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 なぜすぐにテオドールに報告しなかったかというと、警備上ここから宝石を持ち出すことは不可能だとわかっていたからだ。だからこそ、まずは城内と使用人と兵士の宿舎をチェックしたのだ。


 まず金庫室は二重扉になっており、二十四時間警備がついている。窓はなく、空調のための通気孔があるがカバーがされているため、そこに物を入れることはできない。


 金庫室の鍵は三つありテオドールとグラニエが一つづつ持ち、もう一つを国王が持っている。


 テオドールとグラニエは首から鍵をかけ肌身離さず持ち歩いているし、国王陛下の持つ鍵は厳重に管理されているため複製を作ることは不可能だろう。


 よしんばどうにかして金庫室の鍵を手に入れたとしても、宝石は各々金庫に保管されている。金庫を開けなければ持ち出せないのだ。


 金庫の鍵は国王陛下が持っており、許可がでなければ持ち出せない。


 続いて金庫室の前には二重扉の前に長い廊下があり、その手前に兵士が常に三人は常駐している。それは出入りの者の持ち物チェックをするためだ。


 うまく持ち出そうとしてもまずここで止められるだろう。


 だがもしも、兵士たちに内通者がいたとしてグラニエたちの目を盗んで金庫室から持ち出し荷物チェックをすり抜けたとする。


 それでも城外へ持ち出すことはやはり不可能といえるだろう。


 金庫番は自由に外出することを許されておらず、一ヶ月は城からでられず外界との接点も取ることは許されていない。


 さらに荷物や物に紛れ込ませて外部に持ち出す可能性もあるため、食事から衣類リネンに至るまで厳重にチェックされている。


 その上、毎日のように不定期に宿舎の荷物検査が行われるのだ。


 なので理論上、どうやっても城から運び出すことができないはずである。


 もしも、それでも運び出されたとしたのならかなりの人数の裏切り者が内部にいることになる。


 シャトリエ男爵家にそれだけ裏切り者を囲えるぐらいの財力はあるだろうか?


 そんなことを考えているところへ、ロザリーの慌てた声となにかハイテンションに話をするファニーの声が廊下の向こうから近づいてきた。


 そして、勢いよく部屋のドアが開かれる。


「ちょっと! どういうことさ! せっっかくキャンディのためにドレスを三着もデザインしたってのに、見にも来ないなんてさぁ。ドレスに対しての冒涜だよ~!」


 そう言いながらずかずかと部屋に入ってくるファニーを後ろからロザリーが追いかけ、引き止めようとしている。


「いけません、ファニー様。お嬢様は今とてもお忙しいのです。邪魔をしないでください!」


 ファニーはいつも大きなピンクのマジックハットに、大きなピンクの羽をつけピンクの燕尾服といういでたちの、変わったデザイナーだ。


 変わり者だがその腕は確かなもので、貴族の間でもとても人気があった。


 しかも、自分が気に入った相手のデザインしかしないというので、誰しもが彼のデザインしたドレスを着ることはできない。


 そのせいもあってか、今社交界では彼のデザインしたドレスを着ることができるのは、一種のステータスとなっていた。


 アレクサンドラは自分の気に入ったドレスさえ着られれば、誰のデザインでもかまわないと思っていたがある日ファニーの方から押しかけてきて、デザインを申し出た。


 断る理由もなく、今回お願いしたのだが型破りな彼のデザイン方法や、デザインには驚くことばかりだった。


 ときにアレクサンドラに対しても横柄な態度をとることがあり、礼儀も欠いているがどこかしら憎めない人物たった。


 ファニーは、ロザリーの方を振り返りながらアレクサンドラを指差した。


「あれのどこが忙しいってのさ! ただ書類読んでるだけじゃん! ドレス合わせより大切なことなんてないのにさ」


「お嬢様、申し訳ありません。すぐにファニー様にはお引き取りいただきますから」


 アレクサンドラはファニーという人物をよく知っていた。こうなっては絶対に引き下がらないだろう。


「いいわ、ロザリー。大丈夫。少しなら時間があるから」


「ですが……」


「ほら〜。いいんだって! やっぱり来てよかった! んじゃキャンディのドレスを……」


 そう言ってファニーはアレクサンドラに向き直り、顔を見つめると動きを止めた。


「あれ? キャンディ?」


「どうしたの? (わたくし)の顔になにか付いてるかしら?」


 アレクサンドラがそう尋ねると、ファニーは不思議そうに言った。


「君、本当にキャンディ?」


「えぇ、そうよ。偽物でもなんでもないわ」


 すると、ファニーは顎に手を当てて首を傾げる。


「僕の知ってるキャンディじゃないよ! なにかあった?」


 アレクサンドラは驚く、このファニーという人物の観察眼は本当に侮れない。


「そうね、そうかも知れないわ」


「なんだ〜、早く言ってよ。これじゃあドレスは作り直しじゃん」


 そう言うと、アレクサンドラの周囲をぐるぐると回りだし頭の先から爪先までじっくり見始めた。


「ファニー、誕生会まではあと一週間しかないわ。作り直す必要はないわよ」


 するとファニーは立ち止まって不機嫌そうな顔をした。


「そういう訳にはいかないよ! あれはキャンディに作ったドレスだもん。ノビーレドンナのドレスじゃないから作り直さないと!」


「あの、えっと、ノビーレドンナ?」


「うん、そう。ノビーレドンナ」


 よくはわからないが、キャンディからあだ名がノビーレドンナに変わったらしい。


「一週間で作れますの?」


「作れるか、作れないかじゃないの。作るんだよ!」


「そう」


「そうなの!」


 そう答えると、ファニーはスケッチブックを片手に適当に椅子を引きずってくると、そこへ座り込んだ。


「ちょっと、ファニー。もしかしてこれからここでデザインを?」


「うん! 僕はノビーレドンナのことを知らないもん。少し観察させてもらうね! もちろんノビーレドンナの仕事の邪魔はしないから大丈夫だよ!」


 アレクサンドラは慌てた。これからテオドールに掛け合って王宮の金庫室へ入れてもらえないか聞いてみようと思っていたからだ。


 ファニーについてこられては、なにもできない。


「ファニー、申し訳ないけれど今日は無理よ」


「大丈夫、大丈夫! 気にしない、気にしない。なにか問題があるなら僕、愛妻家に掛け合うから」


「え? 愛妻家? 誰ですの? お父様のことかしら?」


「違うよ、親バカのことじゃなくて愛妻家だよ! 一応この国のトップなんだし、大丈夫でしょ!」


「もしかして、国王のこと?」


「だから、そうだってば!」


 確かに、ヴィクトル・ウィル・フォートレル・アヴニール国王とオデット王妃は仲がよいと言われてはいるが、だからといって国王をそんなふうに呼ぶなんて、なんておそれ知らずなのだろうとあらためてファニーを見つめた。


 ファニーはそんなことはどこ吹く風で、何やら独り言を言いながらスケッチブックに向かっている。


 アレクサンドラはとにかく、適当に煙に巻いてファニーから離れるしかないと思いながら、ひとまずテオドールが仕事へ向かう前にもう一度書斎へ向かった。


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