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虚偽の申告



 どう判断するべきかと、シャリオは眉根を寄せて思案した。


 ルベルトはおそらく偽りだと断じて苛立っている。

 アルシアの色は、森の民の色ではない。ルベルトはそれを知っている。


 しかしハーミルトン伯爵の母は銀の髪だった。そして、破滅の予言──。


 果たして、偽りだと決めつけるのが正しいのか。もう少し話を聞くべきではないのか。


「アルシア、あなたの予言を殿下に教えてさしあげて」


「はい、お母様。──お祖母様は、母を見て破滅と再生を予言したそうです。父と母が結婚をすることで、破滅が訪れ、また再生も訪れると。破滅とは、化け物たちの襲撃と食糧不足による国全土に及ぶ大飢饉。再生とは私のこと。私の予言が希望となり、王国やそして殿下をお救いするでしょう」


「……救うとは、大それたことを言う。アルシアと言ったな。どう救うというのだ?」


 アルシアの物言いは、ディーグリスに似ている。

 グリンフェルドの女か──と、シャリオは心の中で一人ごちる。


 殿下を救うと言った時の、阿るような視線が不愉快だ。

 シャリオはそういった視線に晒され続けている。気に入られたい、好かれたい、権力者の側へと侍りたい。

 

 シャリオは神になるよう育てられた。自分以外の他者は、自分よりも位が低い者たちである。

 神と人とは違う。人がシャリオを崇拝するのは、敬うのは当然のこと。


 幼い頃から植え付けられた思考に重なるようにして「人は神にはなれない」という母の声が響いている。

 母の言葉を胸に抱いて見た景色は、当たり前のことが当たり前ではなくなっていた。

 シャリオに向けられる視線は純粋な尊敬ではなく、心の中に打算を隠した嘘くさい好意ばかりだった。


 アルシアもディーグリスも、同じ。

 やはり嘘なのかと落胆しそうになる。この異変に乗じて詐欺を働きにきたのか。

 ルベルトの親戚だから、信じてもらえるとでも思ったのだろうか。


「私が殿下をお救いします! お祖母様のおっしゃる破滅とは、お姉様のこと! 私が再生の預言者なれば、お姉様は破滅の預言者! 我が家から逃げて行方知れずとなっていたお姉様が、王都に現れたすぐあとに、化け物の襲撃があったのです。お祖母様には雨を降らせたり、災害を予言する力があったそうです。その神秘の力を、王国の滅亡へとお姉様は向けたのです!」


「お前の、姉か。……ルベルト。ハーミルトン家の長女について、何か知っているか?」


「存じ上げません。名前はシャルロッテだということぐらいは知っていますが、ハーミルトン家には行ったことがなく、社交界にも顔を出していなかったと思います。伯爵夫妻はいつも、アルシアのみを連れていました」


「それは何故だ、伯爵」


「それは……その、シャルロッテは体が弱く、家から外に出せなかったのです」


「破滅の予言をしていたのか、お前の母のように?」


 今ここにいないハーミルトン家の長女。

 その存在が、何故か無性に気になった。

 アルシアの言葉を信じるのならば、彼女が王国に破滅を起こそうとしているらしい。そんな馬鹿なことはないだろう。

 女性が一人で、破滅を呼ぶことなどできるわけがない。人は神にはなれないのだ。

 それがたとえ森の民だとしても。

 そんなことができるのなら、まつろわぬ民──森の民たちは、かつての戦争で父に負けるわけがない。

 

「い、いえ、そんなことは……」


「娘の髪は何色だ」


 伯爵は視線を彷徨わせる。どう答えるのが最善かを、考えているのだろう。

 何か隠している。嘘をついている。

 伯爵たちの言葉を頭から信用することはできない。

 だが、その中に何かしらの真実は含まれている。大切なことを見落とさないようにしなくては。

 詐欺を働く者たちは、全てを嘘で固めない。その中に真実をほんのひとかけら、含ませるものだ。


「シャルロッテのことなど! 殿下、アルシアの言葉を聞いてください、どうか!」


「殿下、私はお役に立ちます。だからお側に……」


「黙れ。今は伯爵と話をしている。娘の髪は何色だ、伯爵」


「……銀でした。母と同じ」


 森の民たちは、銀の髪のものたちを崇拝していた。

 森の民は異形を操り、不思議な力を使うことができるという。

 ──私が会うべきは、ハーミルトン家の長女、シャルロッテなのだろう。


「ルベルト。お前の婚約者だが」


「構いません。……グリンフェルド家の恥晒しだ。ひどいものです」


「すまないな。このままでは、それこそ人心を惑わしかねない」


 人は嘘をつき続けるとそれが嘘か真実かわからなくなってしまうという。

 強い自己暗示にかかるからだ。

 アルシアは自分の言動に、自信を持っているようだった。姉を悪だと思い込み、予言の力が己にあると信じているように見える。

 強い言葉は人を惹きつける。世が乱れている時は、特に。

 シャリオは争いを求めていない。母は父の戦を間違っていたと言い切った。父は戦の後に様子がおかしくなった。

 森への遠征さえなければ、シャリオの両親はきっと今でも、穏やかな生活を送っていただろう。


「捕えろ」


 シャリオの命令と共に、ルベルトの指揮で兵士たちが謁見の間に入ってくる。

 

「どうして! 殿下、何故です!」


「嫌! 触らないで、不敬だわ!」


「どうして!? ルベルト様! 助けて!」


 兵士たちが伯爵たちを拘束する。武器を持つわけでもない男と、女二人だ。

 捕えるのは簡単で、呆気ない。もしアルシアが不思議な力を使えるというのなら、もっと激しい抵抗ができるはずだ。

 それこそ、雨を降らせたり、雷を落としたり。

 悪魔を見たという人々は、雷を見たという。空を飛ぶ黒い翼の人と、それから、翼がはえた馬の群れを見たという。


「──やめろ、シャリオ」


 低い声に、シャリオは顔をあげる。

 謁見の間の奥の扉から、いつの間にか病に臥せっているはずの父が現れた。

 シャリオの父──アステリオスは「彼らを解放しろ」と、掠れた、けれどはっきりとした声音で言った。



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