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婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています  作者: みゅー


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 アレクサンドラは着替えをすませ、ソファにゆったり腰掛けティーカップに注がれるお茶を見つめた。


 そうしてぼんやりと手紙になにが書かれているのか考え、憂鬱になりながらロザリーに手紙の内容を読み上げるよう言った。


「はい、では読み上げますね。『親愛なるアレクサンドラ、あなたにこうして手紙を書くのは初めてね。シャトリエ男爵令嬢の件で早急に話したいことがあるわ。今晩、そちらに伺うから用意してちょうだい』とのことです」


 なんて強引なのだろうと思いながら、アレクサンドラはロザリーを見つめた。


 ロザリーは困ったような顔で続ける。


「お嬢様、どういたしましょう?」


「時間は書いていないのね?」


「はい、読み上げた以上のことは書いてありません」


「そう、仕方ないわね。いつイライザが来てもいいように準備しておいてちょうだい」


 アレクサンドラは、あのイライザがわざわざこちらにやってくるぐらいなので余程のことなのだろうと思いながら支度を整えた。


 イライザが訪ねてきたのはそれから一時間後のことだった。


「本当にこの屋敷不便な場所にあるわね」


 開口一番にそう言うと、イライザは帽子を外しセバスチャンに押し付けるように渡した。


「いらっしゃいイライザ、待ってたわ」


 笑顔でそう答えると、アレクサンドラを見つめて言った。


「そのようね」


「せっかくだもの、夕食は食べて行くわよね?」


 するとイライザは一瞬驚いたような顔をしたが、少し戸惑ったあとに答える。


「どうせあなたのことだもの、もう準備はしてしまっているんでしょう? 仕方がないからいただくわ」


 それを聞いて、セバスチャンが無言でメイドたちに合図しメイドたちが一斉に動き出した。


「準備ができるまでお茶をいただきましょう」


 アレクサンドラは笑顔で客間へ案内した。


 ティーカップにお茶が注がれると、どう話を切り出すか少し悩みながら当たり障りなく茶葉の話をしたが、イライザにそれを遮られる。


「茶葉のことはどうでもいいですわ。だって、香りでこのお茶が最高級のものだってわかりますもの。それより手紙に書いたように、(わたくし)たちは話さないといけないことがありますわ」


「そうでしたわね、一体何事ですの?」


「あなたはアリスのことはもちろん知ってるわよね?」


 一昨日までは名前しか知らなかったが、今はよく知っている。


「もちろんですわ。社交界でも少し目立ってますものね」


「そのようね。でも実は(わたくし)は昨日奇妙な投書があるまで彼女のことなんて名前しか知らなかったわ。だって、男爵令嬢でしょう? (わたくし)たちとは関わりがあまりないもの」


 (わたくし)もですわ。



 アレクサンドラは心の中でそう呟き苦笑すると、質問する。


「それもそうですわね。ところでその、投書ってどんなものでしたの?」


「確か『アリス・ル・シャトリエ男爵令嬢がアレクサンドラに関わる変な噂話をしている』とか書いてあったわ」


 もしかして、セバスチャンが仕掛けたのかもしれない。


 アレクサンドラはそう思ってセバスチャンをちらりと見るが、セバスチャンは何事もないかのようにすまし顔をしている。


 イライザはそんなアレクサンドラに気づく様子もなく話を続けた。


「それで一応調べましたの。あなた、知っていて? 彼女あなたのことに関して本当にありもしない変な噂を流してるそうよ。それと、(わたくし)が招待してもいないのに、お茶会に招待したとか。図々しいったらないわ」


「それは(わたくし)も知っていますわ。これからどうするか対策を考えていたところですの」


 そう答えると、イライザがなぜそれを知らせに来たのか不思議に思い見つめた。その視線に気づいたイライザは不機嫌そうに言った。


「なによ、なにか言いたいことがあるならはっきりおっしゃいなさいな」


 アレクサンドラは戸惑いながら答える。


「じゃあ正直に言いますわね。少し驚いてますわ。だってイライザは(わたくし)のことをよく思っていないわよね? それなのにわざわざこれを教えてくれるなんて」


 するとイライザはギョッとした顔でアレクサンドラを見つめた。


「なに言ってますの? (わたくし)を避けているのはあなたでしょう?」


「でも、ドレスを作ると同じデザイナーに頼んだり、宝飾品だって……。とにかく、ライバル視されてると思ってましたわ」


 するとイライザは声を出して笑った。


「それはあなたをまねしていただけですわ。社交界ではあなたが流行の最先端ですもの。それにしても、なぜ(わたくし)に嫌われてるなんて思ったのかしら?」


 アレクサンドラはイライザが本音で話しているように感じた。イライザは思っていたよりあけっぴろげな性格のようだ。そこで、意を決して思っていることを言った。


(わたくし)が殿下の婚約者に選ばれたからですわ」


 するとイライザは吹き出した。


「それ、何年前の話ですの? そんなこととっくに忘れましたわ。それにあれはどうにもならないことでしたもの。恨むもなにもありませんわ。おかしなことおっしゃるのね」


「でも、選ばれたのは(わたくし)の力ではなかったでしょう? お父様の力でしたし、イライザは納得していないのではなくて?」


 するとイライザはアレクサンドラを凝視した。


「あなた、本当にそんなことで婚約者が決まると思ってますの?」


「そうですわ。だってこの婚約は政治的なものでしょう?」


 すると、イライザはティーカップをソーサーに戻し真顔でアレクサンドラに向き直った。


「いいこと? 政治的な婚約であろうと、同じ立場の令嬢がいたら最終的に選ぶのは本人ですわ。今回は最初から殿下があなたを強く望んだから決まったのよ」


「そんな話、初めて聞きましたわ」


「まぁ、本人に伝えないなんて無粋なこと! それに、それでは殿下は可哀想ね」


 そこでセバスチャンが二人に声をかけた。


「お嬢様、お食事の準備が整ってございます」


 すると、イライザはイタズラっぽく微笑む。


「アリスのことも含め、色々と面白いことになってますわね。(わたくし)たちもっと早く誤解を解いておくべきでしたわ」


「本当にそうですわね。アリスに関しても話をしておく必要があるでしょうし、楽しい晩餐になりそうだわ」


 アレクサンドラがそう答えると、二人はしばらく見つめ合いクスクスと笑った。


 イライザとアレクサンドラは同じような立場、年齢ということもあり年相応の悩みから、公爵令嬢としての立場についての悩みなど話は尽きなかった。


 こうして長年のわだかまりが解けると、二人はアリスの話に言及した。


「アリスは本気であなたから婚約者の座を奪おうとしていると思うの。注意したほうがいいわ。手を打たないと。まぁ、殿下があなたを手放すことはないと思うから、そう簡単にはいかないでしょうけれど」


 食後、サロンでお茶を飲みながらイライザはそう切り出した。

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