その刹那、熊が再び突進してきた。

 エリスが跳び上がり、双刃で熊の首筋を狙うが、爪の一撃で弾かれ、地面に叩きつけられた。

 俺は立ち上がり、折れそうな剣を握り締める。

 熊が牙を剥き、咆哮を上げたその時だ。


 バキィィン!


 上方で大きな音が鳴り響いた。

 古い巨木がきしみ、ゆっくりと傾き始めた。


「……嘘だろ」

 ヴィクトが呟く。

 倒木が熊の背に直撃した。

 大地が揺れ、土煙が舞い上がる。

 巨体が崩れ落ち、動かなくなった。

 あまりの偶然に、ヴィクトとエリスは一瞬、声を失った。

「……旦那、どんだけ運がいいんだよ」

 ヴィクトが呆れたように笑い、俺は剣を鞘に収めた。

「いや、違う。運じゃない。女神の導きだ」

 その言葉に、エリスが小さく頷いた。

 確かにあの木が倒れる確率など、ほとんど奇跡に近い。





 銀狐の少女はゆっくりと立ち上がった。

 白銀の髪に狐耳、そして澄んだ翠色の瞳。

 人ならぬ美しさがそこにあった。


「……助けてくれて、ありがとう」

 柔らかな声。どこか風の音のようでもあった。

「あなたは……精霊族か?」

 俺が尋ねると、少女は小さく頷いた。


「私はカリン。森の族長の娘です。人間に助けられるなんて、初めてです」

 その言葉にヴィクトが苦笑する。

「そりゃそうだろ。普通、精霊族は人間見たら逃げるからな」

 カリンは俺をじっと見つめた。

 その瞳の奥に、何かを感じ取ったように微笑む。

「あなた……不思議な力を持っている。森の精霊が、あなたに祝福を与えている」


 俺は驚いた。

 ティアラの加護――幸運の女神の力。

 それをこの少女は感じ取ったのだ。


「カリン、君の村は安全か?」

「ええ。けれど、最近は森に魔物が増えている。あなたたちが倒した熊も、森の均衡を乱す何かの影響」


 俺は頷く。

「ならば協力しよう。この地を守るのは、俺の任務でもある」

 その言葉に、カリンは一瞬目を見開き、やがて微笑んだ。

「わかりました。私の一族はあなたを敵としません。

 森の精霊族はレオン・アレスターに味方します」

 森の風が柔らかく吹き抜けた。

 俺は空を仰ぐ。

 枝の間から光が差し、白い狐の毛がきらめく。


 偶然か、必然か。

 いやこれも女神ティアラの導きだ。


 新たな盟友、精霊族。

 南方の地で、俺は確実に力を集めつつあった。

「行こう。まだ始まったばかりだ」

 俺は歩き出す。

 その背を、ヴィクトとエリス、そしてカリンが追った。

 遠くで、森の精霊たちが祝福の鈴の音を鳴らしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ