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 そんなアレクサンドラの様子に気づくこともなくシルヴァンは言った。


「ところで、君は一応僕の婚約者だ」


 そう言われ、先ほどお茶にも誘わなかったことに対して怒っているのかと思ったアレクサンドラは、文句を言われるのだと、思わずグラニエをつかむ手にさらに力を入れた。


「殿下はいつもお忙しくされていますので、今日はご挨拶だけにしておこうと思ったのですが、なにか失礼がありましたでしょうか?」


「そのことではない。いや、それも少し気にはなるが。そうではなく、君もグラニエも未婚だ」


 それを聞いてアレクサンドラはハッとして顔を上げた。


「殿下、グラニエと(わたくし)はそのような関係ではなく、今日はこれから父に会うことになっています。変な噂にならないよう配慮いたしますから、ご安心ください」


 そう答えると、もう一度頭を下げた。


「そういうことではない。その、ほら、手だ」


 こんなに動揺した様子のシルヴァンをアレクサンドラは初めて見た。


「手、でございますか?」


「そうだ。お互いにずいぶん力強く手を握っているようだが?」


 アレクサンドラとグラニエは顔を見合わせ、さっと手を離すと、グラニエがシルヴァンに説明した。


「そういうつもりはありませんでした。城内でも、ここは特に迷いやすい場所ですから離れないようにしていたのですが、軽率な行動でした。申し訳ございません」


「そうか、わかった。ではここからは僕が代わろう」


 シルヴァンはそう言ってアレクサンドラに手を差し伸べた。


 アレクサンドラはなにが起こっているのかわからず、しばらく差し伸べられた手を見つめるとやっとその意味を理解し口を開いた。


「殿下、それはとても恐れ多いことでございます。殿下の貴重なお時間をいただくわけにはまいりません。この先は、気をつけますのでどうぞお気遣いなく」


「別に気を遣っている訳では無い。ちょうど君の話を父から聞いて立ち会いたいと思っていたところだ。それとも、僕が一緒に行っては不都合か?」


「いえ、滅相もございません」


 なんて強引なのだろう。アレクサンドラはそう思いながら、仕方なくシルヴァンの手を取った。


「よし、では行こうか」


 そう言ってグラニエからランプを受け取ると、扉の中へアレクサンドラをエスコートした。


 暗く長い廊下をまっすぐ無言で歩いていると、その先に小さな灯りが見えた。近づいて行くに連れその灯りの横にテオドールが立っているのが見えた。


 テオドールもこちらに気づくと、驚いた様子で言った。


「殿下、殿下もこちらに?」


「あぁ、少し興味があった」


「そうですか、娘のわがままのために申し訳ありません」


「いや、アレクサンドラはいずれ王妃になる。金庫室を見ておくのはそんなに悪いことではない」


 その台詞を聞いて思わずアレクサンドラはシルヴァンの顔を見た。シルヴァンは目が合うと少し不満そうに訊いた。


「なんだ、君が王妃になるのは間違いないだろう?」


「は、はい……」


 実は理由をつけて婚約を解消してもらおうと思っていたため、これで解消しづらくなったと少し後悔した。


 だが、今はそんなことを考えている場合では無い。そう気持を切り替えると、テオドールに言った。


「お父様、では金庫室に入りましょう」


「ん? そうだったな。お前も書類を読んだなら知っているかもしれないが、ここは持ち物を近づいする場所で金庫室はまだこの扉の向こう側の、廊下を行った先にある」


 そう答え、扉の鍵を開けるとその先へ歩き始めた。アレクサンドラもシルヴァンとそれに続いて歩く。


 そのとき背後からバタバタと忙しない足音が近づいて来た。


「愛妻家に許可をもらったよ! 僕も入れて!!」


 すると、シルヴァンが面白く無さそうに言った。


「邪魔なやつめ」


「なんてこと言うのさ! ま、気持はわかるよ? でもこんなに楽しそうなこと、見逃せないし! 我慢してね〜。それに国王陛下は邪険にしなかったよ〜!」


「国王陛下は君に甘すぎるな。とにかく、大人しくしていろ」


「は〜い」


 ファニーはそう答えると、静かにアレクサンドラの後ろに続いた。


 廊下をまっすぐ進んで行くと、突然扉が現れた。


「ここが金庫室だ」


 テオドールは首に下げていた鍵を取り出すと、それで鍵を開けると少し空間があり、その先にもう一つ扉が現れる。


 もう一つの鍵でその扉を開けると、やっと金庫室にたどり着いた。


 グラニエが金庫室にあるランプすべてに火を灯すと、中はかなり明るくなった。


 シルヴァンは部屋の中を見渡すとアレクサンドラに向き直った。


「さて、準備はできたようだ。アレクサンドラ、ここでなにか調べたいのだろう?」


「はい。あの、グラニエ様。できれば、ネックレスが保管されている金庫の鍵を開けて中を見せてもらってもよろしいですか?」


 グラニエは驚いてシルヴァンの顔色をうかがった。


「かまわない金庫を開けろ」


「はい。承知いたしました」


 そう答えてグラニエは金庫を開けた。


 金庫の中には同じようなネックレスケースが綺麗に並んで保管されている。


「やっぱり」


 アレクサンドラがそう呟くと、シルヴァンが反応する。


「『やっぱり』とは? 一体どういうことだ? なにかわかったのか?」


「確証はありませんけれど。当日の状況を再現できますわ」


「なんだって?」


 シルヴァンとテオドールは同時にそう言った。アレクサンドラはそれを見て微笑むと、金庫の中から一つネックレスケースを取り出しそれを開けて中を確認する。


「このエメラルドの首飾りを盗むことにしますわ。よろしいかしら?」


 そうグラニエに言うと、グラニエは少し困惑したような顔をしたが頷く。


 そうしてアレクサンドラは当日のトゥーサンの役を、ファニーにカジム役をやるように指示し、耳打ちをするとグラニエには当日を再現するよう言った。


 シルヴァンとテオドールには、金庫室の入り口で立ってすべて見ていてもらうことにした。


 当日と同じ条件になるように、先ほど開けた金庫にエメラルドの首飾りを戻すと鍵をかけ、金庫室の二重扉の前から再現を開始した。


 カジム役のファニーに挨拶をし、グラニエと二人で金庫室に入る。グラニエが金庫室の明かりをすべてつけている間に、アレクサンドラは金庫室に置いてある空いているネックレスケースを素早く手にとって床に投げた。


 部屋が明るくなったところで、アレクサンドラは叫ぶ。


「あれは、エメラルドの首飾りのケースですわ。大変、なぜあんなところにありますの?」


 そう言うと慌てて駆け寄り、中身を確認する。


「入っていませんわ。グラニエ、すぐにネックレスの金庫を開けてください」


「は、はい。わかりました」

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