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婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています  作者: みゅー


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「ちょっとした用事があるのよ」


「そうなのですか、わかりました。どこに行かれるかわかりませんが楽しんでらしてくださいね!」


 そう答えてロザリーは無邪気に笑った。


 アレクサンドラは、クールナン伯爵夫人のお茶会に乗り込むつもりでいた。


 実はこのお茶会、夢の中でもお断りして参加していないお茶会だった。


 そのお茶会ではちょっとした刃物騒ぎがあった。


 これは翌日になってデュカス家に来た兵士に聞かされて知ったことなのだが、アリスがたまたま刃物を持ち込んだ使用人を発見したそうだ。


 そしてその使用人はデュカス家の使用人だと名乗った。


 少し考えれば犯人が本当のことを言う訳がないとわかるものだが、その場にいた貴族たちはそれを信じたようだ。


 でなければ兵士がわざわざデュカス家に事情を聞きに来るわけがない。


 アレクサンドラは夢の中で自分はお茶会に参加していないのだし、そんな間抜けな話は誰も信じないだろうと思い込んでいた。


 だが、今ならなぜ周囲がそれを信じたのかがわかる。


 それはアリスに対して、アレクサンドラが一方的に嫌がらせをしていると周知されていたからだ。


 そう、お茶会に参加していた貴族たちは、アレクサンドラがアリスに嫌がらせをするため使用人を送り込んだと本気で考えたのだ。


 ならば乗り込んで全員の前でそれが違うことを証明してしまえばいい。


 アレクサンドラはそう考えた。


 お茶会が始まった時間が十時、刃物騒ぎが起きたのは十二時と聞いている。だからその頃に乗り込もうと決めてアレクサンドラは急いで支度を始めた。  


 今日はもしかするとアリスと対峙することになるかもしれない。


 夢の中でハンマーを振りかぶるアリスの顔を思い出すと、少し手が震えたが絶対に負ける訳にはいかないと自分に言い聞かせた。


 支度を整えるとロザリーは不安そうに言った。


「お帰りは何時になりますか? それに行き先をお知らせくだされば色々と準備をして待つこともできますが……」


「今のところ帰りは何時になるかわからないわ」


「そうなのですね、ではいつお戻りになられてもお迎えできるようにいたします」


「ありがとう。じゃあ少し出かけて来るわね」


「はい、お嬢様、行ってらっしゃいませ」


 ロザリーの屈託のない笑顔に見送られ、アレクサンドラはクールナン伯爵家へ向かった。


 クールナン家の前に着くと、すでに兵士が何人か集まってきており中が騒がしかった。


 騒然としている貴族たちや、クールナン家の使用人を横目にアレクサンドラはセバスチャンを伴い堂々と正面から屋敷内へ乗り込んでいく。


 だが騒ぎのせいか誰にも止められることはなかった。


 中へ入ると、呼ばれた兵士たちが一人の使用人を取り囲み尋問していた。


「貴様、嘘をつくな」


「ほ、本当です。私はデュカス家の使用人で、お嬢様には命令されて嫌々こんなことを……」


「あのなぁ、あれほど格式高い貴婦人がこんな野蛮なことをするわけがないだろう。しかも、それをお前のような素人に頼むわけがない」 


「違います、私は借金をしていて断れないことをいいことにこう言われたんです。『殺すまではしなくていいの、ただあの小娘を少し傷つけて脅してちょうだい』と……」


 それを聞いて周囲の貴族たちが『信じられないですわ』『嫉妬って怖いですわね』などと騒ぎ始めた。


 兵士は大きく咳払いをすると続けて質問する。


「だが、どうやってここに潜入できたんだ。デュカス公爵令嬢はここに来ていないのだろう?」


「それはシャトリエ男爵家の使用人だと言って潜入しろと。それで侵入いたしましたが、私にはできませんでした!」


 そう言うとその使用人は泣き出した。  


「あら、それはあなたも大変だったわね」


 アレクサンドラは兵士の肩越しに、優しくその使用人に話しかけた。


 その使用人は一瞬ビクリとしたが顔を上げるとアレクサンドラを見つめ、さらに涙を流した。


「どこの何方様か存じませんが、こんな私のために同情していただけるなんてありがとうございます」


 そう使用人が言った瞬間、辺りの空気が変わるのがわかった。


 先ほどまではその使用人を少なからず同情するような目で見るものもいたが、その視線は一気に冷たいものへと変わっていった。


 アレクサンドラは空気が変わったのを肌で感じながらなおもその使用人に声を掛ける。


「ところで、みんなの前であなたがそのデュカス公爵令嬢に脅されたということを、しっかり証明する必要があると思うの」


「はい、それはそうだと思います」


「なにか、証拠になる物は持っているかしら?」


「はい、あのこれが証拠になるかわかりませんが……」


 そう言ってその使用人は、デュカス家の紋章が入ったカフスボタンを懐から取り出しその場で掲げた。


 デュカス家の紋章入りのカフスボタンは、それを身に着けていれば屋敷のそとでも信用をえられることができた。


 なので当然、悪用されないように信用できる一部の使用人にしか渡されていない。


 しかも、そのカフスボタンは屋敷を去るときには必ず例外なく返却することになっており、カフスボタンを紛失したものは直ぐに解雇となるような代物だった。


 アレクサンドラの知る限り、今のところ紛失した者はおらずそれが本物ならばどうやって手に入れたのか謎だった。


 すると、後ろの方で成り行きを見守っていた他の使用人の一人が手を挙げて発言した。


「すみません、私はハンスと言いますがデュカス家のカフスボタンを見たことがあります。本物かどうか確認することができます。確認してもよろしいでしょうか?」


 アレクサンドラがそれを許すと、ハンスは素早くその使用人に駆け寄りカフスボタンを見つめた。


「これは、本物で間違いないでしょう」


 するとあたりはざわざわと騒ぎ始めた。


「そう、(わたくし)の執事にもそのカフスボタンを見せてもらってもいいかしら?」


 アレクサンドラがそう言うと、ハンスはセバスチャンを一瞥して鼻で笑った。


「見てもよろしいですが、見たこともないのに本物か偽物かわかるはずはないと思いますよ」


 そうハンスが言うと、周囲の貴族たちはくすくすと笑い出した。


 アレクサンドラが無言でセバスチャンに目配せすると、セバスチャンはハンスからカフスボタンを受け取りろくに見もせずに言った。


「これは偽物ですお嬢様。こんな粗悪品が出回っているなんて、今後はなにか対策しなければならないでしょう」


 すると、ハンスはムッとしながら言った。


「は? あんたなに言ってるんだ。お嬢様、この執事の言うことは信用しないほうがよろしいかと存じます」


 セバスチャンはそう言うハンスに、自分のつけているカフスボタンを無言で見せつけた。


「大変名誉なことに、(わたくし)は毎日のように本物のカフスボタンを見ています。ですから遠目でもこれが偽物であることはわかるのです」


 それを聞いた瞬間、ハンスとその使用人は顔を青くしその場から逃げ出そうとして抵抗した。



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