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王都の軍勢



 ウルフロッド家に残してきたものたちが心配だ。

 採掘場から外に出る道すがら、サラマンドラの聖炎が採掘場に灯り明るく照らした。

 それは魔獣をはらうもの。

 魔獣をはらい、魔素を浄化するものである。


『大いなる大海に世界樹ユグドラーシュが根を伸ばし、大地ができました。ユグドラーシュの化身として精霊王様がうまれ、精霊王様を守るために私たちがうまれました』


 永遠などはないと、精霊王は考えた。

 そのために大精霊たちをうみ、何かあった時の自分のかわりとした。

 水を、風を、炎を、土を。

 世界にかかせないそれらを守り育みおさめるのが大精霊。

 そして、光にあふれた朝が来て、夜の闇が世界を支配しまた朝が来るように。

 世界の均衡を守るのが精霊王の役割である。


 大地からは花が生まれ、木々が生まれ、やがて動物たちが生まれて。

 それから人間が現れた。


 人間たちは精霊を信仰し、精霊の声をよく聞いた。

 森を愛し、大地を愛し、敬った。


 それが、森の民。

 世界樹の森に住むものたちであった。


 けれど──。


『どこからともなく、人間たちが現れて、ユグドラーシュの上に街をつくりました。街は広がり、国となりました。森の民たちは彼らにこの大地はユグドラーシュの根の上であり、自分たちはそこに住まわせてもらっているのだと説明しましたが、国を作ったものたちは、聞く耳など持っていませんでした』


 人々は、木々を伐採し、森を焼き、野を焼いた。

 街を広げて土を掘り、土地を広げて、土地を汚染しユグドラーシュを傷つけた。


 ユグドラーシュの傷から溢れたのは、生命の力ではなく、魔素と呼ばれるおそろしいものだった。


『ユグドラーシュが傷つくと、精霊王様も苦しみました。痛み、苦しみ、傷ついて、魔素が流れ出ました。私たちはユグドラーシュの傷を癒やし、精霊王様の傷を癒やしました。溢れ出た魔素は──』

「動物や、植物などを、魔獣に変えたのですね」

『ええ。森の民は、魔獣を刈り取ることを使命としていました。ジオスティル、あなたのウルフロッド家と協力関係にあった時代も、かつてはありました』

「森の民はもともとこの土地にいて……精霊王様を信仰していた。辺境伯家は森の民を知っていた。そして、協力関係にあった時代もあった」


 シャルロッテの言葉を通して、ジオスティルはサラマンドの声を聞いている。

 静かに頷くジオスティルの後ろを、アスラムとイリオスが歩いている。

 大怪我をした影響か、ややふらつくイリオスを、アスラムが支えている。


『ですが、あれは──私たちが魔素により竜に成り果てたあの日。突然、森の民の里は焼かれて──ユグドラーシュは燃やされました』

「ジオスティル様が生まれた日。森の民の里も、ユグドラーシュも焼かれた……」

「ジオスティルの生まれた日っていうと、今から二十三年前か。俺はまだ十三歳だな。ひどい嵐の日だった。魔獣の大量発生が起こって、親父が大慌てだった。あの時、確か……」

 

 イリオスが口を挟んだ。


「王都からの軍勢が、ウルフロッドに駐屯してたんじゃなかったか。ウルフロッドの奥様の臨月も重なって、旦那様はピリピリしてたのを覚えてる。まぁ、俺は子供だったから、あんまり関わらせてもらえなかったけどな」

「王都の軍勢が、森を焼いたのか……」


 ジオスティルが呟いた。


「わからないけどな。親父も関わらせてもらえなかったらしい。旦那様と、王都から来た──当時の王ディヴィアス様との間で話し合いが持たれていたようだな。まぁ、状況的に考えれば、王の指示で軍勢が来て、森が焼かれたんだろうけどな」

「なぜそんなことを。そのせいで、世界樹とやらが折れて、辺境がこんなことに……母上も、死んでしまった」

「そうか。俺がいなくなってから、色々あったんだな」

「イリオスは、皆の希望だった。イリオスが行方しれずになったことで、辺境の人々の心は折れてしまったんだ」

「そりゃ、俺に頼りすぎってもんだろ。そんなことで折れる心なんて、俺がいたとしてもそのうち折れてたよ」


 イリオスは両手をあげて肩をすくめた。

 確かにそうかもしれないと、シャルロッテは思う。

 それなら、自分はどうだろう。

 今のシャルロッテは、ジオスティルがいるから頑張ることができている。

 ジオスティルがいなくなれば、辺境の人々のように心が折れてしまうのだろうか。


「今は、シャルロッテが皆の希望になっている」

「精霊の声が聞こえるんだな、シャルロッテには。つまりは、森の民。森が焼かれて死んでしまったものたちの、生き残りか」

「……私のお祖母様には、精霊の声が聞こえたようです。お祖母様は森の民で、私はお祖母様の血を受け継いでいるのでしょう」


 お祖母様には一体どんな声が聞こえたのだろう。

 シャルロッテの祖母は、その力のために皆から慕われていたという。

 そのせいで、母には──どうやら憎まれていた。

 祖母に似た容姿で生まれてきたシャルロッテのことも、嫌うぐらいに。


『あなたがいたから、イリオスを救えた。そして私も救ってもらえました。あなたがジオスティルと出会ったのは、きっと運命なのでしょう』

「運命……」

 

 シャルロッテが辺境に来たのは、運命ではなくて偶然だ。

 妙な胸騒ぎを感じて、シャルロッテは腕に抱いているぷにちゃんをぎゅっと抱きしめた。



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