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ゲルドの来訪



 午前中は農地を広げて、午後からはすっかり元気と気力を取り戻したウィリアムとイリオスに、剣や弓の扱い方を教えて貰う。


 ウルフロッド家に残っていた訓練刀を持って、シャルロッテはニケやテレーズと共にイリオスに向かっていった。


 イリオスは三人を相手にしているとは思えないぐらいに軽々と、シャルロッテたちの模造刀をはじき返す。


 子供と遊んでいるというのが正しいぐらいのあしらわれ方だが、「中々筋がいいな、ロッテ!」と、褒めてくれる。


「ニケやテレーズは、やる気があるのか? 遊びたいだけなら相手はしないぞ」


「イリオスのばーか!」


「ばーか、ばーか!」


「いい度胸だ」


 ニケとテレーズをイリオスが「がおー!」と言いながら追いかけはじめて、二人はきゃあきゃあ言いながら逃げ出した。

 庭に作った藁人形を相手に剣を打ち付けていたウィリアムが、汗を拭きながらシャルロッテに近づいてくる。


「疲れたんじゃないか、ロッテちゃん」


「大丈夫です。ウィリアムさんは、お元気になりましたね」


「弱気になって寝込んでいると、イリオスに耄碌爺と馬鹿にされるもんでな」


「まぁ……」


「あれも馬鹿ではないから、言う相手を選んでいる。そう言えば儂が怒って、元気になるとわかっておるのだろう」


 実際、イリオスが戻ってきてからのウィリアムは、別人のように元気になっている。

 杖をつかないと歩けなかった足も、やや曲がっていた腰も、しゃっきりと伸びて十歳は若返ったように見える。


「ウィリアムさんが元気になってよかったです」


「ロッテちゃんのおかげだよ」


「いえ、私は……」


「しかし、ロッテちゃんは筋がいいな。体の使い方が、うまい」


「え……本当ですか? 嬉しいです」


「かつて森の民は、森で狩猟をして暮らしていた。ロッテちゃんはその血を継いでいるから、武器の扱いが得意なのかもしれないな」


「そうでしょうか……そうだといいです」


 ウィリアムは腕を組むと、首をひねる。


「ロッテちゃんが戦う必要はないような気もするんだが。ここには坊ちゃんがいて、イリオスや儂もいる。アスラムも……まぁ、それなりに。だから、女性や子供に剣を教えるのはなぁ」


 剣の鍛錬はシャルロッテがイリオスにお願いしたのである。

 鍛錬をしていると、ニケやテレーズが「楽しそう!」と言いながら混ざった。


 二人には、シャルロッテがイリオスにじゃれついているように見えたのかもしれない。

 それもそのはずで、確かにシャルロッテは猫じゃらしで遊ばれている猫みたいな有様だった。


「私も、ジオスティル様を守りたいと思っています。せめて、自分の身は自分で守れるぐらいに」


『シャルロッテにはあたしたちがいるのに』

『そうよ。私たちがいるのに。サラマンド様の加護だって、あなたにあるわ』

「ぷぎゅ!」


 練習風景を見ていたウェルシュとアマルダが言う。

 ぷにちゃんもぴょんぴょん跳ねて、自己主張をしている。

 

『あたしたちは、ニンゲンよりもつよいのよ』

『ウェルシュよりも私のほうが強いのよ。なんたって火の精霊なのだから!』

『あたしだって、ウィエンディーネ様が戻ってきたら、あんたになんか負けないぐらいに強いわよ!』

『うん。また、皆と一緒にいたいな。……お友達たち、たくさん消えてしまったから』

『そうね』


 アマルダが寂しそうに俯いて、ウェルシュは悲しそうに頷いた。


「二人とも、ありがとうございます。でも、世界樹の元まで行くのですから、体力だってあったほうがいいですし、何が起るかわかりませんから、私も強くならなくちゃ」


「シャルロッテ、だがあまり無理はしないでほしい」


 軽やかにシャルロッテの隣に降りたって、ジオスティルが言った。

 その背中にはえていた翼が、するりと消えていく。

 夜の魔獣討伐から解放されたジオスティルは、昼の見回りを行っている。


 聖炎のおかげで敷地内に魔獣が入ってこなくなったかわりに、昼間でも草原や森を我が物顔でうろつく魔獣が増えたのだという。

 ただうろうろと彷徨って、人影があれば襲おうとする。

 明確な生きる意志のない、亡霊兵のようだとジオスティルは表現している。


 人も動物も、食べて眠り、繁殖するために意志を持って活動する。

 けれど魔獣にはそれがない。ただそこにあって、人を襲う。生き物よりも兵器に近い存在であると。


「ジオスティル様、お帰りなさい。今日は、大丈夫でしたか?」

「あぁ。問題はない。だが討伐の途中で荷馬車を見つけて――」

「久しいな、嬢ちゃん。二週間ぶりだが。……なんだ。妙に賑やかだな」


 ジオスティルが視線を送ると、荷馬車と共にゲルドが正面入り口から入ってくる。

 荷馬車を停めたゲルドが、きょろきょろと庭の様子を見ながらシャルロッテに近づいてくる。

 

「ここにいるのは、ミトレスのいけすかない街の連中じゃねぇか」

「ゲルドさん!」


 シャルロッテは恩人に駆け寄る。

 ゲルドは――人相の悪い顔にほんの少しだけ優しい笑みを浮かべて、シャルロッテの頭をぐりぐりと撫でた。



二章、開始しました。よろしくおねがいします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 多分この中で一番びっくりしてるのゲルドさんだろうなぁ…!!
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