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「はい、現在調べているところでございます。明日には報告できるかと」


「そうなのね、流石セバスありがとう。仕事が早くて助かるわ」


「ありがたいお言葉、感謝いたします。ところでお嬢様、王太子殿下より先ほど使いがありました」


 シルヴァンからの使いと聞いて、アレクサンドラはなにを言われるのか少し不安になった。


「そう、それでなんの用件だったのかしら?」


「はい。昨日の件で王妃陛下が大変お喜びで王太子殿下からお礼を言いたいとのことでございます」


「殿下が?!」


「はい、そのとおりでございます」


 今日は領地にある川に毒を流したと言われた件について調べようと思っていた。誕生会まで、あと六日。当然シルヴァンに関わる余裕などなかった。


「殿下にはとても申し訳ないのだけれど、体調がすぐれないから行けそうにないとお断りしてちょうだい」


「さようでございますか。承知いたしました」


 セバスチャンはそう答えて一礼し部屋のドアの前まで行くと立ち止まった。そして、なにか思い出したようにこちらに振り返ると言った。


「お嬢様、もう一つシャトリエ男爵令嬢について報告がございます」


「あら、なにかしら?」


「はい。これは先ほどわかったことなのですが、シャトリエ男爵令嬢は本日お茶会に参加することになっておりまして、そこでお嬢様に嫌がらせされる予定になっております」


「そう……」


 アレクサンドラはそう答えて報告書に視線を落としかけて、もう一度セバスチャンを見つめた。


「ちょっとまって、それはどういうこと? 意味がわからないわ。(わたくし)今日はお茶会へ行く予定はないはずよ?」


「はい、承知しております。ですが、シャトリエ男爵令嬢が先日トゥール侯爵令嬢に『今度お茶会の予定があるが、そこでデュカス公爵令嬢と会うことになるので嫌がらせをされるかもしれない』と話していたとの報告が入りました。調べましたところ、それが本日の予定だと判明いたしました」


「信じられないわ、よくもそんな嘘を……」


「はい。ですから先手を打って、お茶会へ参加していなかったことを証明できるようにする必要があるかと思われます」


 ここまで言われて、アレクサンドラはセバスチャンがなにを言わんとしているのかようやく理解できた。


「わかったわセバス。あなたは(わたくし)に殿下のところへ行くべきだと言いたいのね」


「いいえ、とんでもないことにございます。それはお嬢様が判断されること、(わたくし)ごときが意見をすることではございません」


 アレクサンドラは大きくため息をついた。以前ならシルヴァンに呼ばれたら喜んですぐにでも馳せ参じただろう。


 だが、今となってはどうでもいい存在になっていた。


 好きだからこそ、無下にされても我慢ができたが今そんな態度をされてはこちらの気分が悪くなるだけである。


 そう考え憂鬱になったが、今後のためだと自身に言い聞かせ覚悟を決めるとセバスチャンに言った。


「セバス、殿下にはそちらの都合の良い時間に伺うと返事してちょうだい」


「承知しました。そのようにいたします」


 セバスチャンはそう言って、部屋を出ていった。


 なんとなくセバスチャンに言いくるめられたような気もしなくはないが、結果的にはこれが名案かもしれない。


 そう思いながら、王宮へ向かう準備をした。





 以前ならシルヴァンに会うとなれば念入りな準備をしてでかけたものだったが、今はシルヴァンに興味がなく時間もないことから、アレクサンドラは最低限失礼のない格好で出かけることにした。


 馬車が王宮へ着くと、グラニエがアレクサンドラを出迎えた。


「グラニエ、昨日といいご苦労さま」


 アレクサンドラは、シルヴァンや自分のような令嬢の気分一つに振り回されるこの、近衛隊長を気の毒に思うと思わず労いの言葉をかけた。


 すると、グラニエは満面の笑みで答えた。


「とんでもないことでございます。昨日(さくじつ)は立ち会わせていただいたこと、光栄に思っています。私としては感謝したいぐらいですよ」


 アレクサンドラはそう言って差し出すグラニエの手をとると、エスコートされ王宮のエントランスへ入って行った。


「グラニエ、今日はそんなに時間がかからないと思うの。馬車は……」


 そう話している途中で、アレクサンドラはエントランスでシルヴァンが出迎えていることに気づき驚きのあまり足を止めた。


「殿下?!」


「アレクサンドラ、なにをそんなに驚くことがある?」


「い、いえ。殿下が(わたくし)ごときを出迎えるなんて思ってもいなかったので」


「君を呼びつけたのは僕だ。当然のことだろう」


 シルヴァンはそう言うと、グラニエから奪うようにアレクサンドラの手をとり腰に手を回してエスコートし始めた。


 アレクサンドラはそのシルヴァンの態度に少し驚きながらも、無言でエスコートに従った。


 そのまま客間に通されると、促されるままソファへ腰掛けすぐに口火を切った。


「殿下、恐れながら申し上げます。昨日のことでしたら防衛を司る者の親族として、いえ、国王陛下に忠誠を誓う者として当然の行いだと思っていますわ。ですから、殿下が気遣う必要はございません」


 するとシルヴァンはいつもの無表情で答える。


「それでも、君はこの国の大きな問題を解決したのだから国王陛下や僕が感謝するのは当然のことだ。それに、今回のことで盗難事件を解決しただけではなく、この国の膿を出すことができた。その功績と貢献は計り知れないものがある」


「ありがとうございます」


 アレクサンドラはシルヴァンが借りを作りたくないのだと気づくと、面倒臭いと思いながらシルヴァンを満足させさっさと帰ることだけを考えていた。


 シルヴァンは褒めてはいるものの、にこりともせずに言った。


「王妃殿下が君のことをとてもよく褒めていた。もちろん国王陛下もだ。なにか欲しいものはないか? 褒美をやろう」


 これでは褒めたいのか、こちらの気分を悪くさせたいのかわからないと思いながらアレクサンドラは思考を巡らせ、シルヴァンが喜ぶような答えを言った。


「では、一つお願いがございます。婚約を解消してください」

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