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亡命者



 ウルフロッドでは、朝から皆賑やかだ。

 ハンナとアイーダが朝食の用意をして、ロサーナとベルーナがニケとテレーズの朝の支度をしている。

 シルヴェスタンが前庭に新たに家を建築するため、木を切る音が響いている。

 シルヴェスタンの傍には、材木を運んだり高い場所の作業をするために、エルフェンスたちが待機している。

 彼は今度は「店を作って、家を作るつもりだ」と言っていた。


 そこではロサーナが服を売ったり、ベルーナが料理を売ったり、ロベルトが宝飾品を売ったりするらしい。

 いつまでもウルフロッドの屋敷に居候しているわけにはいかない。

 人が増えたところで街を広げていこうと――アスラムたちとの話し合いで決まったようである。


 これからもっと移住者が増えた場合、街は必要になる。

 まだ、街ともいえない。小さな集落ではあるが、安全なウルフロッド辺境伯家の敷地から徐々に、ミトレスの街のように、街を復興させていきたいという希望が、ミトレスの者たちにはあるようだ。


 新しく来た者たちも、それぞれの仕事をしている。

 テオは荒れ放題だった庭木を整えて、土を耕して畑を広げる手伝いをしている。


 ニケとテレーズが最近ではいつも抱えているぷにちゃんの降らせる水が、植物の生育を手助けする力がある様子を見ると、腰を抜かすぐらいに驚いて「テオおじいちゃん大丈夫?」「おじいちゃん、腰がギックリするよ」と心配されていた。


 ゲルドやイリオスは、ウィリアムと共に武器の手入れや物資の確認を行っている。

 魔獣を討伐しながら、モネと共に大精霊を探しに行くという。

 心配するシャルロッテに、危険があればすぐに戻ると約束をしてくれた。


「お前たちが不在の間は、俺たちに任せておくといい。だが、お前たちがいなくなれば辺境は立ち行かなくなる。ジオスティル、シャルロッテ。お前たちこそ、危険があればすぐに戻れ」


「あぁ。ありがとう、アスラム」


「ありがとうございます、行ってきますね」


 シャルロッテは蒼月に乗り、ジオスティルは背中から黒い翼をはやした。

 ジオスティルのその姿に見慣れているニケたちは「ジオスティル様、鳥みたい」「大きな黒い鳥みたい」と喜んで、魔法を見慣れていない新しい移住者たちは驚いていた。


 王太子の説得のため、ウェルシュとアマルダはシャルロッテの肩に乗っている。

 ただ言葉で説明するよりも、精霊の姿を見て貰ったほうが早いだろうという判断からだ。

 

 ウルフロッドから飛び立ち、王都に向けて空を進む。

 蒼月は美しく翼を広げて、大地を駆けるように空を駆けた。

 その翼や体には、魔力の粒子を纏っている。それは目視できるもので、蒼月の体を白く光らせていた。


「君のその姿は美しいが、心配だな。……落ちないように、気をつけて」


「はい。ありがとうございます。こんな時なのに、ジオ様と二人で飛ぶのは楽しいですね。あなたの傍に、近づけるようで」


「……馬に翼をはやして喜ばれるとは考えたこともなかった。俺の力は恐ろしいと思われるだけのものだと、思っていた。この国には色々な人が、いるのだな」


「モネさんはとても素敵な女性ですね。私も大好きです……ジオ様、実は、その」


「ん?」


 口ごもるシャルロッテの傍に、ジオスティルが近づく。

 身一つで空に浮かんでいるジオスティルの姿は、どことなく神々しい。


「私、モネさんに嫉妬をして。すごく反省、しています」


「嫉妬?」


「は、はい。モネさんはとても魅力的な女性ですから、ジオ様はモネさんのことを好きになってしまうのではないかと、思って……」


 今となっては、そんなことを考えて胸を痛めていたことが恥ずかしい。

 それに、モネにも申し訳ない。

 懺悔をするようにそう告げると、ジオスティルの顔がわかりやすく赤く染まった。


「……シャル、今……そのような嬉しいことを言われると、真面目な顔ができなくなってしまう」


「今のは、反省です。嬉しいことでは……」


「俺にとっては、とても嬉しいことだ。君は俺を……その、好ましく思ってくれていた、ということ、だと……思ってもいい、のだと……」


「え……あっ! は、はい」


『どうして困っているの?』


『二人とも、どうしたの?』


 互いに視線を逸らして黙り込むジオスティルとシャルロッテに、ウェルシュとアマルダが不思議そうに尋ねる。


『ニンゲンは、不思議ね』


『二人とも、仲良しだったのに。最近は少し変』


『変なのね』


『変よ』


『でも、嫌いじゃない。ニンゲンは嫌いだけど、ロッテたちは好き』


『ニンゲンは残酷だけど、ロッテたちは優しいものね』


 ウェルシュとアマルダが二人で話し合っている声が、シャルロッテの頭の中に響く。

 ウェルシュは王都で嫌な光景を見た。

 だから余計に、人間に対して悪感情を抱くようになってしまったようだ。

 悪い人ばかりではない。いい人のほうがずっと多いのだと、シャルロッテは信じている。

 

 だからきっと、王太子もジオスティルの話を聞いてくれるはずだ。


 ウルフロッドと王国を結ぶ大橋を通り過ぎて、王都へ進んでいく。

 ふと、眼下を見下ろした。

 雲の間から、豆粒のような人影が見える。

 そして――騎兵たちに追われている二騎の騎馬に気づいた。



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