人材募集のフライヤー作成
ぷにちゃんの不思議な力によって、畑にはわさわさ作物が実って、林でみつけてきた木の実を植えるとそこは果樹園になった。
栗の木や、オレンジの木、レモンの木。木苺等々。
シャルロッテたちだけでは食べきれない木の実や野菜を収穫して、袋の中に入れる。
ゲルドの届けてくれる食料は保存のきくものばかりだ。
新鮮な果物やお野菜は食べられないのだとロサーナが言っていた。
だから、ミトレスに届けようということになった。
ロサーナやニケは、あの街の者たちに優しくすることに少し懐疑的だったが、「だからって独り占めはよくないですし、困っているのですから、お互い様です」とシャルロッテが説得して、納得したようだった。
「困っている時や苦しい時は、人に優しくできないものですから。それに、お野菜を渡しに行くのも、下心があるのですよ」
「下心?」
ジオスティルとシャルロッテは、夜の間は魔獣を討伐しながら交替で見張りを変わって、半々ぐらいでは眠っている。
そのせいかジオスティルも午前中には起きてきて、顔色もいいし元気な印象だった。
「はい。下心です」
会議室のテーブルに、シャルロッテは紙束を置いた。
ウルフロッド家のありがたいところは、食べ物以外の欲しいものが全て揃っているところだ。
紙とインク壺、ペンを並べるシャルロッテを、ジオスティルは不思議そうに見ていた。
『何をするつもりかしら、シャルロッテ』
「ぷぎゅ」
テーブルの上に乗っているぷにちゃんの上に、ウェルシュも寝ころんでいる。
「ジオスティル様、文字を教えて欲しいのですが……」
「文字を?」
「はい。私、文字は読めるのですが、あまり、書けません。ですから」
シャルロッテは、伯爵家にうまれながら文字も書けない自分を恥ずかしく思った。
けれどジオスティルはそれを笑うこともなく、哀れむこともなくただ頷いた。
「構わない」
「ありがとうございます!」
「なにを書けばいい?」
「人員募集、虹色水晶を加工できる職人の方。虹色水晶を採掘できる方。魔獣はジオスティル・ウルフロッドが責任を持って討伐します! 給金は要相談です。三食食事、お部屋もあります。あなたもウルフロッド家で働きませんか? お風呂もあります! また、畑づくりやお掃除などもできる方を募集しています、どなたでもかまいません、という感じで」
「……それでいいのか」
「な、何か変でしたでしょうか」
「いや。ずいぶん、明るい文章だなと」
「ギルドの人材募集の掲示板を参考に文章を考えたのですが……」
「ギルドとは?」
「人材斡旋所のことですね。大きな街には、必ずあります。傭兵や、食堂のお手伝いや町の清掃など、様々なお店の方々が人材を募集する場所なのですよ」
「君は物知りだな」
「そんなことはないのですが……」
ジオスティルがさらさらと、美しい文字でシャルロッテの頼んだ言葉を紙に書いてくれる。
シャルロッテはややたどたどしい文字で、それをまねて紙に書いた。
出来上がった紙の端に、ウルフロッド家の狼の紋章の印を、ジオスティルに押してもらう。
「これは、ミトレスの方々用の人材募集フライヤーです。ゲルドさんに運んでもらうのは、また違うものなのですよ」
「そちらも、作るのか?」
「はい。ついでに作りましょう。今度は、人材募集! ウルフロッド辺境伯領での魔獣討伐。腕に自慢がある方を募集します。あなたも一緒に、辺境の地を守りませんか? 食事、お給金、お部屋は保証します! という感じで」
「人が来るとは思えない」
「そんなことはないですよ、ジオスティル様。王国には、行くあてがなくて困っている方も多くいると思うのです。私のように。それに、腕試ししたい方もいるんじゃないかなって」
シャルロッテの丸みを帯びた文字で書かれたフライヤーが何枚も作られて、積み上げられていく。
「そういえば、ジオスティル様。ウルフロッド家の紋章は、狼なのですね」
「あぁ。ウルフロッド。狼の杖。土地が、このような形だ」
ジオスティルは紙に、土地の絵を描いた。
狼の頭に背中。それから、尻尾が杖のように伸びている。
「首の部分に、ウルフロッド家がある。頭の部分が……ウェルシュが言っていた、世界樹の森。誰も足を踏み入れない森だ。背中から杖にかけても、森がある。虹色水晶の洞窟は、ここ。湾曲した背中の上が山脈になっていて、いくつもの洞窟がある」
「とってもわかりやすいです。この地図、いただいてもいいですか?」
「落書きだが」
「とってもわかりやすい地図です。私……こうやって、ゆっくり物事を教えて頂くのって、はじめてです。宝物にしますね」
「あぁ。……もっと、まともなものを贈りたかったな」
「十分すぎるほど素敵な贈り物ですよ! ジオスティル様、落ち着いたらもっとたくさん、お勉強を教えてくれますか? あ、あの……もしよければ、ですが」
「俺が教えられる程度のことであれば、もちろん」
シャルロッテはジオスティルの描いてくれた地図を眺めて、ふと思い立ったように文字だけを書いていた紙に、ぷにちゃんとウェルシュの絵を描きたした。
『シャルロッテ、これはなに』
「ぴぃ」
「これは、ぷにちゃんとウェルシュですよ。文字だけよりも、親しみやすい感じがするかなって思いまして」
「……かたつむりではないのか」
「かたつむりではないです」
生真面目な顔をしていたジオスティルが、堪えきれないように口を押えて笑い出した。
「えっ、変ですか……!?」
「可愛いと思う」
できあがったフライアーを抱えて、シャルロッテはニケたちに出かけてくると伝えると、野菜の入った袋を持ってミトレスに向かった。
(約束というものは、なんだか嬉しいわね。ずっと、一緒にいてもいいと言われているみたいだもの)
エルフェンスに乗り空を駆けながら、シャルロッテはそんなことを考えていた。
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