06.命ある限り
捕縛部隊が幻想騎士達を捕らえてから数日後。
イシェインとヴァランカ、ベラーノの姿は城にあった。
それぞれの幻晶花は、捕縛部隊と共に行動していた三人の見習い聖女――幼聖に握られている。
その為奇跡の力は制限されているが、日常生活を送る事に支障はなかった。
「今日もまた実験台にされるのかしら」
ため息と共に、憂鬱そうにイシェインが零す。それにヴァランカは肩をすくめて答えた。
「拷問されないだけマシですよ。実験と言っても鍛錬の延長線ですし、四肢が欠損するような大怪我をするリスクはありません。ジロジロ無遠慮に見られるのは不快ですが、人並みに衣食住を与えられている今、大きな声で文句は言えませんね」
戦争が生み出した負の遺産、そのような認識をされている幻想騎士が人間と同じ扱いを受けているのは、単に王の意向があっての事だった。
スプレンド=リオス二世は捕らえられた幻想騎士を前に、こう言った。
『幻想騎士達よ、我が国の安寧のために、今一度その身を捧げよ』
「自分勝手にも程があるわ」
頬を膨らませて不満を露わにするイシェインに、ヴァランカは困ったように微笑み、ベラーノは膨らんだ頬をぷにっと指で突いた。
途端に口からぷすっと空気が抜ける間抜けな音が聞こえ、イシェインは顔を赤くしてベラーノの両頬を掴み引っ張る。ヴァランカは笑いを堪えるように口に手を当て震えていた。
「痛い痛い! 千切れる」
「奇跡は使ってないから千切れないわよ、安心しなさい」
「顔面を拳で破砕する貴方の言葉は信用できませんね」
戯れる幻想騎士達を、行き交う普通の騎士達は遠巻きに眺める。人の姿をした化け物を見るような目つきで。
騎士ではない侍女や執事達も、近くを通る事はしない。猛獣を恐れるかの如く、足早に隣を通り過ぎるか、遠回りをして離れていく。
ここに安寧の場所はない。
それは三人の幻想騎士が抱く共通の思いだった。
「いつか絶対に、皆を連れて終焉の地を目指しましょう」
城に着くなり取り上げられてしまった、仲間達の生きた証。それを取り返し、再び終焉の地を目指す。
ふざけあっていたイシェインとベラーノは、ヴァランカを、幻想騎士達を統べる団長であった彼を見て頷いた。
今はもう三人しかいない、幻想騎士団。
彼らの目的は、愛しき国を守る事ではなく、誇り高く生きた同胞を永遠の安らぎが約束された場所に連れていく事になっていた。
「今はまだ、その時ではないので大人しくしていましょう」
女神のように美しく、絵画に描かれた天使のような綺麗な笑みを浮かべて、ヴァランカは言う。
その黄昏色の瞳の奥に、決して揺らぐことのない信念を灯して。
その光は、イシェインのローズピンクの瞳にも、ベラーノのサファイアブルーの瞳にも宿っていた。
今はまだ、牙を隠し、爪を潜め、従順な奴隷のフリをして。
いつかその時が来たら、自分たちの望みの為に。