ランスロット
「寒っ」
先程まで教室に居たはずなのだが、何故か暗い森の中に仰向けの状態で横になっていた。辺りを見渡すため、先程から体を起こそうと頑張っているのだが、体は言うことを聞いてくれない。
「ふぐんっ! ︙︙ふぐぅぅぅ!」
しばらくの間、体を起こそうと奮闘していると、遠くから何者かが走ってくる音が聞こえてきた。これは悪い夢に違いない。怖い顔のお化けが出てきて、それで目覚めるはずだ。
「坊主、どうしたんだ、捨てられたんか?」
「うあああぁぁぁ! ︙︙って、体育科の先生?」
体育科の先生らしき影の正体は、俺を両手で軽々と持ち上げている、白銀の髪と髭を生やした筋肉マッチョなおじ様だった。てか、捨てられたのかって、どんな夢の内容だよ。まぁ、夢なんて意味のわからないことだらけだけど。
「今すぐ、エレインの所に連れて行ってやろう」
おい、ちょっと待て。誰が悲しくて、ゴリラと二人でデートなんかしなくちゃいけないんだ。このゴリラにどこまで通用するかは分からないが、俺は精一杯の抵抗をしてみせる。
「うりゃあああああ!」
「おい坊主! 暴れるんじゃない!」
ゴリラは「そうだ!」と何かを閃き、暴れる俺を片手で支える。
「いないなぁ〜い、ばあっ!」
シバくぞ。なんで俺は、知らないゴリラから馬鹿にされなきゃいけないんだ。
「泣き止まんなぁ、早くエレインにあやしてもらわなきゃな」
ゴリラは俺を担ぎ直し、急ぎ足でどこかに向かい始めた。
「ちょっと待って! これどこに向かっ︙︙ブペェッ! おい! 蜘蛛の巣に引っかかっちまったじゃねぇか!」
ゴリラに無視をされながら、森の中を数分間連れ回されると、木々の間から明かりが見えてきた。急に見えてきた眩しい光を手で隠しながら光の先を見ると、そこにはメルヘンチックな沢山の家々が広がっていた。
「エレイン、今帰ったぞ」
ゴリラは、ある明かりのついた一軒家まで足を運び、中に入っていく。
「あなた、お帰りなさい」
キッチンの方から、中世ヨーロッパ風な服装を身に纏った、銀髪で顔立ちの整った女性が顔を出した。この女性の言動から分かる通り、このゴリラと女性は結婚しており、この家が自宅ということになるだろう。
「あら? あなた、その子は?」
「︙︙それがな、そこの森の近くで捨てられとったんだ」
「なんて酷い! あなた、その子はどうするの?」
「︙︙知り合いに引き取ってもらうか」
夢の中でくらい、良い環境に居させてくれ。どうせ知り合いに預けられた後は、色んな場所へとたらい回しにされた挙句、孤児院に収容されるのがオチだ。
「あなた︙︙新たな家族として、その子を迎え入れない?」
「エレイン︙︙」
ゴリラの顔色が曇っているのが分かる。さすがに妻の頼みとはいえ、見知らぬ子供を家族として迎え入れるのには、頷くことは出来ないのだろう。仕方ない、孤児としてこれから生きていくことにしよう。
「流石、俺が愛した女性だ! 二人目の子として迎え入れよう!」
神様、仏様、ゴリ様ありがたやー。こんな簡単に受け入れられるとは思ってもいなかった。というか、もう既に子供がいることに驚きだ。
「あっ! パパおかえりー!」
「お〜! シルヴァ〜、ただいま帰ったでちゅよ〜」
子供に赤ちゃん言葉を使うということは、相当な溺愛だろう。将来この子が、凄い生意気な子供になってしまった時、ゴリラはどんな反応をするのだろうか。
「パパ〜、その子だ〜れ〜?」
「ん〜? シルヴァの弟でちゅよ〜」
「名前はなんて言うの〜?」
「そういえば、名前はまだ決めてなかったな」
ゴリラは数分間名前を考えるがいいのが思いつかず、子供のシルヴァに名前を考えさせた。
「シルヴァ〜、どんな名前をつけたいでちゅか?」
「ん〜、ランスロット!」
「ガッハッハッ! 絵本の水の英雄の名前か! 今日から坊主は、ランスロットだ!」
「あなた、近隣の方にご迷惑を掛けるので静かにね」
「︙︙すまん」
ランスロット、ランスロットか。しかも、英雄ときた。シルヴァくん、良くやった。
「じゃあ今日は夜も遅いし、寝るとしましょうね、ランスロット」
そう言うとゴリラにエレインと呼ばれている女性は、寝室にあるベットで俺を寝かしつける。それに従うように、俺はいつの間にかに瞼を閉じていた。