辺境伯家はお金持ち
ぷにぷにの魔獣を倒すことができたシャルロッテは、乱れた服を整えて、安堵のため息をはぁぁとついた。
ぷにちゃんがぴったりとシャルロッテにくっついて、ぽろぽろ泣きながら「ぴぐぉ」と、何かしら訴えかけてくる。
多分「ありがとう」とか「助けてくれて嬉しい」とか、そんな意味だろう。
「今のぷにぷには、弱い魔獣なのでしょうね、きっと」
シャルロッテは魔獣をクワで倒したが、それは相手が少し大きいサイズのぷにぷにだったからだ。
ミトレスに襲来したような魔獣に、クワで勝てるとは思わない。
「名前がないと不便ですから、大ぷにぷにと呼びましょう。大ぷにぷにはクワで倒せる……でも、口から液体を吐くので注意です」
「溶解液だね」
「ようかい?」
「うん。溶かす液体のこと。ロッテ、痛かったよね。大丈夫?」
「ウェルシュが治してくれましたから、大丈夫ですよ」
『治したけれど、痛いでしょう? シャルロッテの馬鹿! ジオスティルを呼んでくれば、怪我なんてしなくてすんだのに』
ウェルシュはまだ怒っているようで、シャルロッテの髪を引っ張りながら文句を言う。
「心配してくれてありがとうございます、でも、大ぷにぷにが倒せることがわかってよかったです」
『あなたはもう少し、自分を大切にしなさい』
「していますよ。でも、私を大切に思うぐらいに、私はみんなが大切です。私ができることなら、私がしたいんです」
『後で、ジオスティルに怒られるからね』
ウェルシュは魔法を使って疲れたのだろう、ぷにちゃんの上に降りるとぷにぷにの体の上で丸まった。
「ウェルシュは、なんて?」
「怒られましたし、後でジオスティル様にも怒られるって」
「うん。私も、危ないことをするとお母さんによく怒られてた。でも、すごいねシャルロッテ。魔獣に立ち向かうなんて、昔はたくさんいた、ウルフロッドの騎士様たちみたいだ」
「ウルフロッドの騎士様?」
「私がもっと小さい頃、騎士様たちがいて。騎士様たちは、魔獣から街を守ってくれていたんだよ。もうみんな、死んでしまったか、逃げてしまったんだけど」
「そうなのですね……」
確かに、災禍が起こる前からもウルフロッドには魔獣が出ていたのだという。
ウルフロッドの兵士たちは、魔獣と戦っていた。
この兵士のことを、ニケは騎士様と呼んでいるのだろう。
何事もなかったように静かになった庭で、シャルロッテは畑を耕した。
ニケは倉庫から持ってきた袋に入った沢山のタネの分類をしてくれている。
袋の中に木板に何の種なのかを書いたものを入れておけば、いつ誰が見てもそれが何の種なのかがわかる。
「お母さんの話では、ウルフロッド騎士団の一番強い騎士様が──魔獣に食べられてしまって、それを見た騎士様たちが怖がって、戦えなくなって、どんどん逃げてしまったんだって」
「一番強い騎士様」
「私は見たことがないけどね。確か、イリオス様って名前だったかな」
「イリオス様……」
シャルロッテは剣を使ったことがない。
騎士様であれば、剣や弓などで魔獣と戦うことができるだろう。
「私も剣の扱いを覚えたいですね。畑を広げたら、もう少し辺境伯家を探索してみましょう。武器はあったほうがいいです」
「私も! 私もロッテみたいに、戦いたい。ぷにぷにぐらいなら、倒せるよ! ばしゅ! ってね!」
「ニケは危ないことはしてはいけません」
「お母さんと同じことをいうけど、私だって役に立ちたいんだよ」
「ニケ……わかりました。ありがとうございます」
昼過ぎまでかかって、元の畑をさらに広げた。
新しく耕した畑に種を植えて、ぷにちゃんが水を撒くと、ぴょんぴょんと土から芽がはえてくる。
草刈りの最中に、雑草の中に埋まって見えなくなっていた木苺を見つけたニケは、カゴに木苺をたくさん摘んだ。
手を洗って、館の中に戻ると、ロサーナがパンケーキを焼いて、レモンクリームソースをかけて木苺をトッピングしてくれた。
ジオスティルも目覚めてきたので、一緒に食事をする。
「果物の木というのは、いいですね。ぷにちゃんが植物を育てる力があるというのなら、果物の木を植えれば……りんごやレモンや、みかんなどは毎年実りますし。芋は保存食になりますし、根菜なども保存がききます。トウモロコシは粉にして、小麦からもパンが作れます」
「ロサーナさんのご飯、美味しいです。お母さんに作ってもらっているみたいで……」
「ふふ、そう思ってくれると嬉しいですよ。シャルロッテ様、たくさん食べてくださいね」
「はい、ありがとうございます。畑作りが落ち着いたら、私もお手伝いしますからね。本当は、ロサーナさんは服飾のお仕事をしたいかもしれないのに、時間がないですよね」
「気にしないでください。料理も洗濯も掃除も、大切な仕事です」
「人手が、もう少しあれば……」
パンケーキを食べながらシャルロッテは呟いた。
魔獣は、ジオスティルではなくても倒すことができる。
この国には騎士がいて、腕自慢のものだってたくさんいるだろう。
もしかしたら──仕事をしたいと思っている者も、いるかもしれない。
「ジオスティル様、辺境伯家はお金、ありますか?」
「あぁ。金はある。使い道はない。今は、ゲルドに支払うぐらいにしか使っていない」
「それです!」
「それ?」
「はい! 人を雇いましょう、ジオスティル様!」
シャルロッテが大きな声を出したので、眠っていたウェルシュが『騒がしいわね……』と、不機嫌そうに呟いた。
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