子守り
「ここ︙︙ですか」
私は旧友の夫であるバンさんから渡された手紙に書かれた地図を頼りに、旧友の息子であるランスロットの子守りをするため、ここキハイゼル村まで足を運んでいた。キハイゼル村は木々が生い茂っている大森林の中にあり都市部とは違って静かな土地であった。
「すいません、ここにゴリラのような大男が住んでいませんか?」
「ああ、そのゴリラならあっちの家で暮らしてるよ」
田畑で収穫作業を行っている男性に声を掛けると、快く居場所を案内してくれた。案内された家を確認し、その方角に向かって進んでいく。
「あら、リリィ? こんな所で何をしているの?」
綺麗な顔立ちに銀髪を肩まで伸ばした女性、エレインの姿がそこにはあった。
「やれやれですね。私を呼んだのは、そちらではないですか︙︙」
「あら? そうだったかしら?」
本気で覚えていないことに私は驚きを超え、呆れてしまった。
「お母さん、この人だぁ〜れぇ〜?」
タイミングを見計らってエレインに尋ねたのは、旧友の娘であるシルヴァだった。シルヴァは人見知りなのか、エレインの足元へ隠れるようにして顔を覗かせていた。
「この人は、お母さんの親友よ〜。ほらシルヴァ、他の人に会ったらなんて挨拶するんだっけ?」
「︙︙こ、こんにちは」
「はい、よく出来ました! 偉いねぇ〜」
何と微笑ましい光景なのだろうか。先程エレインがサラッと言った親友という言葉に、私はほんの少し照れてしまう。
「流石、俺の娘だ!」
「あなた、朝早いのだから静かにね」
私はバンさんに注意したエレインである彼女と、思い出話を少し語らった。そんな時、緩い服を着ているせいか、一つ一つの小さな所作でも揺れる彼女の豊かな胸を見て、私は自分の胸に手を当てて押し黙った。
「︙︙」
「ん? どうしたの?」
「︙︙いえ、なんでもないです」
私には女性らしい胸の膨らみが、全くと言っていいほど無かった。胸に視線を合わせながら数分話をした後、エレインとバンさんとシルヴァと別れた。
「少し変ですね︙︙」
私はエレインと別れた後、先程案内されたエレインの家まで足を運んでいた。しかし、この家はどこか普通の家とは何かが違っていた。扉には見えないように魔法縄が吊るされていたり、木々に隠れて詠唱後であろう魔法が設置されていたりしているからだ。もし、防犯対策でこのような魔法がなされているというのであれば、エレインの属性とは違う水魔法であるため彼女のである可能性は考えられないし、そもそも少し見えるように設置されているのが不自然である。後考えられるのはバンさんであるが、バンさんは魔法をそもそも使おうとは考えないだろう。だって、ゴリラだし。私はそれを目視して確認した後、扉前に立って杖を構えた。違うことを願うが、円卓会議で話題に上がった魔王軍幹部の仕業かもしれない。
「氷晶︙︙」
私は詠唱を途中まで唱え、ゆっくりと扉を開いた。完全に開き終わるのと同時に扉の向こう、家の中から弾丸のような水魔法が勢いよく飛んできた。水魔法が私へと到達する前に、詠唱途中だった技を発動させた。
「結界!」
発動と同時に、私が唱えた魔法は視界を全て氷の世界へと化した。水魔法を唱えたであろう人物は、床で這い蹲るようにして手足が凍り付いていた。その人物の後ろに回り込み、白い冷気が消えるまで少し待つ。すると、小さな影が見えた。
「全く︙︙やれやれですね」
水魔法を発動した人物はなんと、子守りを頼まれていた旧友の息子、ランスロットであった。