シャルロッテ、叱られる
シャルロッテは、皆で集まって話し合いをする会議室を作った。
一階の空き部屋――元々はおそらく使用人たちの連絡部屋だったのだろう、椅子とテーブルと黒板の置かれている部屋である。
黒板には今日の日付。それからやるべきことを書いた。
『虹色水晶の洞窟に住み着いた魔獣を倒して、虹色水晶を採取できるようにする』
『ゲルドが来るまでに、人材募集の紙を作る』
『畑を広げて、魚を釣って保存食にする』
『できればお肉も確保する』
そこまで書き終わって皆で確認し合うと、その日は解散となった。
ロサーナとニケと別れたシャルロッテは、もう一度畑を見に行こうとしたところで、ジオスティルに呼び止められた。
「シャルロッテ、話がある」
「はい」
今日もニケはシャルロッテと一緒に風呂にはいると言っていたが、ロサーナに「シャルロッテ様もたまには一人でゆっくりしたいのよ、ニケ、今日は私と入りましょう」と言われてすぐに納得していた。
ウェルシュとぷにちゃんはニケの手に抱かれていて、そのまま皆で出て行ってしまったので、今はジオスティルと二人きりだ。
会議室の扉がぱたんと閉まり、二人きりで部屋に残される。
西日が会議室を橙色に染めて、ロサーナが黒板に書いてくれた文字を優しく照らしていた。
「話とはなんでしょうか、ジオスティル様」
「……怪我をしたか?」
「怪我……?」
シャルロッテは瞼をぱちぱちさせた。
物憂げな瞳がじっとシャルロッテを見下ろしていている。
そういえばジオスティルは、起きてきた時からシャルロッテに何かを言いたげにしていた。
怪我について聞きたかったのだろうか。
でも怪我――何のことか考えて、そういえば魔獣を倒した時に腕や足が少し焼けたのだと思い出した。
ついさきほどのことだったのだが、ウェルシュがすぐさま怪我を治してしまったので、忘れていた。
たしかに、焼け爛れたときは痛かったように思う。
それも一瞬だったから、あまり気にしていなかった。
誰もジオスティルにシャルロッテが魔獣と戦ったことを伝えていなかったので、気付かれないままですむと思っていたのに。
「皆の前で、君を責めるのはいけないと思い、黙っていた。だが……怪我をしただろう、シャルロッテ。服の端が、少し、切れている。何かに焼かれたような切れ方だ。何があった?」
「……あ、本当だ。ごめんなさい、ジオスティル様……このお仕着せは、ウルフロッド家のもので、借り物なのに……」
ジオスティルがシャルロッテのスカートを掴む。
確かに、スカートの一部が焦げたようにして切れている。
しょんぼりするシャルロッテの両手を、ジオスティルが握った。
「転んだわけでもないだろう。この焼け方は……ぷにちゃんが、攻撃を」
「違います。ぷにちゃんはいい子です」
シャルロッテは首を振った。
ぷにぷにの出す溶解液で怪我をしたのだと、ジオスティルに気づかれてしまっている。
ごまかすことは難しいだろう。
「では、魔獣が出たのか」
「……はい」
「君が倒したのか」
「はい……クワで」
「どうして俺を呼ばなかった」
「それは……」
「俺は、そんなに頼りないのか、シャルロッテ」
ジオスティルは俯くと、シャルロッテの肩に額を乗せた。
金色のさらさらの髪の毛が頬に触れる。
シャルロッテはその肩におずおずと手を回すと、優しく撫でた。
「頼りなくなんてないです。ジオスティル様がお強いこと、分かっていますから」
「では、何故……!」
「ジオスティル様一人に、全てを押し付けるのは嫌なんです。私ができることは、私がしたいのです」
「魔獣は危険だ。君は、怪我を……」
「ウェルシュがすぐになおしてくれましたし、大丈夫ですよ。私も戦えます」
「……俺が、嫌だ。君が怪我をして……もし、死んでしまったら。ウルフロッド家の者たちのように、俺が、守ることができずに……俺が寝ている間に、君が死んでしまったらと思うと……」
その声は、震えていた。
ジオスティルの傷を抉るようなことをしてしまったのかもしれない。
それでも――シャルロッテは、ジオスティル一人に戦わせるのは嫌だと思った。
魔法が使えるから。強いから。人とは違うから。
だからといって、一人で全てを背負う必要はないのだから。
「私は死にません、約束します。大丈夫ですよ、ジオスティル様。本当に危険な時はちゃんと呼びます。今日倒した魔獣は、大ぷにぷにという名前をつけたんですけど、クワで一撃で倒せましたから」
「駄目だ、シャルロッテ。俺が、君を守る。約束をした。どんな時でも、俺を呼んでくれ」
「……ありがとうございます」
「魔獣と戦うような危険なことはしないと約束をしてくれ。いや、違うな。俺がいつでも君の傍にいることができるように、ならなくてはいけないのだろうな。勇敢で無謀な君を、守ることができるように」
ジオスティルはそう言うと、シャルロッテから体を離した。
それから「君が無事でよかった」と、心底安堵したように呟いた。
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