試練
小鳥のさえずりと共に、俺は重たい瞼を上げる。そろそろ授業も、終わる頃だろう。
「ランスロット、おはよう! 今日も狩りに行くぞ!」
「あなた、そんなに大きな声を出したら、ランスが泣いちゃいます。それに、ランスロットはまだ赤ちゃんですよ」
「確かにそうだったな! ガッハッハッ!」
「あなた、怒りますよ」
「︙︙すまん」
一体どういうことだ。夢から目覚めたはずなのに、夢で見た女性とゴリラが目の前にいるではないか。
俺は重たい右のちぎりパンを、視野に入るように上げ、小さなクリームパンを閉じては開いて、閉じては開いてを繰り返す。
「ほら見てあなた、ランスロットがにぎにぎしてますよ」
「流石、俺の息子だ!」
これは夢ではなく、紛れもない現実だ。自分が脳で描いた動きが、そのまま体で再現できるという情報だけで、自分が赤子に生まれ変わったのだという現実に辿り着くのは充分であった。目の前の光景が現実だと受け入れた俺は、今わかりうる情報を頭の中で整理する。
メルヘンチックな造りの家に住んでいて、中世ヨーロッパ風の服装を見に纏った銀髪の巨乳美女の母、野放しにされてるゴリラ、母似の幼女。そして、赤ちゃんの姿をした俺。
「ダメだ、わからん」
天井を見つめながら、思うように動かせない体を使い、体全体で考える人の彫刻のポーズをとる。すると、ゴリラが顔を覗き込み、急に慌てだした。
「大変だエレイン! ランスロットが怒ってる!」
急に大声出すなゴリラ、檻にぶち込むぞ!
「それは大変だわ〜」
ゴリラとは対極的に、気の抜けたような母の声が聞こえてきた。奥の方からこちらに向かって来た母もゴリラに倣い、俺の顔を覗き込んで、女神のような笑顔を向ける。
「あなた、ランスロットは怒ってませんよ」
落ち着いた声で、ゴリラの焦りを抑えた。流石は母さん、血が繋がっていないとはいえ、息子の気持ちは分かるようだ。
「これはあれよ︙︙シルヴァに恋心を抱いているのよ」
母さーん! 全然違うから! 全然違うから!
「何!? 幾らシルヴァが可愛いとはいえ、お前に娘はやらんぞっ!」
ゴリラは黙っとけ。
「お母さん、お父さん、朝からどうしたの〜?」
母さんの勘違い勃発中の中、最悪のタイミングで寝室から出てきたシルヴァが登場してきた。
「お、おおお落ち着いて聞くんだ、シルヴァ」
「あなたが落ち着いてね」
「なぁ〜に〜?」
ゴリラは大きく深呼吸をして、固唾を呑んだ。
「ランスロットが、シルヴァのことを︙︙好きらしいんだ!」
「私もランスロット、だぁ〜いすきー!」
我が姉シルヴァは、純真無垢だった。お陰で、何とか変な記憶を植え付けずに済んだ。そう安堵しているのも束の間、シルヴァに誤った情報を教えようと、母さんが口を開いた。
「シルヴァ違うのよ〜? ランスロットはね、女性としてシル────」
「うああああんん!」
必殺『嘘泣き』発動!
俺は嘘泣きをすることで、弟としての尊厳を守り抜くことが出来た。多分。
「あらら、大変だわ〜。今、ご飯あげますね〜」
母さんは、お腹が空いて泣いたと勘違いをしたらしい。お腹は全然空いていないのだが、途中で口に入れるのを拒んだら、食事を与えるのをやめてくれるはずだ。てか、赤ちゃんの食事ってなんだっけ? 嫌な予感がする。
そんな俺の心配など露知らず、母さんはステイズの紐を緩め、シフトドレスを胸元まで下ろし、豊潤な胸部をさらけ出す。
「は〜い、お母さんのミルクですよ〜」
最悪だ。嫌な予感が的中してしまった。え? てか、本当にやるの? ちょ、待って、え? まじ?
「ほらランスロット〜、あ〜ん」
まだ心の準備が︙︙実は僕︙︙まだ童貞なんです! いきなりこんなプレイはハード過ぎますって! ちょと待っ────
「ぎゃああああ!」