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新しい友人



 ジオスティルが魔獣たちの間を飛ぶと背中からはえた翼が紫色に燃え上がり、道のように抉られた両脇の魔獣たちでできた壁を、ブワッと炎で包み込む。


 熱さは感じない。奇怪な声と断末魔が聞こえるだけだ。

 その合間をまっすぐに、森へ向かって駆ける。


 晴れているのにどこか黒々と見える木々が、風に揺れる葉が、シャルロッテたちに向かい手を伸ばしているかのように見えた。


 獣道さえない森では、馬も天馬も駆けることができない。

 森に入ると馬たちを逃した。蒼月は心配するようにシャルロッテの体に鼻先を寄せて、それから二頭の馬を誘導するようにして森から離れていく。


 ジオスティルを先頭に、イリオスを最後尾に、森の奥へと進んだ。

 荷物を乗せたエルフェンスが、シャルロッテの横に寄り添うようにしてついてきている。

 

 靴底が落ち葉や湿った土や、枯れ枝を踏み締める。

 人の手が入らない森は木々が鬱蒼としげり、光が入らない。

 空を見上げると枝葉で覆われていて、まだ昼間にもならないはずなのに、光が遮られているせいで暗かった。


 靴底から寒々とした冷気が背筋を這い登ってくる。

 風のざわめきや、歩みを進める靴音以外は静まり返っている。


「ウェルシュ、アマルダ、ユグドラーシュは森の奥にあるのですか?」


『うん。そうよ。森の奥。一番奥にね』


『精霊王様がいらっしゃった時は、美しい森だったの。私たちの仲間が、森の中を飛んでいた。鹿や、ウサギがいて、綺麗な川が流れていた。川で遊ぶのが、好きだったわ』


 アマルダとウェルシュが、シャルロッテの問いに答える。

 今は、美しい森とはとても言えない。

 木々の隙間から、爛々と瞳を輝かせて、魔獣たちがこちらを窺っているように感じられる。

 

 道なき道を進んでいくと、下り坂に差し掛かる。崖のようになっていて、崖下には平坦な道が続いている。


「……迂回してもいいが、時間が惜しい。おりよう」


 ジオスティルは軽々と、シャルロッテの体を抱えあげる。

 エルフェンスが乗ってくれというように、イリオスたちの前で頭をさげた。


 イリオスとシャリオはその背に乗せられている荷物を避けるようにして、エルフェンスの上に乗った。

 

 ジオスティルがひらりと崖下へと飛び降りる。

 すぐに浮遊感に襲われて、シャルロッテはその首にぎゅっと抱きついた。


「……久々に、君に触れた気がする」


 耳元で小さく囁かれて、シャルロッテはびくりと体を震わせた。

 気持ちを確かめ合ったのが、遠い昔のような気がしてくる。

 あれからさほど時間は経っていないのに、目まぐるしく、いろいろなことが起こったせいだろう。


「ジオ様、私は……いつでも、あなたのそばにいます」


「あぁ。俺も、同じ。それだけは、変わらないと約束する」


「はい……」

 

 シャルロッテは頷いた。

 胸の内に、小さな不安の種が芽吹く。

 森の中にいるジオスティルは、いつもよりもどこか神聖さを帯びている。


 このまま森の奥へとふらりと消えていなくなってしまうような、危うさがある。

 そんな気がしているのはシャルロッテだけなのだろう。きっと、考えすぎだ。

シャルロッテが落ちないようにときつく抱きつくと、ジオスティルはいつもと変わらずに恥ずかしそうに眉を寄せた。


「いいなぁ、坊ちゃん。俺も可愛い女の子を抱きしめたい」


「イリオス。シャルは、駄目だ」


「わかってるって。殿下には、奥様はいらっしゃらないんですか? 勝手なイメージですけど、国王陛下や王太子殿下は、美しい女性をこう、侍らせてる感じがするんですが」


 持ち前の気安さで、イリオスがエルフェンスから降りてくるシャリオに話しかける。

 シャリオは特に気を悪くした風もなく、軽く首を振った。


「結婚の話は、幾度か出た。私に、娘を紹介したいという貴族も多かった。だが、どうにも……忙しさを言い訳にして、避けていたような気がする」


「それはまた、何故ですか? 俺なら、可愛くて性格のいい子がいれば、すぐに結婚を……」


「イリオスも、魔獣の討伐で自分のことどころではなかったはずだ。殿下も同じでは」


「それもそうか」


 ジオスティルに言われて、イリオスは頷いた。

 シャリオはそんな二人のやり取りを見て、穏やかに微笑んだ。


「気をつかわせて、すまない。私にも、よくわからないんだ。父が玉座に座れなくなってからずっと、私が父の代理をしていた。忙しかったのは確かだが、妻を娶る暇がなかったというわけではない。ただ、苦手だったのかもしれない。私を、神と崇める女性たちと共にいることが」


「皆が、シャリオ様をそのような目で見ていたのですか?」


「あぁ。ここにいるものたちとは違う。シャルロッテ、君も私を神とは思わないだろう?」


「はい。……そうですね、不敬なことかもしれませんが、どうにもよくわからなくて」


「不敬ではない。むしろ、心地がいい。人は神にはなれないのだと、私が口にしても、それをまともに理解してくれようとしているのは、城の中ではルベルトぐらいだった」


「信頼していらっしゃるのですね」


「あぁ。友人だ。……そして、君たちも」


 友人だと言って笑うシャリオは、今までで一番肩の力が抜けているように見えた。

 立ち止まり、シャリオはジオスティルに向かい手を伸ばす。

 ジオスティルはその手を握って、握手を交わした。

 

 イリオスがほっとしたような顔をして、シャルロッテの肩に手を置いた。


 

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