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 その盗難されたとする真珠のネックレスは、パール・オブ・プリンセスと呼ばれているもので、オデット王妃が手に入れたとても珍しい大粒の十ミリはあろうかという真珠をネックレスに仕立てたものだった。


 世界でもこんなに品質も高い大粒の真珠のネックレスはパール・オブ・プリンセスただ一つだろうと言われており、アヴニール国では国宝として扱われていた。


 それが二ヶ月前、突然盗まれてしまったのだ。


 国宝と言われているだけあって、当然だが厳重な警備下に置かれていたにも拘らずである。


 夢の中でアリスは偽の売買契約の書類を用意していた。


 あの売買契約の書類を偽造だと言うには、それを製作した者を見つけ出し証言させなければならないだろう。


 だが今は偽装した者を探しだしているような時間はない。


 アレクサンドラは頭を抱えた。


 そこで考えた。冤罪を晴らすには真珠のネックレスを追ったほうが早いかもしれないと。


 幸いアレクサンドラの父親であるテオドールはこの国の防衛を担っている。きっとテオドールならあの事件について詳しい詳細を知っているはずだ。


 お父様にあの事件のことを聞いてみよう。


 そう思ったアレクサンドラは夜明けを待つとテオドールの書斎へ向かった。


 焦る気持を抑えてドアをノックする。


「こんな時間に、誰だ?」


「お父様、(わたくし)です。アレクサンドラですわ」


「アレクサンドラか、入れ」


 部屋へ入ると、テオドールはいつものようにすでに机に向かって書類の整理をしているところだった。


「お父様、忙しいのにごめんなさい。少しお時間いただけるでしょうか?」


「なにを言っている、可愛い娘のために時間を惜しむ父親などいるものか。どうした? ドレスのことか?」


「違いますわ、ドレスはどうでもいいのです。実は(わたくし)昨夜、推理をする小説を読んだんですの。それで真珠事件のことを思い出したんですわ」


「ん? 真珠事件? あぁ、パール・オブ・プリンセス盗難のことか」


 そう答えると、テオドールは苦虫を噛み潰したような顔をした。それもそうだろう、自分の監督下においてまんまと国宝を盗まれてしまったのだから、嫌な記憶として残っているに違いなかった。


「そうですわ。その件について調べてみたくなりましたの。もちろん、お父様や部下のかたが調べ尽くしたことはわかってますわ。ただ、ど素人である(わたくし)からの視点で、なにか気づくことがあるかもしれないと思いましたの」


 するとテオドールは自身の顎に蓄えた髭を撫でながら、アレクサンドラをじっと見つめたあと言った。


「確かに、そういう考え方もあるな」


「絶対に誰にも話したりしませんし、他の者には知られないように調べますわ。ねぇ、お父様お願いですわ、詳細を教えてくださいませ」


 テオドールは腕を組み、目を閉じた。


「警備の機密事項については話せない。概要のみでいいなら話せるが……」


「それで構いませんわ。あと、その時に警備を担当していた兵士の名前も聞きたいですわ」


「なぜだ? 言っておくが、彼らの身元はとてもしっかりしたものだ。それは何度も調べてある」


「わかってますわ。(わたくし)は兵士たちを疑っているわけではなくて、聞いておいたほうがその日の流れが頭に入りやすいんですの」


 これは大嘘だった。


 夢の中でアレクサンドラが捕らえられたとき、兵士たちが買収されていたのを知っているからだ。


 この事実を知っているのは今のところアレクサンドラだけであろう。これだけでも、事件解決の糸口になるのではないかとアレクサンドラは考えていた。


「そうか、なるほどな。人の動きを見たいといったところか。わかった、すぐにでもお前の部屋に書類を届けさせる」


「ありがとう! お父様、大好き!」


 いつもならそんなことは言わないが、あの夢を見たあとということもあり、思わず言ってしまった。


「わかったわかった。こんな時だけそんな調子のよいことを言って。用件はすんだな? なら、早く部屋に戻りなさい」


 そう言ってテオドールはアレクサンドラを部屋から追い出したが、口元がニヤニヤしていたのを隠しきれていなかった。


 書斎を出ると、アレクサンドラはテオドールが自分に甘いことを感謝した。


 いつもなら、それをわかっているうえでテオドールに恥をかかせないよう、とんでもないお願いやわがままは言わないようにしてきた。


 今回、国の一大事の概要だけでも娘に話すなどとんでもないお願いを聞いてくれたのは、普段からのアレクサンドラの行いによる信頼もあるのだろう。


「絶対に、お父様には恥をかかせませんわ」


 そう呟くと部屋へ戻った。


「お嬢様、お待ちしていました。どこへ行ってらしたのですか? デザイナーのファニー様がもう準備を始めているようですよ」


「そうだったわね、悪いけどドレス合わせは中止するわ。それどころじゃないもの」


「わかりました。ではいつドレス合わせをされます?」


「いらないわ、ファニーにはブルーのドレスにすると言っておいて」


 夢の中では美しいエメラルドグリーンのドレスを選んだが、アリスのドレスの色と被っていたし夢の中と同じ色にするのも嫌だった。


 それに本当に夢の中で起きたことが実際に起きるならば、ビシッと言い返さなければならない。エメラルドグリーンのふわふわしたドレスより、ブルーのドレスの方が締まりがあってその状況にふさわしいだろう。


 だが、ロザリーはとても困惑した顔で訴える。


「そんな、お嬢様。仕上がりを見もしないで決めてしまってよろしいのですか?」


「いいのよ、わかってるから」


 そこへ執事のセバスチャンが書類を持って部屋へ入ってきた。


「お嬢様、旦那様から預かった書類にございます」


「セバス、ありがとう」


 アレクサンドラはそう言うとその書類を受け取り、呆気に取られているロザリーに下るよう言いつけると、自室の机に向かい書類に目を通す。


 事件の概要はこうだ。  


 三月二十日の午前十時、宝石の管理者のトゥーサンがグラニエ衛兵隊長とともに、宝石の手入れのため金庫室を訪れ金庫室の床にパール・オブ・プリンセスが保管されていた箱が落ちていることに気づいた。


 慌てて拾い上げ、箱の中身を確認するも中は空だった。慌てて見張り番をしていた兵士カジムに声をかけ金庫番の召集をかけると、全員で金庫の中も外もくまなく探した。


 だが、パール・オブ・プリンセスは見つからなかった。


 午後一時になり、ようやく一報がテオドールに知らされすぐさま現場に駆けつけた。


 テオドールが到着したさい金庫室はすべて調べ尽くされており、その周辺や城内もくまなく探されたあとだった。


 グラニエ衛兵隊長曰く、使用人たちや兵士の宿舎のすべての部屋や荷物を検査したが見つからず、城から運び出されたことが確実だと気づきそこでやっとテオドールに報告したとのことだった。

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