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人材募集



 「移住者を募集しているのです」と、シャルロッテが言うと、ゲルドは訝し気に眉を寄せた。


 ニケやテレーズはゲルドが怖いらしく、ロサーナたちの後ろに隠れてこそこそ、話し合いをするゲルドとジオスティル、アスラムとシャルロッテを見守っている。


 この二週間、辺境で起こったできごとをシャルロッテからかいつまんで聞かされたゲルドは驚き、今まで態度が悪かったとアスラムに謝罪をされて「別にどうでもいい」と肩を竦めていた。


 人材募集の話は、ゲルドをさらに驚かせるものだったらしく「正気か?」と、眉をひそめられた。


「辺境は――多少は安全になったようだが、今更この街に移住してくる者などろくでなしばかりだろう」

「ゲルドもシャルロッテも、辺境に来てくれた。俺は二人を信用している」

「……よくもまぁ、こんな環境で真っすぐ育ったものだな、お坊ちゃん」

「ゲルド。俺は――お坊ちゃんではない。万が一移住者が他の者たちに危害を加えるようなら、私刑を行う覚悟はできている。何が大切かは理解しているつもりだ、必要以上に甘いつもりはない」

「なるほどな。甘いのはお坊ちゃんではなく、シャルロッテか。絆されたな、お坊ちゃん」

「あまり、余計なことは言わないでくれ」


 ジオスティルは困り顔で頭を振った。

 その隣でアスラムが腕を組んで「それは皆知っている」と呟いた。


「ゲルド、そう悪い提案ではないと俺も思っている。以前、この地には騎士団がいた。イリオスを筆頭に。魔獣の脅威にさらされながらも細々と暮らすことができていた。……ここまで人が減ってしまったのは、作物がとれなくなったからだ」

「もう一人の坊ちゃんも、まともに話すようになったんだな」

「それについては反省をしている。俺は、子供だった。どうしようもなく」

「ふぅん」

「……ジオスティルたちのおかげで、畑には作物が実るようになった。お前をもてなすことができるぐらいには、この地は豊かになった」

「そのようだな」


 ゲルドの前には芋のタルトが置かれている。

 聖炎に囲まれた敷地内に限ったことだが、作物も、動物も魚もとれるようになった。


 鳥は卵を産み、肉や魚も食べることができる。

 虹色水晶も手に入り、加工も再開されている。


「ここにはもっと人が必要だ。イリオスと共に魔獣を退治してくれる者も、畑を耕してくれる者も、家をつくる者も、商売をする者も」

「まぁ、そうなんだろうな。で、俺にチラシを配れと」

「フライヤーです」

「どっちでもいいだろ」

「そうですけど……」


 シャルロッテが差し出したフライヤーを、ゲルドは受け取った。

 それから「俺はこういったことは得意じゃない。あんたがそれをしたいと思っているのなら、一緒に来い、嬢ちゃん」と言った。


 フライヤーは、一番人の多い王都で配るのだという。

 ゲルドは人付き合いが得意な方ではなく、「俺のように人相の悪い男に辺境に来いと言われてみろ、皆、流刑にされると勘違いする」と、冗談ではなく本気で言った。

 確かにそれはそうだと、ジオスティルとアスラムが頷き、シャルロッテはそれは失礼なのではと心の中でやや焦っていた。


 ゲルドは確かに強面で不愛想だが、悪い人ではない。

 でもそれはシャルロッテがゲルドの人となりを知っているからで、何も知らなければニケやテレーズのように怯えるのが普通なのかもしれない。


 シャルロッテは悩んだ。

 ゲルドの提案は理解できる。

 けれどウルフロッドの家から離れるなんて――ジオスティルの傍から離れるなんて、この二週間一度も考えたことがなかったからだ。


 傍にいたいとは思っても、離れる日はもっと先になるのだとばかり考えていた。

 悩むシャルロッテにゲルドは呆れながら「王都まで行って、辺境に足りないものを補充してチラシを配って、戻ってくる。たった二週間程度の旅だ、あんたの長い人生でたった二週間、そんなにジオスティルと離れたくねぇのか」と言った。


 シャルロッテは心の内を見透かされたようで、頬を染めて慌てた。

 アスラムが半眼で「惚気ならよそでやってくれ」と言い、ジオスティルは真剣な顔で「俺はシャルロッテが心配だ」と特に照れもせずに言う。


「……分かりました。全てゲルドさんに任せてここで待つのは違いますよね。私も王都に行きます」

「しかし、シャルロッテ。……それは、駄目だ」

「それは心配だからか、それとも寂しいからか?」

「寂しい……いや、自分の感情を優先させているわけではなく、王都は人が多いだろう。もし何かあったらと」

「俺がいる。人間あいてなら、これでもかなり強い方だ」


 そしてシャルロッテは、ゲルドと共に王都に向かうことになった。

 ジオスティルは辺境の守護をしなくてはならず、離れることはできない。

 サラマンドが「私がいるので大丈夫ですよ」と言ってくれたけれど、ユグドラーシュが折れた今、大精霊の顕現できる時間は短い。

 聖炎の維持で精一杯で、それ以外に余力を使うことは難しい。


 シャルロッテは辺境に留まっても、イリオスやジオスティルのように戦えるわけではない。

 せいぜいが、畑を耕すぐらいだ。

 それなら自分にできることをしたいと、着替えなどをまとめてゲルドの荷馬車に乗り込んだ。


 ニケとテレーズが早く帰ってきてねと泣いて、ロサーナたちがとても心配してくれる。

 イリオスは「ロッテちゃんがいないと、寂しくなるなぁ」とアスラムに同意を求めて、「別に」と言うアスラムの背を「素直じゃないねぇ」と笑いながら叩いていた。


「シャルロッテ。気を付けて。……何かあれば、必ず助けに行く」

「大丈夫ですよ、ジオスティル様」

「これを、持っていけ。君の守護になる」


 ジオスティルはシャルロッテに、魔力でつくりだした小鳥を渡した。

 小鳥はシャルロッテの頭にとまると、髪飾りに変化する。


「俺の魔力を閉じ込めたものだ。危険があるとき、魔法が発動する」

「ありがとうございます、ジオスティル様」

『あたしがいるから大丈夫よ』


 ウェルシュはついてくるらしく、シャルロッテの肩に乗っている。

 ぷにちゃんとアマルダは留守番である。

 ゲルドが「精霊は目立つ。捕まって見世物になりたくなければ隠れておけ」と言うので、『いやだわ、ニンゲンって野蛮!』と言いながら、シャルロッテの服の中へとごそごそと隠れた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 少し心配な展開、ひさびさに家族登場して一悶着あるかも?! 何事もなく無事に戻ってきてほしい。
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