内乱の失敗
◇
そこまで話し終えたところで、シャリオは深く息をついた。
「秘密裏に準備を進めた。父が一人になる時間を探った。だが、父は森の民を滅ぼしたあとから、異様に過敏になっている。怯えている故に、隙がない。結局――隙がないのなら作るしかないと、久々に酒を飲みましょうと、私は父を誘った」
果たして己の実父に刃を向けられるものか。
悩んだ末にシャリオは、父の杯に毒を仕込むことにした。
苦渋の決断である。本当は命など奪わずに、拘束し幽閉をしたかった。
だが、アステリオスが生きて、牢獄からでも声を発する限りは、シャリオは逆賊であり誰もシャリオに従わないだろう。
その冠を無理やりもぎ取る必要があった。
毒殺と病死の境は曖昧だ。死したアステリオスの体に触れられるのは、王家の血を引いたシャリオしかいない。
――そう。
シャリオしかいないのだ。
だから、シャリオが病死と言えばそれは病死と判断される。
ルベルトに命じて毒を入手した。杯に塗り、酒を注ぎ父に渡す。
酒を渡された父はその酒を一口も飲むことなく、観賞魚の水槽へといれた。
魚たちは、すぐにぷかりと水面に白い腹を晒して浮かび上がった。
「シャリオ、どういうつもりだ?」
「父上、いや、アステリオス。あなたを王に戴いたままではこの国は本当に滅ぶ。私は、民のためにあなたを討たなくてはいけない!」
シャリオは隠していた懐刀を取り出して、アステリオスに向ける。
アステリオスが「シャリオを捕らえろ! 殺せ!」と叫ぶ。すぐに兵士たちが部屋になだれ込んできた。
シャリオはアステリオスに向けていたナイフを、兵士たちに向けなくてはいけなかった。
すぐにルベルトがシャリオを救出にやってくる。兵士たちを背後から強襲し、鎧のつなぎ目を狙い剣を突き刺し、斬った。
怒声と呻き声と血しぶきの中、シャリオは追いすがってくる兵士たちを突き飛ばし、ルベルトと共に逃げた。
仕損じた時のため、逃亡路の先に用意していた馬に、馬と共に用意していた剣を腰にさげ、ローブを纏い飛び乗った。
アステリオスは、シャリオの動向に気づいていたのかもしれない。
どこかから、情報が漏れていたのか。ルベルトが漏らしていたとはとても考えられないから、密談を聞かれていたと考えるのが正しいのだろう。
明日辺境に向かう。早く休めと伝えていた筈の騎士団の反応が、妙に早かった。
王都を出たころには、すでに追手の足音がすぐそこまで迫っていた。
「私たちを追っていたのは、アステリオスに討伐命令を出された騎士団の者たちだ。指揮していたのは、騎士団長のライネル。実直な男でな、融通がきかない。追えと言われれば、どこまでも追い続ける」
「我が家、グリンフェルド家に逃げ込むこともできません。父や兄は、きっと私たちを騎士団に差し出すでしょう。この上は、辺境に向かい、ウルフロッド辺境伯に助けを求めるしかないと、判断をしました」
「私は、君を知らない。だが、他にいい方法も思いつかない。今まで辺境に助力もしなかったくせに、虫のいい話だとは思うが……」
疲れに膿んだ表情で、シャリオは肩を落とした。
王国のために実父を殺そうとした男の失意の感情が、その表情や力ない声からひしひしと伝わってくる。
「実を言えば、辺境に軍を向けられていることは知っていました。誤解を解くため、そして苦境からこの国を救うために、殿下と話し合うつもりでいたのです。そのため、今朝、辺境を経ちました」
ジオスティルはあまり表情を変えずに、静かに言った。
「どこまで何ができるかは分かりませんが、ウルフロッドにおいでください、殿下。俺たちの知ることを、説明させていただきたい」
「信じてくれるのか?」
「はい。……シャルは、どう思う?」
ジオスティルに問われて、シャルロッテは驚いた。
ここにいるのは王族や貴族。シャルロッテが口を出せるような状況ではないと考えていた。
ジオスティルの判断に従おうと、シャリオの苦渋に心を痛め、アルシアたちの動向にやや青ざめながらも、口を閉じていたのだ。
「私も、同じです。ジオ様の判断が正しいと考えています」
「……私たちを匿うということは、王を敵に回すということだ」
眉を寄せ、苦し気にそういうシャリオに、ジオスティルは静かな視線を向ける。
「どのみち、辺境を滅ぼそうとしているのでしょう、国王陛下は。そんな状況で、殿下が味方になってくれるのなら心強く思います」
「私とルベルト、たった二人だ」
「辺境では戦えるものは数えるほどしかいません。二人でも、十分ありがたいと考えています」
そう、ジオスティルは穏やかに言った。




