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モブ
退屈な日常が、刺激的な毎日に変わって欲しい。
そう誰もが一度は願ったことがあるのではないだろうか。
勇者として異世界転生して無双したりだとか、オカルト研究部なるものを立ち上げたりだとか、そういうフィクション極まりない刺激。
肘をつきながら、廊下にいる用務員さんを見つめている俺も、その刺激を欲している者の一人である。
俺の席は一番前の廊下側にあり、一番後ろで窓側の主人公席とは真反対だった。ふざけんな、モブ中のモブ、Top of the MOB席じゃねぇか。
モブキングの称号を手に入れた俺には、あらゆる事件が起きようと、主人公を呼ぶか、見せしめに殺される役しか回ってこないのだ。
寝よう、寝て嫌なことから逃げよう。嫌なことを一時でも忘れられることで、人間は上手くやっていけるものだ。
俺は先生にバレないよう、机にうつ伏せながら、自然と重たくなる瞼に抗うことなく目を閉じる。
(起きたら勇者として、異世界転生でもしてないかな)
そう心の中で思った後、俺は眠りにつくのだった。