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夫に逃げられ疫病で死んだ令嬢、二度目の人生では婚約破棄から領地の衛生改革で未来を変えます!!  作者: ジェネビーバー


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22/22

最終話 人生2度目な貴族令嬢は前世の記憶と財力で今日も清潔に生きていく

「それでは行ってきますわ」


 冬の季節が終わり、温かな春風が体を優しく包みこんでくれる季節。

私はハーヴェイ領の入口で別れの言葉を口にします。

クラウスの殺人未遂の1件から数カ月後。

私は1年限定領主の任期を終えましたわ。

お父様も外交が終わり、ハーヴェイへと戻ってきました。

これで、私も御役御免……というわけにはいきませんでしたわ。


 なにぶん、仮初とはいえ私はクラウスと婚約をしたのですから。

元々、私がハインツをぶん殴るための一時的な口約束でした。

目的は達成されたので、すぐにでも破談するべきでしたわ。


 けれど、国中の糞尿を除去する壮大な計画を遂行するためには、私の身分は低すぎます。

ならば、このままクラウスの妻となり、王族として政治に関わる方が良いと判断したわけですわ。

もちろん、クラウスにも了承済みです。


 そうして、しばらくの準備期間を経て、私は今日、ハーヴェイの領地を離れて王都へと住まいを移しますわ。

街の入口ではお父様と仲間たちが見送りに来てくださってます。


 あくまで住まいを王都へ移すだけで、永遠の別れではございません。

ですが、ハーヴェイ領を離れるとなれば、皆には簡単に会えなくなってしまいますわ。

その寂しい気持ちは皆も同じなのでしょう。各々、名残惜しむように言葉をかけてくださいます。


 まずは、お父様が自身の顎髭を触りながら口を開きますわ。


「しかしまあ、ルイゼはワシよりも身分が偉くなってしまったなぁ」


「あら、お父様。たとえ私が王族になろうとも、お父様の娘であるのは変わりませんわよ」


「それは、そうなんだがなぁ。いざとなると寂しくなる。辛くなったら王都へ行っていいか?」


「ふふ、普通は逆ですわよ。もし、私が辛くなったら帰ってきますわ。だから、お父様は私の帰るべき故郷であるハーヴェイを守ってくださいまし」


「そう言われたら頑張るしかないな。いつでも帰ってきなさい」


 そう告げると私とお父様は抱擁いたします。

ありがとうございますわ。


 そして、次にアロンが声をかけてきます。


「そんじゃあな、ルイゼの姉ちゃん」


「ええ、アロンも。貴方たち清掃員のおかげで、ハーヴェイの土地も随分と住みやすい環境になりましたわ」


「それよりも、ルイゼの父ちゃんが引き続き給料を払ってくれるかが心配だぜ」


 すると、お父様が豪快に笑いながらアロンの頭をガシガシと撫でてくれます。


「ガッハッハ、ワシを誰だと思っている。あのルイゼの父だぞ」


「あ、うん。この良い意味で雑に扱われる感じ、ルイゼの姉ちゃんと同じだ。よろしく頼むよ、パウル様」


 と、アロンは呆れ混じりにため息を漏らします。

このやり取りだけで安心だと分かりますわね。


 その2人の様子を面白そうに眺めていたアオイが声をかけてくださいます。


「ふふふ、やっぱりハーヴェイ領は面白い所やなぁ。だからこそ、ルイゼはんが王都に行ってしまうのは寂しいわぁ」


「そう言いつつ、王都で店を構える準備をしているのを私は知っていますわよ?」


「おんやぁ、バレておりましたかぁ。大祭典以降、一部の貴族からお声をかけて頂きましてなぁ。ルイゼはんのおかげやわぁ」


「相変わらず抜け目がないですわね。その調子で、私が困った時には助けてくださいまし」


「もちろん、お金儲けになる話ならいくらでも聞きますわぁ。今後ともごひいきに」


 この様子だとアオイとは長い付き合いになりそうですわね。

そう感じながら私達は別れの言葉は交わさず、握手のみを交わします。


 そして、最後にずっと獣耳を項垂れさせているレニに声をかけますわ。


「レニ、貴方を連れて行けずに申し訳ございません」


「お気になさらないでください。そもそも、オーバードルフ現国王はルイゼ様の仰る獣アレルギーという病気なのでしょう? でしたら、私がついて行ってしまえば迷惑になります」


「それに加えて、一部の領地では未だに亜人差別もありますわ。私はレニには傷ついてほしくはありません。ですけど、私は貴方を手放すつもりは毛頭ございませんわ」


「それは、つまりどういう意味なのでしょうか?」


「せっかく王族になったんですもの。何年もかけて国民や貴族たちの意識を改善していきますわ。そして、亜人も住みやすい国を作りたいのです。二度とハインツのような者を出さないためにも」


 今でも残る選民思想。ある意味、ハインツはその象徴の1人とも言えますわ。

しかし、最終的には彼は破滅の道を辿ってしまった。

だとしたら、二度と彼のような者を出さないためにも、思想の改革も進めていかないといけませんわ。

それが、生き延びた私が行うべき責務ですから。


「だから、しばらくのお別れですわ。いずれ亜人がどの土地でも生きやすくなった時には、必ずレニを迎えに行きます」


「ええ、いつまでもお待ちしております。私はルイゼお嬢様のメイドですから」


 そうして、私とレニは強く抱き合います。

その短い抱擁と、これからの長いお別れを告げた後、私は馬車へと乗り込みます。

中ではクラウスが待っており、笑顔を作ります。


「ルイゼ、お別れは済んだかい?」


「ええ、もちろん。クラウスも私の我儘に付き合わせてごめんなさいね。結婚を利用する形にして申し訳ございませんわ」


「気にしていないさ。それに、君は最後まで民のために尽力する人だと思っている。僕が惚れてしまうくらいにね」


「あらまあ、冗談がお上手ですこと、ふふふ」


「……僕の目標が1つ増えたよ」


「??」


 私はクラウスの目標が増える発言をしたでしょうか?

まあ、私と違い、王族であるクラウスにしかない考えがあるのでしょう。


 私は深く気にせずクラウスとの会話を終えると、馬車の窓枠から顔を出し、仲間たちに向けて元気な声を届けます。



「それでは、行ってきますわっっ!!」



 ウンコが原因で死に、再び始まった二度目の人生。

今度こそ後悔無きよう生きてみせると誓い、駆け抜けた1年。

私は多くの物を得ましたわ。


 だからこそ、これからも沢山の出会いと多くの経験を得たいと思います。

私は皆が生きるこの世界が大好きだから。


 そう決意を胸にして、大きく息を吸い込むと、透き通るようなハーヴェイ領の空気が私の体内へと入っていきます。


「もう、臭くありませんわね」


 そんな小さな独り言を天へとかき消し、私は二度目となる人生を今日も生きていくのでした。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!!

これにて第1部は完結です。最後までお付き合いいただけたことに感謝いたします。


もし「続きが読みたい」と思っていただけましたら、

ぜひブクマや評価で応援していただけると励みになります。

読者の皆さまからの反応が、続編を執筆するかどうかの大きな目安になりますので、

一言でもいただけるととても嬉しいです!!

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